上 下
354 / 566

◇352 勝利の証を贈ろう

しおりを挟む
 アクアドラゴンは負けを認めた。
 それは至って簡単だ。アクアドラゴンはアキラの精神力に触れて、その想いを直に受け取ったからだ。

(ここは……はっ!)

 アクアドラゴンは精神の中で目を開けた。
 そこは自分だけの世界。自分だけのパーソナルスペースで、本体は自分しかないはずだ。
 本来はだ・・・・

(誰ですか、貴女は?)

 アクアドラゴンのパーソナルスペースは水の中だった。
 一面が透き通る透明度の極めて高い水で覆われ、上部には太陽光を遮断して乱反射した光が膜を作り、下部は漆黒の闇が覆う。いわゆる光が届かなために、格別した深海が生まれていた。

 にもかかわらずだ。アクアドラゴンの視線の先には、無限の宇宙が続いていた。
 本来こんな世界は存在しない。
 無限の宇宙の中。その中には一匹の龍の尻尾が浮かび、虹色の塊が浮いていた。
 これは一体何なのか……アクアドラゴンは分からない物を目の前にしているにもかかわらず、長い首を伸ばして触れようとしていた。

(私のことを受け入れようとするこの光は、宇宙は……一体、何故。何故に私を引き付けるのですか!)

 アクアドラゴンは気になって仕方がない。
 触れて良いのか悪いのか。そんなものは一切なく、きっと私のことを受け入れてくれると確信を持っていた。

(触れたい……如何しても触れてみたい)

 アクアドラゴンの鼻先が宇宙に触れた。
 すると目の前に龍を携えた一人の少女が浮かび上がる。
 そこに居たのはアキラで、優しく手を伸ばす。
 何も口にすることはなく、アクアドラゴンのことを包み込もうとしていた。

(そうですか……だから、貴女も……)

 アクアドラゴンはアキラを守るように渦を巻く龍の姿を見つけた。
 白く気高き龍が目の前に居る。
 アキラのことを守るように背後におり、アクアドラゴンは納得した。

(無限の宇宙……はぁ、そんな精神力には敵わないですね)

 アクアドラゴンは違う意味でメンタルアウトさせられてしまった。
 そんな感覚がアクアドラゴンを襲い、もう一度目を閉じた。

 ◇

「はっ!?」

 アクアドラゴンは目を開いた。
 眩しい太陽の陽射しが直射に瞳孔に降り注がれ、咄嗟に目を閉じて対応する。
 それでも眩しいのは変わりなく、苦い表情を浮かべてしまった。
 すると心配する声を耳にする。

「大丈夫?」

 アクアドラゴンは反応した。
 依然としてぶっきらぼうな態度は変らず、負けを認めたにもかかわらず、その威厳を必死に保つ。

「ええ、心配されなくてもこのくらい問題ありませんよ」

 アクアドラゴンはゆっくり目を開ける。
 目の前には心配した様子のアキラがいて、両腕両足には龍の靄を纏っていた。

「そうですか……やはりその力は」
「ん?」

 アキラはよく分かっていなかった。
 アクアドラゴンもはっきりとは教えず、自分の中で納得すると、「はぁ」と息を吐く。

「私は負けてしまったようですね。残念です」
「ざ、残念なの?」
「こんな人間に負ける何て……想像もしていませんでしたよ。はぁ、水神池の守り神である私が、幻獣であるはずの私が……負けるなんて、面目ないですね」
「そんなことないと思うけど……」

 アキラにはアクアドラゴンの気持ちを理解しようとすることはできても、完全に理解することはできない。
 アクアドラゴンはこの池の主。つまりはボスで、ボスが負けるということは、それだけで信用と信頼を失うことを意味していた。
 アクアドラゴンにはそれが耐えがたく、牙を剥き出しにして感じる。無力感を。

「貴女に何が分かるんです?」
「何も分からないよ。だって私、人からの期待とかで頑張ろうとかしてないもん」

 アキラはアクアドラゴンに答える。
 今まで、期待されることはあっても、その期待に応えたいとは思った。
 けれど期待を裏切ったらとか、面目ないと一切思ったことがない。だって期待されているのって、信じて貰えてるってことだから。アキラはそう意識を書き換える。

「それに、ほら!」

 アキラは人差し指をピンとする。
 水神池の水面。ここまで連れて来てくれたアクアドラゴンの眷属の鯉が跳ねていた。
 アクアドラゴンのことを慰めているのか、アキラにはそう見える。
 気にしたらダメ。そう言いたいらしい。

「ふん……如何やら私の完全敗北と言うことですね」

 アクアドラゴンは自分の負けを完全に認める。
 それからアキラへと顔をグッと近づけると、瞳孔を睨む。

「嘘偽りはない……みたいですね。そうですか、そうですか」
「だから私、龍の髭って言うアイテムは欲しいだけで、アクアドラゴンの髭が欲しいわけじゃ……うわぁ!」

 ザブーン!

 池から水飛沫が上がる。
 アキラは突然すぎて全身が余計にびしょ濡れになってしまい、ポタポタと滴る。
 意味が分らない。そんな中、アキラはアクアドラゴンの声を聴く。

「良いでしょう。それでは勝利に証を贈るとしよう」

 完全に上から目線。
 だけどアキラは気にせず、目の前から忽然と姿を消したアクアドラゴンを待つのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ユウ
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...