上 下
347 / 566

◇345 霧の中の鯉

しおりを挟む
 アキラは水神池の東側に向けて歩き始めた。
 流石に東側は暗く、おまけに木の枝も不気味に笑っていた。

「ううっ……なんだろ。何か居そうで怖いんだけど……」

 アキラはこんなことで怯えるような性格はしていない。
 しかし何故だろう。常に誰かに見られているような視線を感じ、アキラの警戒度がMAXに達しようとしていた。
 こんな感覚はここ最近なかった。なのにこの池に来て、東側へと踏み出した途端、全身を悪寒ではない何かが駆けて行く。

「さっきからなに? もしかして幽霊とか?」

 多分そうじゃない。
 それだけは肌感で解った。

「でも私には【幽体化】があるから大丈夫だと思うけど」

 独り言を呟きながらアキラは歩いた。
 すると急に足下がぬかるみ、アキラは近くの木の幹に手を付く。

「おっと」

 気が付けば結構歩いて来ていた。
 水神池の畔がほんの側にあり、覗き込んでみると自分の不安そうな顔が浮かび上がる。
 なんだからしくないなと思ったアキラは頬をパンと叩いた。

「気を取り直さないと。それにこの森も水神池も怖いって感じがしないのは分っていることだもんね」

 アキラは意識を切り替えた。
 得意のやり方で意識をすり替えると、周りに抱いていた無駄な恐怖観念が嘘みたいに消えていく。

 それからアキラは周囲を見回してみた。
 もう少し歩いたら丁度良さそうな釣りスポットがあるかもと思い、アキラは先へと進んだ。
 すると明らかに丁度良さそうな場所を見つけ、アキラはそこで張ることにする。

「ここで釣ろっかな」

 アキラはインベントリの中から釣竿を取り出す。
 大振りに振って遠目に投げ込んだ。
 水面に波紋が浮かび上がり、金属製の針が水の中に溶けていった。

「さてと、何か釣れるといいなぁー」

 アキラは気長に待つことにした。
 木の幹に背中を預け、そのままの流れで座り込む。
 視界が少し悪くなり、真っ白な霧が出始めた。

「これって霧?」

 東側は他とは一線を画す独特な雰囲気がある。
 地図上でも木々に覆いつくされていてなにがあるか分からない。
 そのためこうして霧が出ることも一応メモしておく。

「後で何かの役に立つかもだよね。あれ?」

 ふとアキラは視線を逸らした。
 すると真白なトカゲの姿がある。平べったい姿をしていて、もしかするとイモリかもしれない。

「凄い。私、真っ白なイモリを見るの初めてだよ!」

 何だか縁起が良さそうだった。
 アキラは自分の運の高さが良いことに自信を貰い、釣り糸に注力する。
 しかしながらまだ何も釣れてくれない。竿を上下にしてみても、左右に揺すってみても変かは感じられなかった。
 そのままいたずらに時間だけが流れていく。アキラはそれを感じ取るも、ここなら何か怒ると確信を持つことにした。

「そう思った方が良いよね。そう思った方が!」

 アキラは集中力が無くなりそうになると、頑張って身を引き締めた。
 釣竿に自然と力が入る。視野を広げて周りを見回すと、さっきのイモリの姿が視界に入る。

「あれ、さっきのイモリ……もしかして池の中に帰っちゃうの?」

 アキラは変に絡まらないように一旦釣竿を回収した。
 イモリはそれを見届けると、行けの中に戻っていく。

「じゃあね」

 イモリを見送るとそのまま姿は無くなる。
 もう一回釣竿を握りしめて、釣り糸を飛ばす。
 針が水面から池の中に潜ると、急に引っ張られた。

「えっ、急に何か掛かった!?」

 あまりの急展開にアキラはびっくりする。
 目を見開いて集中力を完全に取り戻すと、思いっきり釣り上げた。
 針に掛かっていたのは一匹の鯉だった。

「あれ? この鯉って」

 明らかに初日釣り上げた鯉だった。
 アキラは首を捻るものの、狙った獲物じゃないので今回も逃がしてあげることにした。

「今度は掛からないでね」

 もしかして餌がダメなのかな? アキラは考える。
 しかし池の水面から鯉が顔を出しているのに気が付くと、ちょっと困った顔をした。

「これじゃあ釣りができない……」

 神妙な表情を浮かべる。
 すると鯉にもその様子が伝わったのか、一旦水の中に帰還する。
 これなら再会できると思って釣り糸を投げると、今度はすぐ近くで鯉が顔を覗かせた。

「如何したの?」

 ついつい声を掛けてしまう。すると鯉が尾鰭を震わせた。
 コポコポと口を開けたり閉じたりしながら、細い水路を見つめている。明らかに何か意味があるとしか思えない。

「えっと、なに? もしかして、あの水路を辿ってってこと?」

 川と言うにはあまりにも狭く細く、正直見逃しちゃいそうなほど線が細い。
 しかしアキラの予想は当たっているようで、鯉はアキラがそう口にすると迷いなく泳ぎ始めた。これは何かある。絶対に意味がある。アキラは確信する。

「あっ、ま、待ってよ!」

 釣竿を一瞬で回収。
 鯉が悠々と泳いで行ってしまうので、アキラも見失わないように目を凝らして追いかける。
 その頃には周囲は霧に包まれていることを、アキラは気が付けなかったし、気付いてもいなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ユウ
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...