VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
349 / 592

◇347 水神池の守り神

しおりを挟む
 アキラの目の前にはモンスターが姿を現す。
 その姿は明らかに龍で、全身が白く青い筋が入っていた。
 一言で言えば美しい。風景に溶け込むというよりも、風景を自分を引き立てさせるものにしてしまったみたいな感じだ。まるで自然の中から生まれたその姿は、あまりにも悠然としていて、アキラの視線を釘付けにする。

「えっ、あっ……はい?」

 しかしアキラの脳はキャパオーバーを迎えても、意識の切り替えでとりあえず言葉の意味を理解する。
 理解した上で、アキラは答えないとダメだと思い、龍相手に普通に話していた。

「えっと、池の水を飲んでみようかなって思ったんだ。喉渇いちゃって」

 本気で喉が渇いていた。
 湿地帯寄りな水神池の中は木々で覆いつくされているので、空気の逃げ道が少ない。
 特に東側はそれが顕著に出ていて、ジメジメとしっとりが合わさって喉の渇きを訴えさせた。

「池の水を飲む? 馬鹿なことを考える人間ですね」
「やっぱり馬鹿かな?」
「そうです。この池は神聖なもの。そんな神聖な水を飲もうなどと……」
「あっ、そっちなんだ。まあそっちもだよね」

 アキラはそれも念頭には置いていた。
 だけど微生物が居るから煮沸しないとダメだと思っていた。

「でもそうだよね。普通ダメだよね」
「分かったのなら早くこの場所から去りなさい。この場所は人間が踏み込んでいい場所ではありませんよ」
「そうなの?」
「ここは聖域。水神池の最奥に当たる、源泉そのもの。そして私が守護する地」
「守護する? 何だか仰々しいね」
「……?」

 アキラが不通に尋ねると、龍は突然黙ってしまった。
 何か考えるような仕草を取るも、言葉を使わない。
 強い眼がアキラのことを見つめると、何かを悟るような雰囲気を放つ。

「如何したの?」
「……貴女、龍が付いていますね。しかも私よりも高位の存在……幻神の中でも、相当な知能と力量を併せ持っている」
「はい?」

 完全に話が一方通行になっていた。
 目の前に居る龍は、アキラのことではなく、その先に居る何かを見ていた。
 それが如何してか嫌な気持ちになってしまい、アキラは立ち上がって龍を睨む。

「ちょっと待って。今話しているのは私だよ」
「?」
「貴女にとっては私なんてちっぽけな人間かもしれないけど、今面と向かっているのは私だよ。私が覚えていない誰かと話をするのは止めてよ。話に入れないでしょ?」
「別に話しに加わる必要は無い。そもそもここに立ち入ってきたことがそもそも杞憂なこと……ん?」

 何故か高圧的な態度を取られてしまった。
 それからアキラから視線を外すと、隣でパシャパシャ跳ねる鯉をチラ見する。
 体の半分以上を池の中に沈め、鯉と会話した。

「……そうですか、貴方が……一体何故?」
「あのー」
「釣られてしまった……それで?」
「ねー」
「ここに連れてきたくなった? 勝手な真似を……はい」
「ちょっと! 私の声聴こえてないの?」
「聴こえているから黙っていなさい」
「あっ、うん」

 龍に叱られてしまった。完全に自分のペースに持ち込まれている。
 別に良いんだけど、何だか態度がちょっとだけ嫌だった。

「なるほど。そういう事ですか」

 龍は鯉から事情を聴いたらしい。全てを納得すると、私の方を見た。
 頭を下げ、私のことをジーッと見つめると、「なるほど」とまた舐め回す。

「えっと、なに? 話は終わったのかな?」
「ええ、終わりましたよ。如何やら私の眷属が貴女をここに招き入れたようですね」
「眷属? そっちの鯉が?」

 あんまりピンと来なかった。
 だけど本当のようで跳び跳ねる。

「眷属? あっ、鯉は成長したら龍になるとか何とか?」
「人間の言うその逸話は知りませんが、とにかく私の眷属が世話になりましたね。感謝します」
「感謝しますって、随分偉そうだね?」
「私はこの池の守り神です。偉くて当然ですよ」

 何と自分の身分をわきまえるどころか、それをひけらかしていた。
 図々しいとは思わない。
 だけどもう少しマイルドでも良いんじゃないのかな?

「ねえ、もうちょっとマイルドにはなってくれないの?」
「マイルド? 私はこれでも優しく接している方ですよ。高圧的な威圧感は消えているでしょう?」
「威圧感? そんなの最初から感じないよ?」
「はっ!?」

 龍は驚いていた。
 思ってもみない答えに動揺を隠せない。もちろん威圧感は最初から放っていた。
 しかしアキラには全く通じない。だって怖くないから。

「本当に私が怖くないのですか?」
「うん、ちょっと態度がアレだけど……全然怖くないよ」
「ん……どれだけ強靭な精神を持っていれば、こんな所業が……」
「私、精神力最強だから」

 アキラは自分で笑ってしまった。
 こんな真似ができるのは何でもかんでも意識を切り替えてしまえるアキラだけ。
 それを龍自身が納得し、鋭い眼光がアキラを差す。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...