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◇355 びしょ濡れで帰還

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 アキラの意識は暗闇の中に居た。
 底は無限に広がる宇宙空間。
 様々な光が惑星の様に回っていて、白く気高き龍がアキラのことを包み込む。

「リュー?」
「はい」
「ここは何処?」
「何処ですか? ここは貴女のパーソナルスペースですよ」

 前にもこんな経験をした。
 その時もあの時もずっと自分のパーソナルスペースの中にリューは居て、アキラのことを守ってくれていた。

「私、また自分の世界に来ちゃったんだ……」
「そうみたいですね。こんなことができる人間はそう多くはないはずですよ」

 リューはアキラのことを稀な存在だと答える。
 あまり嬉しくはないなと、アキラは言葉なく思った。

「あっ!」

 それとせっかく記憶があるうち・・・・・・・にここに来たんだ。
 アキラは目の前に居るリューに感謝を伝える。

「いつも守ってくれてありがとう。それに、いつも忘れちゃってごめんね」

 アキラはアクアドラゴンと出会ってふと思う。
 リューがいつもアキラの心の中、何処か片隅にひっそりと暮らして、アキラのことを守ってくれているのではないかと痛感する。
 
「いいえ。忘れてしまうものですよ。何故ならここは意識の外側なんですから」

 しかしリューは責めたりはしなかった。
 むしろ肯定的に捉えると、アキラに心労を懸けさせないようにする。
 自分達の本分はそう言う存在。冷静沈着で優しいリューはそれを解っていた。

「本当にごめんね」
「良いんです。いずれまた、私の力を必要とするのでしたら、存分に力をお貸ししますから」

 リューはそう言ってくれる。
 ポカポカと心が温まり、虚ろな手を握った。

「うん、ありがとう」
「いいえ。感謝されることではありませんよ」

 リューはそう言ってくれた。
 それからアキラはゆっくりと目を瞑り、意識が帰還する。
 その頃にはきっとリューのことは忘れている。
 だけど心では覚えているはずなので、お互いに悲しくはなかった。

 ◇

 どれだけの時間が経ったのだろうか?
 アキラはゆっくりと目を覚ました。
 暗闇からの帰還で視界に最初に取り入れたものは、ぬかるんだ地面と苔生した草木だった。

「あれ? ……ここは、何処?」

 アキラは頭を抑えた。
 立ち上がろうとしたアキラだけど、何故か体が重たい。
 見てみれば服がスケスケだった。湿っていて、びっしょりと濡れていた。

「あれ? 何で濡れて……そっか、アクアドラゴンにやられたんだ」

 やられたって言い方もおかしい気がする。
 だけど流石に覚悟していたとはいえ、あんな杜撰なやり方だとは思わなかった。
 一歩間違えば意識を失い、二度と帰って来れないかもしれない。
 下手な真似をして好奇心に任せたことが仇となった。

「うわぁ……ここで着替えるのも、ちょっとアレだけど……って、そんなことより、龍の髭は!?」

 アキラは思い出したようにポーチの中を確認する。
 流石に落としたなんて話は洒落にもならない。
 次会った時に、アクアドラゴンにこっぴどく怒られること確定だ。

「流石に入ってるよね……良かった、入ってる」

 アキラはホッと胸を撫で下ろした。
 ポーチの中には龍の髭が入っている。
 しかも如何いうわけか、ポーチの中身は濡れていない。
 もしかして、アクアドラゴンの力が働いたとか? などと、妄想を膨らますアキラだった。

「って、そんなことよりここは何処なの?」

 アキラは今自分が居る場所が分からなかった。
 さっきまで釣りをしていたポイントとは明らかに違う。
 もしかして別の池? キョロキョロと周囲を見回して、何とかみんなとの合流を図る。

「って、ここが何処かも分からないのに……難しいよ」

 Nightならきっとできると思った。でもアキラにはかなり難しくて困ってしまう。

「せめて何かヒントが……あれ?」

 ふと顔を前に向けた。
 するとこの先が一本道になっていて、何かありそうな気がしてならない。

「あれ? さっきまでこんな道なかったよね?」

 アキラは不意に首を傾げた。
 それもそのはず、アキラは起き上がった際に、真っ先に目の前の光景が目に入る。
 それは当然だ。だってうつ伏せで起き上がったんだから。
 始めは道なんてなかった。草木に覆われ、湿地の壁が生まれていた。だけどアキラの目の前には開けた一本道ができている。
 これは偶然? アキラは不思議に思って仕方がない。

「不気味だよね。Nightなら絶対行くなって言うよね?」

 だって明らかに誘っているようにしか思えない。
 こうやってプレイヤーを惑わそうとしている感が強かった。
 それくらいあからさまな変化の仕方で、それころ巨大迷路で如何してもゴールに辿り着けないから、裏方の人たちが壁を回転させてゴールまでの一本道を作ってくれたみたいな感覚。とは言え——

「でも行ってみるしかないんだよね」

 アキラは他に道がないことにも気が付いていた。
 だから一旦上の服だけ脱いで絞り水を抜くと、もう一回着直して突然できた道をひた走ることにした。

 何が起こるかは分からない。
 だけど行ってみるしか選択肢には無かった。
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