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◇388 ハゴ・イーター

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 目の前に底知れない暗闇、いわゆる暗黒空間が広がっていた。
 鋭い白い牙が剥き出しになり、アキラとNightを大口を開いて喰い殺そうとしていた。

「「マズい!」」

 二人は振り返ったことで逃げるのが少し遅れた。
 これは普通に逃げても助からない。そう思ったので、各々右と左に飛んだ。

「「ぐはっ!」」

 二人は嗚咽を漏らした。受け身を取ることを忘れ、とにかく喰われないように左右に逃げたのだ。
 そのおかげか、巨大な口は二人の間をすり抜ける。如何やら助かったらしい。
 だが、危機はまだ去っていなかった。
 超高速ではためかされる左右二枚ずつ計四枚の羽が振動波を生み、左右に飛んだアキラとNightの耳をつんざいた。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 二人は耳を塞ぐ。頭が砕ける。脳が焼ける。目を開いていられない程余裕が皆無と化し、突然の襲撃者に圧倒される形となった。
 このモンスター強い。一体何処から来たのか。Nightの頭の中をグルグルと回る中、急降下からの急上昇を軽く披露し、大空に舞い上がる。
 その全身が何処となく羽子板に似ていた。それを一瞬のうちに目に焼き付けると、Nightはモンスターの名前を即座にネットにアクセスして調べる。

「大丈夫ですか、アキラさんNightさん」
「うん、大丈夫だよ。危なかったけどね」

 雷斬が駆け寄ってくれる。
 アキラは無事を伝えると、Nightに視線を移す。
 キーボードを打ち、ネットで必死に調べる。約一分の時間が経過。
 合致するモンスターの情報を運営側が公式に公開しているデータベースにて名前を知ることができた。

「分かったぞ。あのモンスターはハゴ・イーター」
「ハゴ・イーター?」
「モチーフは考えなくても羽子板だよね? お正月らしいけど……全然面影がない」

 大空に舞い上がってしまいしばしの安堵が訪れていた。
 しかしながらそれは奇襲の危険が待ち構えていることに直結する。
 いつ姿を現すのか、それすら分からないまま目を血眼に変え、周囲を警戒するしかなかった。

「恐らくアレが季節限定のモンスターでしょうね」
「そうだろうな。フェルノ、雷斬、目で追えたか?」
「まあねー。でもさー」
「はい。ギリギリでした。奇襲の際は一切気が付くことも……すみません」
「謝るな。だが二人の目でギリギリ追えるのは……」
「かなりピンチよね。……仕方ないわね。私の【風読み】で襲撃を予測するしかないわね」

 確かにベルが頼りだった。
 ベルの【風読み】を使って風を読めば襲撃をある程度予測はできる。
 けれどそれをしたとしてもハゴ・イーター相手にはスピードが桁違いで倒せる未来が視えなかった。

「如何しましょうか」
「それは……ん?」
「来るわよ。風が変わったわ」

 スパンが早すぎる。
 あれからまだ五分くらいしか経っていなかった。
 風が一瞬で変貌し、先程と同じで嵐を巻き起こす。

「今なら逃げられるかな?」
「いや、無理だ。あのスピード、私たちでは避けきれないだろ」

 Nightはアキラたちの不安をより一層濃くした。
 あのスピードを逃げ切ることはできない。
 アキラたちの顔色が不穏に変わると、羽音が振動波を呼んで舞い降りた。

「来るぞ!」

 Nightが叫ぶ。すると背後にハゴ・イーターの姿があった。
 大口を開き再びアキラたちを喰い殺そうとする。
 けれどアキラたちも何もしない訳ではなかった。
 特に雷斬は居合の構えを取り、フェルノも炎を燃やして煌々とたぎらせていた。

「雷閃!」
「そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 雷斬は何か型のようなものを、アキラは無作為にストレートパンチを繰り出す。
 ハゴ・イーターの大口目掛けて突きつけるものの、咄嗟に二人は身を翻した。
 何かマズいものを感じたのか、一瞬腕が吸い込まれそうになっていたのだ。
 如何言う理屈かは知らないが、二人の攻撃はハゴ・イーターの側面に叩き込まれる。

 ジッ!

 熱で焼けたような音がした。
 けれどハゴ・イーターは一切怯む様子も見せてくれない。
 そのまま獲物を何も捕えきれずに再び大空に舞い上がる。
 全身が嵐によって巻き起こった荒ぶる風に苛まれ、肌がピリピリしてしまう。

「逃げられましたね」
「残念だなー。ちゃんとヒットできたら大ダメージだったのに」

 雷斬とフェルノは不満そうな顔をする。
 一体如何したら倒せるのか。二人が避けた理由も気になるが、それを追求するのはベルだった。

「ちょっと雷斬。雷閃を使ったのに、如何して倒せなかったのよ?」
「すみません。ですがあのモンスターは正面から当たるのは危険ですよ」
「それは見てたら分かったわよ。でもわざわざ避けなくても……」
「避けるしかなかったんだよー。あの大口、私たちのこと飲み込もうとしたんだよー。そんなの避けるしかないってー」
「……それじゃあ何をしたら良いのよ」
「さあねー」

 完全にお手上げだった。
 ここはNightを頼ることになりそうだと、アキラは視線を配った。
 すると顎に手を置き何か考えている。視線がチラチラ奥に見える森を見ているので、結び付ける気なんだと推測して次の襲撃を待つしかなかった。
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