VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇373 振り降ろされる杵

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 フェルノはモチツキンの臼の縁の部分に指を掛けた。
 脚を使って臼を蹴り上げ、モチツキンの臼の中に突入。

 そこにあったのは白い何か。
 フワフワモチモチ。初見だと、何か分からないかもしれないが、コレが臼の中だと分かっていれば、そこにあるのは何か分かる。

「お餅だ!」

 フェルノは叫んだ。
 するとモチツキンはガタガタガタガタと揺れ始め、杵の部分がブンブン振り回される。
 その先にはアキラがしがみついていた。
 けれど抗ったにもかかわらず、アキラは振り落とされた。

「アキラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 フェルノは叫んだ。
 今すぐに飛び出して、アキラを助け出そうとする。
 けれどそんなことをするわけにはいかなかった。せっかくのチャンスを逃してはいけない。
 そんな思いがアキラの腕に巻き付いた鉤爪によって伝わった。

「頼んだよ、Night!」

 アキラのことをNightに任せたフェルノは、再び臼の中に戻る。
 一体何をしたら良いのか。
 とりあえず餅を搗いてみることにした。

「えーっと、この餅を搗いたらいいのかな?」

 フェルノは白い餅に手を置いた。
 するとドクン! と胸を打たれた。
 まるで自分が餅に搗かれたみたいな不思議な気持ちに浸る。

「な、なに? これは一体なに?」

 フェルノは不思議と不気味に思った。
 全身が身震いしたが、内側から込み上げる熱量を返還する。
 フェルノは心臓の当たりを押さえ、【熱量吸動ヒート・フル・エナジー】を使った。

「燃え出せ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 白い餅に指を触れた。
 するとドクンドクン! と心臓の鼓動が昂る。
 胸を打ち抜かれるような気持ちになり、白い餅を引っ繰り返した。

「せーのっ!」

 白い餅がクルリと回した。
 すると白い餅が回転した。すると杵が動き始めた。

「えっと、ん?」

 これで良いのか分からない。
 フェルノは杵が動いたので、不思議に思ったが、空を見上げてみると、黒い影が浮かぶ。
 何が起ころうとしているのか。フェルノは首を捻った瞬間、杵が臼へと近づき、スピードを上げて振り下ろされた。

「えっ、ちょっと待ってよ。嘘だよね? ま、待って待って待って待って!」

 フェルノは急いで逃げようとした。
 臼の壁に手を付いて、縁を掴んで外へと出ようとする。
 しかし間に合わなかった。杵が振り下ろされ、目の前が真っ暗闇へと迫る。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 フェルノとにかく叫んだ。
 痛み何て無い。はずだったが、体が押し潰されたかと思った。
 気が付けば視界の先が明るくなる。如何やら助かったらしいが、まさか自分もまとめて杵に押し潰されたかと思った。

「もしかして、私、生きてる?」

 フェルノは首を捻った。
 如何やら杵に搗かれたはずなのに無事に生きていられた。
 ホッと胸を撫で下ろすと、腕輪が錆びて砕けてしまった。

「あ、あれ?」

 もしかして守ってくれたのは、Nightが用意してくれた【ライフ・オブ・メイク】製の腕輪。
 防御力強化のおかげもあり、HPがミリで残ってくれていた。
 フェルノは安堵して胸を撫で下ろす。本当に死ぬかと思ったのだ。
 けれど次はない。これで退散しようとしたのだが、空を見上げれば何か浮かんでいた。

「アレは……カウンター? はいっ……?」

 フェルノは嫌な予感がする。これは予感でも何でもない、直感でもなければ、目に見える情報の総称だった。
 カウンターに表示されていたのは数字。数は98と出る。
 この九八と言う数字が何を意味しているのかは分からないが、何やら不穏な気がする。

「もしかして餅を搗いた回数じゃないよね?」

 もう一度餅に触れた。
 すると頷くみたいにドクンドクン! と激しく胸を打つ。
 フェルノは絶句する。流石に無理だ。コレだとダメだ。
 もう自分にはさっきの攻撃を防ぐ手立ては無いと、フェルノは考える。

「如何しよう……もう一回、行けるかな?」

 ここで逃げるのが正解。そう思ったのは一瞬。
 しかしフェルノはそんなことできない。
 脚が餅に絡みついてしまい、もう一回防がないと外れないのだ。

「流石に間に合わないよねー」

 餅を回せば脚は解放される。
 けれどそこからのスピードのえげつなさを知っているので、容易に無理だと悟った。

「だったら私ができることは一つしかないかなー」

 フェルノは考えた。
 ここから助かろうとするなんて無理な話だ。
 となれば何をしたら正解なのか。その糸口は目の前にある。

「これしかないねー」

 フェルノは餅を搗くことにする。
 それをしたら自分が助からないことを理解していた。
 しかしここから助かる手段はない。こうなったのも自分の甘い考えのせいだと悟り、後の人に託す選択肢を取った。

「よいっしょっと。ふぅ、これで私の出番は終わりかなー」

 フェルノは餅を捏ねた。
 するとモチツキンの杵が天高く上がる。
 これは逃げられない。脚は軽くなったけど頭上は暗闇に覆われていた。

「あはは、後は任せたよー」

 杵が振り下ろされた。
 フェルノは目を閉じると、視界がフェードアウトする。
 暗闇の世界に落とし込まれると、気が付けば自分の部屋の天井。

「あはは、やっぱりやられちゃったかー」

 ゾクゾクした寒気。本当に死んだような感覚。
 フェルノは終わった後に体が震え出していた。
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