VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇383 フェルノは冴えている

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 結局何もできなかった。
 アキラを幾ら攻撃しても、【半液状化】でスライムになっている限りは意味がないことを蜂たちも悟ってしまった。
 そのため最初は囲まれていたが次第に数を減らし、全部巣に戻って完全に解放されてしまった。その間ダメージを受けることはなかったが、やっぱり不快ではあった。

「ふぅ、全然ダメだったよ」
「お疲れー。色々大変だったねー」
「うん。二度とごめんだよ」
「だろうねー。んで、如何するのー?」

 フェルノはアキラに尋ねた。しかしながらここから先の作戦なんてあるはずもない。
 もちろんアキラだけではなかった。尋ねたフェルノもそうだが、雷斬に視線を向けると目を伏せられてしまった。これは誰も思いついていない証拠だ。
それから時間だけが経った。結局誰も何も言わなかった。

「あー、如何しよう」
「如何しようって言われても、私たちなんの装備も持って来てないよ? 作戦も思いつかないし」
「そうですね。ですが仮に装備があったとしても、今の状態では装備できませんよ」
「確かに。それじゃあ……ん?」

 フェルノが何か言いたそうにしていた。腕を組んで空を見上げている。
 ポケーッとした表情を浮かべているので、アキラは尋ね返した。

「フェルノ、何か思い付いたの?」
「ちょっとだけねー。でさー、成功すると思う?」
「分かんないけど、やってみよ」
「オッケー。それじゃあ試してみるからさー、少し離れててよー」

 フェルノは考えがあるみたいで、アキラたちを少し遠ざける。
 首を縦に振ると、アキラと雷斬は危なくないラインまで避けた。
 草むらの影に隠れてフェルノのことを覗き見ると、両腕を【吸炎竜化】で竜化させ、炎をたぎらせ燃やしていた。

「ん? フェルノ何するんだろ。あっ!」
「分かったんですか?」
「何となくね。確かにフェルノにしかできないかも……良く思い付いたね」

 アキラは感心した。
 雷斬はジッとフェルノ事を見つめている。
 指先から炎を出したその炎を少し飛ばす。場所は蜂の巣の真下。
 炎によって生じた熱が蜂の巣の中に居る蜂たちを蒸すようで、かなりグロかった。けれどその辺はフェルノも配慮していた。超弱火かつ、蜂の巣から蜂たちが逃げられるように時間をかけてゆっくり追い出していく。

「炙って追い出すんですか?」
「うん。炎の熱で巣の中を蒸し焼きにして……結構グロイけど、見て。蜂たちが巣の中から出て行くよ」

 アキラが指を指すと、蜂の巣の中から白い小さな蜂たちが一斉に逃げ出す。
 何か危険が起きたんだと瞬時に把握して、瞬く間に蜂の巣の中は空っぽになる。
 その間で蜂を蒸して殺してしまうような残酷な真似をフェルノはしなかった。
 巣の一部分だけを切り取り、搾るように蜜を採取する。気が付けば瓶の中には半分くらい透明度の高い蜂蜜が溜まっていた。

「はい、こんな感じで良いのかなー?」

 フェルノは作業を終えると、アキラたちの下へと戻って来た。
 草むらの影からアキラたちは顔を出すと、フェルノに声を掛けた。

「凄いねフェルノ。まさかこんな簡単に終わらせちゃうなんて」
「しかも、蜂たちを一匹も殺すことなく。流石です」
「あはは、そんなに褒めないでよー。それに蜜蜂は益虫でしょ? また今度蜜を貰いたいからさー、蜂たちを殺すなんて真似したくないでしょー」
「「確かに」」

 後のこともしっかりと考えていた。
 アキラはフェルノが偉く冴えているので驚いてしまった。
 もしかしたら、本気を出せばこのくらい頭の回転が速いのだろうか。
 アキラは親友の目覚ましい冴え具合を本当に驚いてしまった。

「それじゃあコレを持って帰ろっかー」
「あっ、その前に」

 アキラは蜂の巣に近付く。壊れた部分を修復できないかインベントリの中から探した。
 しかし何も入っていなかった。
 アキラは渋い表情を浮かべると、「ごめんなさい」と言って近くに果物を置いた。
 これで許して貰えたらありがたいとアキラは信じる。

「おーい、アキラ。早き行こ」
「う、うん。ちょっと待って」

 アキラはフェルノに呼ばれたので急いで向かった。
 ここからはポータルを使えば一瞬で帰れる。
 全員でポータルに触れると、一瞬のうちにギルドホームへと帰還した。

「ふぅ、凄く上手く行ったねー」
「そうですね。ですが蜂の巣は大丈夫でしょうか?」
「一応リンゴはお供えして来たけど、これで機嫌を直してくれるといいな」

 雷斬も同じことを思っていたようだ。
 しかしリンゴを備えることくらいしかできなかったアキラだが、コレが功を奏したのはソウラに蜜を届けに行った時だった。
 なので今はまだ知らない。アキラたちは少しのモヤモヤを抱えるのだった。
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