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◇347 水神池の守り神

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 アキラの目の前にはモンスターが姿を現す。
 その姿は明らかに龍で、全身が白く青い筋が入っていた。
 一言で言えば美しい。風景に溶け込むというよりも、風景を自分を引き立てさせるものにしてしまったみたいな感じだ。まるで自然の中から生まれたその姿は、あまりにも悠然としていて、アキラの視線を釘付けにする。

「えっ、あっ……はい?」

 しかしアキラの脳はキャパオーバーを迎えても、意識の切り替えでとりあえず言葉の意味を理解する。
 理解した上で、アキラは答えないとダメだと思い、龍相手に普通に話していた。

「えっと、池の水を飲んでみようかなって思ったんだ。喉渇いちゃって」

 本気で喉が渇いていた。
 湿地帯寄りな水神池の中は木々で覆いつくされているので、空気の逃げ道が少ない。
 特に東側はそれが顕著に出ていて、ジメジメとしっとりが合わさって喉の渇きを訴えさせた。

「池の水を飲む? 馬鹿なことを考える人間ですね」
「やっぱり馬鹿かな?」
「そうです。この池は神聖なもの。そんな神聖な水を飲もうなどと……」
「あっ、そっちなんだ。まあそっちもだよね」

 アキラはそれも念頭には置いていた。
 だけど微生物が居るから煮沸しないとダメだと思っていた。

「でもそうだよね。普通ダメだよね」
「分かったのなら早くこの場所から去りなさい。この場所は人間が踏み込んでいい場所ではありませんよ」
「そうなの?」
「ここは聖域。水神池の最奥に当たる、源泉そのもの。そして私が守護する地」
「守護する? 何だか仰々しいね」
「……?」

 アキラが不通に尋ねると、龍は突然黙ってしまった。
 何か考えるような仕草を取るも、言葉を使わない。
 強い眼がアキラのことを見つめると、何かを悟るような雰囲気を放つ。

「如何したの?」
「……貴女、龍が付いていますね。しかも私よりも高位の存在……幻神の中でも、相当な知能と力量を併せ持っている」
「はい?」

 完全に話が一方通行になっていた。
 目の前に居る龍は、アキラのことではなく、その先に居る何かを見ていた。
 それが如何してか嫌な気持ちになってしまい、アキラは立ち上がって龍を睨む。

「ちょっと待って。今話しているのは私だよ」
「?」
「貴女にとっては私なんてちっぽけな人間かもしれないけど、今面と向かっているのは私だよ。私が覚えていない誰かと話をするのは止めてよ。話に入れないでしょ?」
「別に話しに加わる必要は無い。そもそもここに立ち入ってきたことがそもそも杞憂なこと……ん?」

 何故か高圧的な態度を取られてしまった。
 それからアキラから視線を外すと、隣でパシャパシャ跳ねる鯉をチラ見する。
 体の半分以上を池の中に沈め、鯉と会話した。

「……そうですか、貴方が……一体何故?」
「あのー」
「釣られてしまった……それで?」
「ねー」
「ここに連れてきたくなった? 勝手な真似を……はい」
「ちょっと! 私の声聴こえてないの?」
「聴こえているから黙っていなさい」
「あっ、うん」

 龍に叱られてしまった。完全に自分のペースに持ち込まれている。
 別に良いんだけど、何だか態度がちょっとだけ嫌だった。

「なるほど。そういう事ですか」

 龍は鯉から事情を聴いたらしい。全てを納得すると、私の方を見た。
 頭を下げ、私のことをジーッと見つめると、「なるほど」とまた舐め回す。

「えっと、なに? 話は終わったのかな?」
「ええ、終わりましたよ。如何やら私の眷属が貴女をここに招き入れたようですね」
「眷属? そっちの鯉が?」

 あんまりピンと来なかった。
 だけど本当のようで跳び跳ねる。

「眷属? あっ、鯉は成長したら龍になるとか何とか?」
「人間の言うその逸話は知りませんが、とにかく私の眷属が世話になりましたね。感謝します」
「感謝しますって、随分偉そうだね?」
「私はこの池の守り神です。偉くて当然ですよ」

 何と自分の身分をわきまえるどころか、それをひけらかしていた。
 図々しいとは思わない。
 だけどもう少しマイルドでも良いんじゃないのかな?

「ねえ、もうちょっとマイルドにはなってくれないの?」
「マイルド? 私はこれでも優しく接している方ですよ。高圧的な威圧感は消えているでしょう?」
「威圧感? そんなの最初から感じないよ?」
「はっ!?」

 龍は驚いていた。
 思ってもみない答えに動揺を隠せない。もちろん威圧感は最初から放っていた。
 しかしアキラには全く通じない。だって怖くないから。

「本当に私が怖くないのですか?」
「うん、ちょっと態度がアレだけど……全然怖くないよ」
「ん……どれだけ強靭な精神を持っていれば、こんな所業が……」
「私、精神力最強だから」

 アキラは自分で笑ってしまった。
 こんな真似ができるのは何でもかんでも意識を切り替えてしまえるアキラだけ。
 それを龍自身が納得し、鋭い眼光がアキラを差す。
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