378 / 599
◇375 まあ、見事に
しおりを挟む
アキラに選択肢はない。
そんなの百も承知で飛び込んだのだから、やることは決まっていた。
目の前にある白い塊。これがモチツキンの臼の中に眠る餅なのなら、フェルノと同じことをするだけだ。
「せーのっ!」
普通に餅には弾力があり、重たかった。
だけど持ち上げられないことはない。
アキラは頑張って餅を持ち上げて捏ねるため回した。
すると一回で餅の表裏が入れ替わり、無事に捏ねることに成功した。
「ふぅ。これで良いのかな?」
安堵して額の汗を拭いた。
腕で拭うと、アキラは嫌な予感がする。
こんなことをしている暇は無いのではないか? と、頭上を見ていた。
「ん? アレって……嘘でしょ!?」
アキラは恐怖して目を見開く。
急に頭上が暗くなり、影が生まれた。
見ればモチツキンの左腕が上がり、杵が頭上に迫っていた。
「もしかしてコレが降ってきて……そんなの無理だよ!」
杵が降ってきて、臼の中に居る誰かが潰される。
まるで餅を搗くみたいに、抗う術もない。
そんな相手に勝てるわけが無い。アキラも逃げ出そうとしたが、最初の一撃を避ける時間はない。
「こ、こうなったら【半液状化】を使って……ってダメだ!」
アキラは自分で気が付いた。
スライムになったら餅に混ぜられる。そう感じたので、脳がパニックになり、意識を切り替える間に、杵が降って来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アキラは絶叫した。
杵が降ってきて、グシャリと潰される。
目を深く瞑り、死んだと思った。けれど瞼を押し開けることができて、「あれ?」と訳の分からない状況に、言葉を失う。
「し、死んでない?」
何が起きたのか。アキラは驚愕するが、腕輪が無くなっていることに気が付く。
もしかして防御力が上がったおかげ? それで助かったの? アキラはそれしか考えられなかった。
「Nightが助けてくれたんだ」
だけどこれだけ凄いものを作ったということは、相当HPを消費している証だ。
だからNightは何もできなかった。
それが分かったのなら、アキラが取れる選択肢はこれしかない。
「だったら、私は……」
アキラはもう一回餅を捏ねることにした。
フェルノと同じ末路を辿るだけ。きっとそう思われる。
だけどアキラにはそんな気は一切ない。
【キメラハント】を持っている自分にしかできない技を見せるのだ。
「これしかない!」
もはや賭けだった。
しかしやってみる選択肢に委ねると、アキラはもう一度餅を持ち上げて、捏ねた。
グルンと回転させ、表と裏を入れ替える。
ピコン! と言う電子音が聴こえ、ふと頭上を見上げると、カウントが一つ進んでいた。
「やっぱり進んでる」
カウントが二つ進み、合計で四回。
これで残りは九十五.だけど絶対に倒せないと悟り、アキラは奥歯を噛む。
「今度は負けないよ!」
捨て台詞を宣言すると、杵が降って来た。
流石にもう受けきれない。そう思ってアキラは【キメラハント】:【幽体化】を発動。
しばらく使えないものの、おかげで杵が臼の中に飛び込んで来る前に、幽霊になった体で薄の中から逃げ出した。
「うおっ!」
何とか杵が振り下ろされたタイミングで外へと出ると、ドスン! と言う音が地響きの様に響き渡る。
チラリと振り返って見てみると、臼の部分が杵の衝撃で振動していて、それが空気を震わせていた。あまりにもできることが多すぎて、アキラはゾッとする。
「危なかった……」
安堵して胸を撫で下ろす。
しかし咄嗟だったので準備はしていたアキラだったが、そのまま着地するわけにはいかなくなる。
「ヤバっ!?」
モチツキンと目が合った。
杵が降り上げられて「もしかしてもう一回?」と唇を噛む。
「あっ、Night!」
「アキラ、無事に……」
Nightは喜んでくれた。
しかしアキラが自分の方に落ちてきていたので何かと思い、不安がよぎる。
頭を使い、思考を巡らせ、視界から得られる全ての情報を伝える。
するとこれから如何なるのか、全部分かってしまった。
「お前、まさか……」
「ごめん、Night」
「うがっ!?」
アキラはNightへと圧し掛かった。
完全に押し倒してしまって、Nightは表情を歪めた。
苦言を呈するのは判る。だって自分の真上に人が突然飛び込むように圧し掛かって来たからだ。
「く、苦しい」
「ご、ごめんね」
アキラはNightに謝った。
しかしそんなことを言っている場合ではなくなる。
仰向けで倒れ、空を見上げるNightには何が迫ってきているのか見えていた。
「マズい!」
「えっ?」
アキラは顔を上げた。
すると黒い影が迫っていた。
Nightはアキラのことを突き飛ばそうとする。
しかしながらそれすら間に合わない。
「「嘘っ!」」
アキラとNightの真上には杵がある。
これはもしかしてもない。杵が近付きながら、激しい鉄槌が押し付けられた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
アキラとNightの二人はぺちゃんこになってしまった。
全身に痛みが走り、それが一瞬のうちに最終極致にまで達すると、それ以上に痛みを覚えることはない。
一瞬にして視界がフェードアウトして、完全な暗闇が目の前に躍り出て、ブラックアウトしてしまうのだった。
これが初めての死。アキラとNightは同時に意識を刈り取られた。
