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◇366 お正月の超強敵
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カランコローン!
アキラは久々にソウラたち、Deep Skyの営むアイテム屋にやって来た。
ここ数日で色々とアイテムを集めたけれど、実は使い物にならない物もあったからだ。
それらの使い道と、もし良かったらの買取目的。
アキラは少しだけ期待感を込めて足を運んだ。
なのだが——
「こんにちはー……ん?」
アイテム屋の扉を潜ったアキラ。
そこにはソウラがカウンターに立っていた。
いつも通り、棚に並べてあるものを手入れしたり、瓶を拭いたりしている。
その上、真っ先にアキラの存在に気が付いた。
「あっ、アキラ。こんにちは」
「あっ、は、はい?」
「そんな所に居ないで入ったら?」
「そ、そうしたいんですけど……良いんですか?」
アキラが逆に訊き返してしまった。
何故ならとてつもなく場違いな空気が犇めいていたからだ。
「僕は良いと思うよ」
「うーん」
店にはけみーとマンティが居た。当然だ。ここは二人も所属するギルドのギルドホーム兼店なのだから。
けれど何故かマンティは項垂れていた。対してけみーは何事も無かったみたいに澄ましている。
何かあったのだろうか? いいや、確実に何かあった。
アキラは近寄りがたい空気があるものの、それでも話しかけてみるしかない。
「こ、こんにちは。けみーさん、マンティさん」
「うん、こんにちは」
「にちはー」
けみーは何か飲みながらカッコよく答えた。
しかし項垂れたマンティは腕を上げて返事をする。
あまりにも空気が違いすぎる。
「何かあったんですか?」
「ん? 何かあったって?」
「いや、マンティさんが……」
顔色なんて読まなくても分かる。
けみーはポーカーフェイスが上手いけれど、ソウラは少し眉根が動く。
そしてマンティの動きが大袈裟すぎた。
「聴いてよ、アキラー」
「ど、如何したんですか!?」
まるで子供の様に泣きつかれた。
マンティは何か悔しいことがあった顔をしていて、薄っすらとだが涙で汚す。
一体何があったのか。本当に分からないので、アキラはマンティに尋ねる。
「と、とりあえず聴くので話してください」
「それがね、負けちゃったんだよ!」
「ま、負けた?」
何に負けたんだろう。想像の余地が膨らむ。
例えば試合で負けた。もちろん自分じゃなくてもいい。
何かしらスポーツで応援しているチームや人が負けた。その可能性は無きにしも非ず。
もしかしすると根負けしたみたいな精神パターンもあるのかな?
とは言えマンティの精神が覆されるとは思えない。
少年の様な楽しい心と感性を持っているから尚のことだ。
アキラは想像の余地がありすぎて困る。
しかしけみーが補足をしてくれた。
「モンスターにやられたんだよ」
「あっ、モンスター!」
意外に普通だった。つまりマンティが倒せないモンスターが現れて、それがとっても心に来たわけだ。
グサリと楔を打ち込まれ罅が入る。
悔しい思いをしたモンスターが何か気になる。
「えっと、どんなモンスターにやられたんですか?」
「臼」
「ん?」
「臼だよ。餅付きで使う臼と杵のセット。見たことない?」
「あ、あります」
アキラは即答した。
しかも直近で見かけたものな上、実際に使っても見た。
最後には餅が食べられなかったけれど、焼き芋に変換された思い出が強い。
「えっ、ちょっと待ってください。ソレにやられたんですか?」
「うん。僕もマンティも瞬殺だったよ」
アキラは信じられなくて問い返した。
するとけみーは代表して苦い思い出を笑みを浮かべて話してくれる。
薄ら笑みだったけれど、やられた記憶をそうやって言えるのはカッコよかった。
「あんなの勝てっこない。最初は勝てると打算していた。だけど実際はダメだった」
「スピードがいくら速くても勝てないんだよ!」
「僕のスキルもね」
二人は強い。それはこの目で見ているので確かだ。
しかしながら二人がここまで言うのは異常だ。
どれ程までの強敵なのか、マンティを擦りながら考える。
(もしかして、それだけ攻撃速度が速いのかな? うーん、私の持っているスキルだけだと、多分勝てないよね? Nightなら如何するのかな? この世界では、レベル差なんてほとんど関係無いみたいだけど、けみーさんとマンティさんが倒せない相手ってことは、私達でも……うーん。って、ダメダメ。負ける想像なんてしたら、勝てるものも勝てなくなるよって、フェルノに言われちゃうね)
アキラは首を横に振って、意識を切り替える。
再度けみーたちに質問をした。
「そのモンスターって、私でも勝てますか?」
あまりにも漠然とした質問。
しかしけみーは「うーん」と考え始める。
如何やら検討してくれているみたいで、視線だけアキラに渡した。
「そうだね。確実に勝てないとは言わないけど、多分無理だよ。あのスピードに勝るものなし。実際に行ってみてみれば、その無力感が伝わってくるはずだよ。とは言え、今年はダメでも、また来年にはリベンジしに行くけどね」
けみーはそう言いながら、お酒なのかそうでないのか、新しく注がれた飲み物を飲んだ。
何故かこれだけで画になる。
そう思うアキラだったが。ゴクリとけみーの言葉に息を飲んだ。
アキラは久々にソウラたち、Deep Skyの営むアイテム屋にやって来た。
ここ数日で色々とアイテムを集めたけれど、実は使い物にならない物もあったからだ。
それらの使い道と、もし良かったらの買取目的。
アキラは少しだけ期待感を込めて足を運んだ。
なのだが——
「こんにちはー……ん?」
アイテム屋の扉を潜ったアキラ。
そこにはソウラがカウンターに立っていた。
いつも通り、棚に並べてあるものを手入れしたり、瓶を拭いたりしている。
その上、真っ先にアキラの存在に気が付いた。
「あっ、アキラ。こんにちは」
「あっ、は、はい?」
「そんな所に居ないで入ったら?」
「そ、そうしたいんですけど……良いんですか?」
アキラが逆に訊き返してしまった。
何故ならとてつもなく場違いな空気が犇めいていたからだ。
「僕は良いと思うよ」
「うーん」
店にはけみーとマンティが居た。当然だ。ここは二人も所属するギルドのギルドホーム兼店なのだから。
けれど何故かマンティは項垂れていた。対してけみーは何事も無かったみたいに澄ましている。
何かあったのだろうか? いいや、確実に何かあった。
アキラは近寄りがたい空気があるものの、それでも話しかけてみるしかない。
「こ、こんにちは。けみーさん、マンティさん」
「うん、こんにちは」
「にちはー」
けみーは何か飲みながらカッコよく答えた。
しかし項垂れたマンティは腕を上げて返事をする。
あまりにも空気が違いすぎる。
「何かあったんですか?」
「ん? 何かあったって?」
「いや、マンティさんが……」
顔色なんて読まなくても分かる。
けみーはポーカーフェイスが上手いけれど、ソウラは少し眉根が動く。
そしてマンティの動きが大袈裟すぎた。
「聴いてよ、アキラー」
「ど、如何したんですか!?」
まるで子供の様に泣きつかれた。
マンティは何か悔しいことがあった顔をしていて、薄っすらとだが涙で汚す。
一体何があったのか。本当に分からないので、アキラはマンティに尋ねる。
「と、とりあえず聴くので話してください」
「それがね、負けちゃったんだよ!」
「ま、負けた?」
何に負けたんだろう。想像の余地が膨らむ。
例えば試合で負けた。もちろん自分じゃなくてもいい。
何かしらスポーツで応援しているチームや人が負けた。その可能性は無きにしも非ず。
もしかしすると根負けしたみたいな精神パターンもあるのかな?
とは言えマンティの精神が覆されるとは思えない。
少年の様な楽しい心と感性を持っているから尚のことだ。
アキラは想像の余地がありすぎて困る。
しかしけみーが補足をしてくれた。
「モンスターにやられたんだよ」
「あっ、モンスター!」
意外に普通だった。つまりマンティが倒せないモンスターが現れて、それがとっても心に来たわけだ。
グサリと楔を打ち込まれ罅が入る。
悔しい思いをしたモンスターが何か気になる。
「えっと、どんなモンスターにやられたんですか?」
「臼」
「ん?」
「臼だよ。餅付きで使う臼と杵のセット。見たことない?」
「あ、あります」
アキラは即答した。
しかも直近で見かけたものな上、実際に使っても見た。
最後には餅が食べられなかったけれど、焼き芋に変換された思い出が強い。
「えっ、ちょっと待ってください。ソレにやられたんですか?」
「うん。僕もマンティも瞬殺だったよ」
アキラは信じられなくて問い返した。
するとけみーは代表して苦い思い出を笑みを浮かべて話してくれる。
薄ら笑みだったけれど、やられた記憶をそうやって言えるのはカッコよかった。
「あんなの勝てっこない。最初は勝てると打算していた。だけど実際はダメだった」
「スピードがいくら速くても勝てないんだよ!」
「僕のスキルもね」
二人は強い。それはこの目で見ているので確かだ。
しかしながら二人がここまで言うのは異常だ。
どれ程までの強敵なのか、マンティを擦りながら考える。
(もしかして、それだけ攻撃速度が速いのかな? うーん、私の持っているスキルだけだと、多分勝てないよね? Nightなら如何するのかな? この世界では、レベル差なんてほとんど関係無いみたいだけど、けみーさんとマンティさんが倒せない相手ってことは、私達でも……うーん。って、ダメダメ。負ける想像なんてしたら、勝てるものも勝てなくなるよって、フェルノに言われちゃうね)
アキラは首を横に振って、意識を切り替える。
再度けみーたちに質問をした。
「そのモンスターって、私でも勝てますか?」
あまりにも漠然とした質問。
しかしけみーは「うーん」と考え始める。
如何やら検討してくれているみたいで、視線だけアキラに渡した。
「そうだね。確実に勝てないとは言わないけど、多分無理だよ。あのスピードに勝るものなし。実際に行ってみてみれば、その無力感が伝わってくるはずだよ。とは言え、今年はダメでも、また来年にはリベンジしに行くけどね」
けみーはそう言いながら、お酒なのかそうでないのか、新しく注がれた飲み物を飲んだ。
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