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◇346 霧が晴れたらそこには……
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アキラは鯉を追いかけることにした。
水神池の東側は何故か薄暗くて妙な雰囲気が絶えず立ち込める。
怖いとか、そう言ったマイナス思考なものではなく、単純に誰かに見られているような、アキラにはそう感じていた。
「ちょっと待って。よっと!」
鯉が泳いでいるのは川と言うにはあまりにも細すぎる水路。
見逃したら一巻の終わりなので、何とか追いかける。
木々の合間を縫いながら斜面を滑り降りる。
木の幹や枝に指や足を掛け、何とか食らい付く。
「せめてもう少し歩きやすい所にしてよ……えっ、今度はそっちに行くの!?」
鯉はアキラの木も知らぬまま、少し太めの川に出た。
幅は広くなり、鯉を発見するのは容易に思えるだろうが、一つ問題がある。
あまりにも霧が発生しすぎて視界が悪すぎた。
アキラも目を擦ると、「マジ?」と苦言を呈する。
「って、ここで止まったら本当に見失っちゃう! ……行こう」
アキラは意識を切り替える。ここで止まるのは何となく良くないと思った。
霧の中を迷わないように走る。何とか鯉に追いつくも、履いている靴など一式泥だらけだ。
「うっ……気持ち悪い」
しっとりと肌に纏わり付いた。
表情が歪んだものの、それでも鯉をひたすら追いかける。
すると少し変化が出た。目の前が霧に立ちもめられているのは変わらないのだが、臆にぼんやりとした光が見えるのだ。
「もしかして霧が晴れる?」
あまりにも突然だったので、これも水神池の仕様かなと、良くないことが脳裏を過る。
けれどそんなのは如何でもいい。
とにかくこの霧が晴れるのなら視界も良好で、鯉を追いかけることができるからだ。
「ここまで来たら、せめて何でもいいから何か欲しいよ」
アキラは本音を吐露した。
タイムアップも近い中、アキラの脚は地を思いっきり蹴り上げていた。
目の前の光りは近い。もう少しで霧が晴れる。
そう思った瞬間、目の前が真っ白になり、声を出す間もなく意識が掻き消えそうになった。
(な、何これ!?)
それがアキラが声に出せなかった感情。
そのまま意識は光に飲まれ、足は止まっていた。
「う、ううっ……」
暖かい。それが肌を射す。
アキラは眠っているみたいで、緑の柴の上で横になっていた。
近くには花が咲き誇り、水神池の雰囲気が何処にもない。
そのことに気が付いたのは、薄っすらと目を開けた瞬間だった。
「えっ!?」
あまりにも多すぎる情報に脳が追い付かない。
アキラは寝ころんだまま数十秒間フリーズし、瞬きをする余裕すらなかった。
これは一体何? そう思う気持ちと、ここは一体何処? の二つがせめぎ合う。
「もしかして、私死んじゃったの?」
何となくここが天国なのではと、そんな感じがした。
しかし如何やら違うようで、それもそのはずアバター姿のままだった。
「何が起きてるの? 一体ここは何処なの? は、一旦置いておくとして……ん?」
アキラは情報の整理を完全に放棄する。
とりあえず目の前には巨大な池が存在していた。
広く広く澄み渡り、空を映し出している。
周囲の木々はそれを邪魔しないよう、適宜間引かれていて、背景の一部と化していた。
まるでここは絵の中の世界。そんな気がしてならない。
「空が晴れてる。水神池の周辺は木々に覆いつくされているから、こんな景色絶対見られないのに……如何して? もしかしてテレポートしちゃった?」
流石にあの光が転移用のポータルだと思い込むしか説明のしようがない。
アキラは勝手に理屈を立ててみたのだが、とりあえず池には近づいてみる。
「うわぁ、綺麗な池。こんなに透明度高かったんだ」
アキラは感動的に感じた。
まさか光が透過するだけで、水神池はこんなに綺麗になるなんて。おまけに周りの雰囲気も相まって、アキラは心が温かくなる。
「この池の水って……うわぁ!」
鯉が急に水の中から顔を出す。
アキラは目を丸くすると、口をカポカポしていた。
「如何してそんなに忙しそうなの?」
まるで餌を欲しがる鯉のようだった。
アキラは言葉が通じているかは分からなかったけど、鯉に語り掛けていた。
すると鯉は尾鰭を使ってアキラの顔に水を掛けた。
「うわぁ!? ちょっと、急に何するの」
まるで池から離れるように言っていた。
何となくアキラはそんな気がすると、頭の中に声が聞こえた。
『この池の水は飲んではダメですよ』
「だ、誰!?」
何故か忠告を受けてしまった。
ポカンとしてしまったアキラは頭の中で聴こえた声に聞き覚えがあった。
何だかつい最近も聞いたような、聞いていなかったような? 不思議な体験をしたアキラだったが、顔を上げようとすると、突然水飛沫が上がる。
バッシャァーン!