そんなの百も承知で飛び込んだのだから、やることは決まっていた。
目の前にある白い塊。これがモチツキンの臼の中に眠る餅なのなら、フェルノと同じことをするだけだ。
「せーのっ!」
普通に餅には弾力があり、重たかった。
だけど持ち上げられないことはない。
アキラは頑張って餅を持ち上げて捏ねるため回した。
すると一回で餅の表裏が入れ替わり、無事に捏ねることに成功した。
「ふぅ。これで良いのかな?」
安堵して額の汗を拭いた。
腕で拭うと、アキラは嫌な予感がする。
こんなことをしている暇は無いのではないか? と、頭上を見ていた。
「ん? アレって……嘘でしょ!?」
アキラは恐怖して目を見開く。
急に頭上が暗くなり、影が生まれた。
見ればモチツキンの左腕が上がり、杵が頭上に迫っていた。
「もしかしてコレが降ってきて……そんなの無理だよ!」
杵が降ってきて、臼の中に居る誰かが潰される。
まるで餅を搗くみたいに、抗う術もない。
そんな相手に勝てるわけが無い。アキラも逃げ出そうとしたが、最初の一撃を避ける時間はない。
「こ、こうなったら【半液状化】を使って……ってダメだ!」
アキラは自分で気が付いた。
スライムになったら餅に混ぜられる。そう感じたので、脳がパニックになり、意識を切り替える間に、杵が降って来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アキラは絶叫した。
杵が降ってきて、グシャリと潰される。
目を深く瞑り、死んだと思った。けれど瞼を押し開けることができて、「あれ?」と訳の分からない状況に、言葉を失う。
「し、死んでない?」
何が起きたのか。アキラは驚愕するが、腕輪が無くなっていることに気が付く。
もしかして防御力が上がったおかげ? それで助かったの? アキラはそれしか考えられなかった。
「Nightが助けてくれたんだ」
だけどこれだけ凄いものを作ったということは、相当HPを消費している証だ。
だからNightは何もできなかった。
それが分かったのなら、アキラが取れる選択肢はこれしかない。
「だったら、私は……」
アキラはもう一回餅を捏ねることにした。
フェルノと同じ末路を辿るだけ。きっとそう思われる。
だけどアキラにはそんな気は一切ない。
【キメラハント】を持っている自分にしかできない技を見せるのだ。
「これしかない!」
もはや賭けだった。
しかしやってみる選択肢に委ねると、アキラはもう一度餅を持ち上げて、捏ねた。
グルンと回転させ、表と裏を入れ替える。
ピコン! と言う電子音が聴こえ、ふと頭上を見上げると、カウントが一つ進んでいた。
「やっぱり進んでる」
カウントが二つ進み、合計で四回。
これで残りは九十五.だけど絶対に倒せないと悟り、アキラは奥歯を噛む。
「今度は負けないよ!」
捨て台詞を宣言すると、杵が降って来た。
流石にもう受けきれない。そう思ってアキラは【キメラハント】:【幽体化】を発動。
しばらく使えないものの、おかげで杵が臼の中に飛び込んで来る前に、幽霊になった体で薄の中から逃げ出した。
「うおっ!」
何とか杵が振り下ろされたタイミングで外へと出ると、ドスン! と言う音が地響きの様に響き渡る。
チラリと振り返って見てみると、臼の部分が杵の衝撃で振動していて、それが空気を震わせていた。あまりにもできることが多すぎて、アキラはゾッとする。
「危なかった……」
安堵して胸を撫で下ろす。
しかし咄嗟だったので準備はしていたアキラだったが、そのまま着地するわけにはいかなくなる。
「ヤバっ!?」
モチツキンと目が合った。
杵が降り上げられて「もしかしてもう一回?」と唇を噛む。
「あっ、Night!」
「アキラ、無事に……」
Nightは喜んでくれた。
しかしアキラが自分の方に落ちてきていたので何かと思い、不安がよぎる。
頭を使い、思考を巡らせ、視界から得られる全ての情報を伝える。
するとこれから如何なるのか、全部分かってしまった。
「お前、まさか……」
「ごめん、Night」
「うがっ!?」
アキラはNightへと圧し掛かった。
完全に押し倒してしまって、Nightは表情を歪めた。
苦言を呈するのは判る。だって自分の真上に人が突然飛び込むように圧し掛かって来たからだ。
「く、苦しい」
「ご、ごめんね」
アキラはNightに謝った。
しかしそんなことを言っている場合ではなくなる。
仰向けで倒れ、空を見上げるNightには何が迫ってきているのか見えていた。
「マズい!」
「えっ?」
アキラは顔を上げた。
すると黒い影が迫っていた。
Nightはアキラのことを突き飛ばそうとする。
しかしながらそれすら間に合わない。
「「嘘っ!」」
アキラとNightの真上には杵がある。
これはもしかしてもない。杵が近付きながら、激しい鉄槌が押し付けられた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
アキラとNightの二人はぺちゃんこになってしまった。
全身に痛みが走り、それが一瞬のうちに最終極致にまで達すると、それ以上に痛みを覚えることはない。
一瞬にして視界がフェードアウトして、完全な暗闇が目の前に躍り出て、ブラックアウトしてしまうのだった。
これが初めての死。アキラとNightは同時に意識を刈り取られた。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる