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◇360 「嘘とは言っていない」

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 クロユリは龍の噂を耳にしたことがあった。
 しかし話しの矛先をNightへと振り上げ、Nightもまた否定するわけでもなく、「そうだな」と答える始末。
 流石に状況が一転しすぎて、アキラはNightに尋ねる。

「Night、如何言うこと!」
「如何言うこととは?」
「水神池の龍の噂。クロユリさんが言っていた話を知ってたの?」
「まあな」
「まあな……って。はい?」

 Nightは何事もなかったかのように自分の姿勢を崩さない。
 用意されていた緑茶の入った湯飲みを両手で持ち、丁寧に音も立てずに飲んでいた。

「Nightさん。余裕そうなところ悪いですが、知っていたのは本当ですか?」
「何度も言わせるな。私は知っていた」
「何で教えてくれなかったのー?」
「聞かれなかったからだ」
「意地悪ね。そう言う大事な情報は先に言っておいてよ!」
「何故だ? 今回のイベントには不必要な情報だった。情報は多くあればいいわけじゃない。無駄な情報、選択の余地を間違えれば悲惨な目に遭うのは確実だ」

 何だか哲学的かつ戦略的な難しいマネジメントを話し始める。
 とは言えNightの言うことも一理ある。
 だからこそ、アキラたちは強く出られなかった。現にそのおかげで目的を絞って行動できた。

「私が仮に龍の噂何て話したら如何なる?」
「えっと、集中力が欠かれる?」
「目に見えているだろ。特にフェルノ」
「うーん、そっちの方が楽しそうだよねー。あはは」
「笑う話でもない」

 Nightの言うことに納得してしまう。
 反論できることがあるなら、一つくらいしかない。

「それでも何で私がアクアドラゴンから貰って話した時、信じてくれなかったの?」
「私が知っているのはあくまでも龍が棲んでいるという噂だ。それに微かにだがお前たちも知っていただろ。龍でなくても、何か居る。そんな気がしていたんじゃないのか?」

 深層心理に語り掛けられてしまう。
 確かに神様が住んでいる気はした。
 しかしまさかアクアドラゴン=龍神様が住んでいるとは思いもしなかった。
 だけどまだ話は終わっていない。アキラが言いたいのは、何で疑われたのかだ。

「それじゃあ何であしらわれたの?」
「言っただろ。私は居ないとは言っていない。嘘とも言っていない。判らないのものを疑うのは当然の話だ」
「うわぁ、利己的」
「それが私だ。ともかくだ。アクアドラゴンの正体が、噂に聞く龍だと仮定して、お前はよくも会って来たな」
「えっ、会って来たんですか!?」

 クロユリは反応した。突飛すぎる内容にようやく飲み込みが行かなくなる。
 とは言えクロユリは頭が回る。
 アキラの言葉の本気度からして、如何やら間違いではなさそうだと判断した。

「そうですね。アクアドラゴン……龍の髭……それが本物だとすれば、とてつもない力を秘めているかもしれませんね」
「そうですか?」
「はい。水神池。あの場所には昔から何か居ると云われています。それこそこの世界の設定の話にはなりますが、NPCたちも好んでは近づかない、神聖な場所だと伝わっていますよ」

 ここに来て設定の話を持ち出した。
 そこまで行くと非日常感が無くなってしまうが、それでもメタ的な推理をすれば、運営側が隠しとして用意している説はある。

 それに何よりアキラには一番伝わっていた。
 他のAIとは明らかに違う。自信で成長し、その具合も著しく高い。
 あまりのも流暢に話し、考え、行動する。姿が龍でなければ人間だとしてもっし使えないくらいに賢くて自分を持っていた。
 何だかこのGAMEの持つ特異性と言うのか優位性と言うべきか、他のGAMEとは一線を画していた。

「やっぱり面白い」

 アキラはふと呟く。
 龍の髭云々ではなく、このGAMEが面白く感じた。

「とは言え、龍が実在していたというの驚きですね。せっかく手に入れたのですから、飾ってみては如何ですか?」
「飾ってみるんですか?」
「実際、イベントで入手できる龍の髭は一種のお守りですよ。家に飾って、祀って置くことで、家宝を守ってくれるんです」
「なるほど。そう言えばそうでしたよね」

 何だか締めに入ろうとしていた。
 しかも完全にクロユリのペースに引き込まれていて、アキラたちは反論することも忘れ、うんうんと首を縦に振り続ける人形状態だった。

「ちなみにクロユリも飾っているのか?」
「勿論ですよ。飾った際に、不思議な感覚がしますけどね」
「「「不思議な感覚?」」」

 ここに来ての新情報を前に、アキラたちは前のめりになる。
 一体何が起きるのか、ちょっぴり怖いけど、面白そうでもあった。
 何故なら運営側が用意したイベント。その報酬なので、下手なバグは起こらないと信じてもいい。

「不思議な感覚って何ですか?」
「それは実際に自分達で確かめてみてはいかがですか? これも一つの報酬ですよ」

 クロユリはとっても良いことを言った。
 アキラたちもこの数日の苦労が込み上げてくると、その報酬が気になる。
 何か面白いものだと良いので、早速クロユリに感謝して、ギルドホームへと戻ることんした。
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