VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇345 霧の中の鯉

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 アキラは水神池の東側に向けて歩き始めた。
 流石に東側は暗く、おまけに木の枝も不気味に笑っていた。

「ううっ……なんだろ。何か居そうで怖いんだけど……」

 アキラはこんなことで怯えるような性格はしていない。
 しかし何故だろう。常に誰かに見られているような視線を感じ、アキラの警戒度がMAXに達しようとしていた。
 こんな感覚はここ最近なかった。なのにこの池に来て、東側へと踏み出した途端、全身を悪寒ではない何かが駆けて行く。

「さっきからなに? もしかして幽霊とか?」

 多分そうじゃない。
 それだけは肌感で解った。

「でも私には【幽体化】があるから大丈夫だと思うけど」

 独り言を呟きながらアキラは歩いた。
 すると急に足下がぬかるみ、アキラは近くの木の幹に手を付く。

「おっと」

 気が付けば結構歩いて来ていた。
 水神池の畔がほんの側にあり、覗き込んでみると自分の不安そうな顔が浮かび上がる。
 なんだからしくないなと思ったアキラは頬をパンと叩いた。

「気を取り直さないと。それにこの森も水神池も怖いって感じがしないのは分っていることだもんね」

 アキラは意識を切り替えた。
 得意のやり方で意識をすり替えると、周りに抱いていた無駄な恐怖観念が嘘みたいに消えていく。

 それからアキラは周囲を見回してみた。
 もう少し歩いたら丁度良さそうな釣りスポットがあるかもと思い、アキラは先へと進んだ。
 すると明らかに丁度良さそうな場所を見つけ、アキラはそこで張ることにする。

「ここで釣ろっかな」

 アキラはインベントリの中から釣竿を取り出す。
 大振りに振って遠目に投げ込んだ。
 水面に波紋が浮かび上がり、金属製の針が水の中に溶けていった。

「さてと、何か釣れるといいなぁー」

 アキラは気長に待つことにした。
 木の幹に背中を預け、そのままの流れで座り込む。
 視界が少し悪くなり、真っ白な霧が出始めた。

「これって霧?」

 東側は他とは一線を画す独特な雰囲気がある。
 地図上でも木々に覆いつくされていてなにがあるか分からない。
 そのためこうして霧が出ることも一応メモしておく。

「後で何かの役に立つかもだよね。あれ?」

 ふとアキラは視線を逸らした。
 すると真白なトカゲの姿がある。平べったい姿をしていて、もしかするとイモリかもしれない。

「凄い。私、真っ白なイモリを見るの初めてだよ!」

 何だか縁起が良さそうだった。
 アキラは自分の運の高さが良いことに自信を貰い、釣り糸に注力する。
 しかしながらまだ何も釣れてくれない。竿を上下にしてみても、左右に揺すってみても変かは感じられなかった。
 そのままいたずらに時間だけが流れていく。アキラはそれを感じ取るも、ここなら何か怒ると確信を持つことにした。

「そう思った方が良いよね。そう思った方が!」

 アキラは集中力が無くなりそうになると、頑張って身を引き締めた。
 釣竿に自然と力が入る。視野を広げて周りを見回すと、さっきのイモリの姿が視界に入る。

「あれ、さっきのイモリ……もしかして池の中に帰っちゃうの?」

 アキラは変に絡まらないように一旦釣竿を回収した。
 イモリはそれを見届けると、行けの中に戻っていく。

「じゃあね」

 イモリを見送るとそのまま姿は無くなる。
 もう一回釣竿を握りしめて、釣り糸を飛ばす。
 針が水面から池の中に潜ると、急に引っ張られた。

「えっ、急に何か掛かった!?」

 あまりの急展開にアキラはびっくりする。
 目を見開いて集中力を完全に取り戻すと、思いっきり釣り上げた。
 針に掛かっていたのは一匹の鯉だった。

「あれ? この鯉って」

 明らかに初日釣り上げた鯉だった。
 アキラは首を捻るものの、狙った獲物じゃないので今回も逃がしてあげることにした。

「今度は掛からないでね」

 もしかして餌がダメなのかな? アキラは考える。
 しかし池の水面から鯉が顔を出しているのに気が付くと、ちょっと困った顔をした。

「これじゃあ釣りができない……」

 神妙な表情を浮かべる。
 すると鯉にもその様子が伝わったのか、一旦水の中に帰還する。
 これなら再会できると思って釣り糸を投げると、今度はすぐ近くで鯉が顔を覗かせた。

「如何したの?」

 ついつい声を掛けてしまう。すると鯉が尾鰭を震わせた。
 コポコポと口を開けたり閉じたりしながら、細い水路を見つめている。明らかに何か意味があるとしか思えない。

「えっと、なに? もしかして、あの水路を辿ってってこと?」

 川と言うにはあまりにも狭く細く、正直見逃しちゃいそうなほど線が細い。
 しかしアキラの予想は当たっているようで、鯉はアキラがそう口にすると迷いなく泳ぎ始めた。これは何かある。絶対に意味がある。アキラは確信する。

「あっ、ま、待ってよ!」

 釣竿を一瞬で回収。
 鯉が悠々と泳いで行ってしまうので、アキラも見失わないように目を凝らして追いかける。
 その頃には周囲は霧に包まれていることを、アキラは気が付けなかったし、気付いてもいなかった。
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