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◇350 【ユニゾンハート】(進化途中1)

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 水蒸気の先に居たのはアキラだった。
 しかし全くの無言。おまけに全身を包み込みようにもやが包み込んでいた。

「貴女は何者ですかって……あはは、私は私だよ」

 アキラの答えは適宜正確だった。
 しかしアクアドラゴンは畏怖する。
 何てことの無い返事のように見えて、その言葉には重みがあった。想いが込み上げられ、辿り纏わり、一つに結ばれつつあった。

 まだ発展途上。そんな生温い問い掛けでは簡単に返り討ちに遭ってしまうだろう。
 アクアドラゴンはそう感じ、アキラの息の根を止めるべき再び激流砲を放った。

「消え失せろ!」

 アクアドラゴンは激流砲、第四射を撃ち出した。
 しかしアキラはまるで逃げる様子もなく、軽く右手を振るう。
 するとパシャン! と、子供が水遊びでもするみたいに軽い水飛沫の音が混じり、激流は消え蒸発してしまった。むしろそのエネルギーを逆手に取られ、アキラは目を見開いた。

「ごめんね、その攻撃もう効かないよ」

 アクアドラゴンは絶句した。
 今の一瞬で全てを察した。

 想いの強さが違い過ぎる。
 触ってもいないのに、触れてもいないのに分かってしまう。
 アクアドラゴンはメンタルを擦り切られた。それだけじゃない。アキラへと加担し始めていた。

「こ、これは一体……しかもその靄は……今の一瞬で変化した?」
「ううん。進化したんだよ。アクアドラゴンの攻撃に適応できるように。勝つための道筋を明確にするためにね!」

 アキラの体を纏う靄の形が微かに変化した。
 龍の腕、龍の脚、ベースはアキラなのに、その上から鎧の様に纏っている。
 しかしながらまだ靄の状態で形にはならない。
 それでもアキラの頭の中には、今だけはっきりと聴こえていた。

『勝つための道筋……いいですね』
「本当は勝つ気何て無いんだけどね。でも、ここで発破をかけておくのは」
『そうですね。悪くないです』

 アキラっぽくはなかった。しかしアキラらしさも含まれていた。
 お互いにメンタルが完全に重なり合っていて、アクアドラゴンはより一層畏怖した。

「龍の力を身に纏い、意思を重ね合わせたことで記憶と力を呼び起こす……そんな真似、そんな小細工に私は負けない!」

 アクアドラゴンも本気になる。
 龍の髭何て如何でも良い。とにかくアキラを倒す。ただそれだけに執拗になり、背後に渦の塊を生み出す。

「ハイドロブラスター!」

 アクアドラゴンは勇ましく雄たけびを上げ、渦を漏斗ろうと状に変化させた。
 二つも展開されていて、アキラ目掛けて容赦なく放たれる。
 しかしアキラはピクリとも動かない。両腕を十字に構えると、ハイドロブラスターを受け止めた。

 ギュィィィィィィィィィィィィィィィン!

「この音、鋼鉄の鎧で弾き返すような音……耳障りな!」
「そうかな? ごめんね。それじゃあ!」

 アキラは両腕を振り払った。
 一瞬にしてハイドロブラスターに適応し、軽く受け流してしまう。
 周囲への被害はまるでなく、アクアドラゴンは圧倒された。

「私のハイドロブラスターを……」
「ごめんね。私、倒れたくないんだ」

 アクアドラゴンはのけ反った。
 けれど素早く意識を持ち直し、いよいよあの技を解放する。

「激流砲もハイドロブラスターも無効化してしまうとは、恐ろしい人間だ」
「恐ろしいはちょっと嫌だな」
「最高の褒め言葉として受け取ってください。なので私はこの技を使います!」

 アクアドラゴンの額が光り出す。
 宝石が埋め込まれているようで、そこにエネルギーが集まる。
 眩い閃光が放たれ、アクアドラゴンの額から青白いエネルギー刃が生み出される。

「今度はなに?」
「コレは私の技の中でも最高クラスの威力を誇る技。私の本気、受けてみなさい!」
「う、受けたくはないよ」

 アキラはこの期に及んでだった。
 しかしアクアドラゴンはアキラのことを倒すべき相手。
 本気を出しても問題ない相手と見込み、大技を繰り出す。

「消え失せなさい! ウォーターブレード!」

 アクアドラゴンは全身を使って額に生まれた特大の刃を打ち込んだ。
 水流が静止画の様に微動だにせず、細く強靭な刃になってアキラのことを襲う。

「こ、これは……うわぁ!」

 アキラは動けなかった。むしろ動かなかった。
 膝を落とすわけでもなく、構えを取るわけでもない。
 何故かは分からないが、アキラは避けなくても良いと思った。
 その判断に、頭の中で龍が語り掛ける。

『動かないんですか?』
「うん。動かないよ。動く必要もないから」

 もちろん達観しているわけではなかった。
 怖くない訳でもない。
 アキラ自身、これは確証があった。スッと両手を前の出すと、寸分違わぬ動きでウォーターブレードを叩き込みアクアドラゴンの姿があり、まさに今この瞬間、アキラのことを真っ二つにしようとしている。

「避けないよ。だって、避けたら……」

 ウォーターブレードは目の前。
 アキラは両手をスッと出すと、間一髪のところで水流の刃を受け止めるのだった。
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