目の前に水柱ができ上がる。アキラは目を奪われた。まさか唐突にこんなものができ上がるとは思えなかった。
しかし困惑するアキラはもっと困惑することになった。
急にアキラの真上に影ができて暗くなると、謎の声に語り掛けられた。
「そこで何をしているんです?」
「えっ?」
アキラはもう頭が一杯だった。
脳にキャパを通り越していて、目の前に現れた巨大なモンスターに目を奪われた。
水神池の東側は何故か薄暗くて妙な雰囲気が絶えず立ち込める。
怖いとか、そう言ったマイナス思考なものではなく、単純に誰かに見られているような、アキラにはそう感じていた。
「ちょっと待って。よっと!」
鯉が泳いでいるのは川と言うにはあまりにも細すぎる水路。
見逃したら一巻の終わりなので、何とか追いかける。
木々の合間を縫いながら斜面を滑り降りる。
木の幹や枝に指や足を掛け、何とか食らい付く。
「せめてもう少し歩きやすい所にしてよ……えっ、今度はそっちに行くの!?」
鯉はアキラの木も知らぬまま、少し太めの川に出た。
幅は広くなり、鯉を発見するのは容易に思えるだろうが、一つ問題がある。
あまりにも霧が発生しすぎて視界が悪すぎた。
アキラも目を擦ると、「マジ?」と苦言を呈する。
「って、ここで止まったら本当に見失っちゃう! ……行こう」
アキラは意識を切り替える。ここで止まるのは何となく良くないと思った。
霧の中を迷わないように走る。何とか鯉に追いつくも、履いている靴など一式泥だらけだ。
「うっ……気持ち悪い」
しっとりと肌に纏わり付いた。
表情が歪んだものの、それでも鯉をひたすら追いかける。
すると少し変化が出た。目の前が霧に立ちもめられているのは変わらないのだが、臆にぼんやりとした光が見えるのだ。
「もしかして霧が晴れる?」
あまりにも突然だったので、これも水神池の仕様かなと、良くないことが脳裏を過る。
けれどそんなのは如何でもいい。
とにかくこの霧が晴れるのなら視界も良好で、鯉を追いかけることができるからだ。
「ここまで来たら、せめて何でもいいから何か欲しいよ」
アキラは本音を吐露した。
タイムアップも近い中、アキラの脚は地を思いっきり蹴り上げていた。
目の前の光りは近い。もう少しで霧が晴れる。
そう思った瞬間、目の前が真っ白になり、声を出す間もなく意識が掻き消えそうになった。
(な、何これ!?)
それがアキラが声に出せなかった感情。
そのまま意識は光に飲まれ、足は止まっていた。
「う、ううっ……」
暖かい。それが肌を射す。
アキラは眠っているみたいで、緑の柴の上で横になっていた。
近くには花が咲き誇り、水神池の雰囲気が何処にもない。
そのことに気が付いたのは、薄っすらと目を開けた瞬間だった。
「えっ!?」
あまりにも多すぎる情報に脳が追い付かない。
アキラは寝ころんだまま数十秒間フリーズし、瞬きをする余裕すらなかった。
これは一体何? そう思う気持ちと、ここは一体何処? の二つがせめぎ合う。
「もしかして、私死んじゃったの?」
何となくここが天国なのではと、そんな感じがした。
しかし如何やら違うようで、それもそのはずアバター姿のままだった。
「何が起きてるの? 一体ここは何処なの? は、一旦置いておくとして……ん?」
アキラは情報の整理を完全に放棄する。
とりあえず目の前には巨大な池が存在していた。
広く広く澄み渡り、空を映し出している。
周囲の木々はそれを邪魔しないよう、適宜間引かれていて、背景の一部と化していた。
まるでここは絵の中の世界。そんな気がしてならない。
「空が晴れてる。水神池の周辺は木々に覆いつくされているから、こんな景色絶対見られないのに……如何して? もしかしてテレポートしちゃった?」
流石にあの光が転移用のポータルだと思い込むしか説明のしようがない。
アキラは勝手に理屈を立ててみたのだが、とりあえず池には近づいてみる。
「うわぁ、綺麗な池。こんなに透明度高かったんだ」
アキラは感動的に感じた。
まさか光が透過するだけで、水神池はこんなに綺麗になるなんて。おまけに周りの雰囲気も相まって、アキラは心が温かくなる。
「この池の水って……うわぁ!」
鯉が急に水の中から顔を出す。
アキラは目を丸くすると、口をカポカポしていた。
「如何してそんなに忙しそうなの?」
まるで餌を欲しがる鯉のようだった。
アキラは言葉が通じているかは分からなかったけど、鯉に語り掛けていた。
すると鯉は尾鰭を使ってアキラの顔に水を掛けた。
「うわぁ!? ちょっと、急に何するの」
まるで池から離れるように言っていた。
何となくアキラはそんな気がすると、頭の中に声が聞こえた。
『この池の水は飲んではダメですよ』
「だ、誰!?」
何故か忠告を受けてしまった。
ポカンとしてしまったアキラは頭の中で聴こえた声に聞き覚えがあった。
何だかつい最近も聞いたような、聞いていなかったような? 不思議な体験をしたアキラだったが、顔を上げようとすると、突然水飛沫が上がる。
バッシャァーン!
目の前に水柱ができ上がる。アキラは目を奪われた。まさか唐突にこんなものができ上がるとは思えなかった。
しかし困惑するアキラはもっと困惑することになった。
急にアキラの真上に影ができて暗くなると、謎の声に語り掛けられた。
「そこで何をしているんです?」
「えっ?」
アキラはもう頭が一杯だった。
脳にキャパを通り越していて、目の前に現れた巨大なモンスターに目を奪われた。
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