上 下
346 / 570

◇344 絶対に釣りたいから!

しおりを挟む
「それじゃあ何か釣れたら連絡しよっか」
「そうだな。それじゃあ六時間後集合だ」
「「「うん」」」

 アキラたちはそれぞれ別れて釣りスポットを探しに向かった。
 とりあえずの集合時間だけは決めておき、フェルノを残してこの場から姿を消す。

「さーてと、私も釣るぞー!」

 フェルノは早速意気込みを熱く語る。
 とは言え今日が最終日なことは変わらないので、早速釣り糸を垂らした。

「そーれっ!」

 ポチャンと池の表面に波紋が浮かんだ。
 水面から滴ると、釣り針は見えなくなり、後は時間と根気の勝負になる。
 流石に今回は止められない。フェルノはそう決心し、ジッと座って待つことにした。


「この辺りでしょうか?」

 雷斬は水神池の西側にやって来た。
 中域までやって来ると、水流の流れはそれなりに速く、雰囲気もまた変わって見える。
 今の所魚らしき姿は見えないが、とりあえず木陰に入って釣り糸を垂らした。

「何か釣れると良いのですが……」

 雷斬は釣竿を木の枝に引っかける。
 釣り糸が引き込まれるのを期待しつつ、水流と睨めっこすることにした。


「よっと、ほっと! この変よね?」

 ベルは木の枝を伝って移動した。
 枝々の配置を見る限り、地面を歩くよりも安全そうだった。
 北側に回り込んだベルが目にしたのは、とんでもなく速い水流。地面は浸食でえぐり取られていて降りるのは危険だった。

「これじゃあ地面に降りられないじゃない。仕方ないわね。えーっと、この辺りで……あっ!」

 太い木の枝を見つけた。
 ここなら吸われそうだと思い腰を下ろすと、釣り竿が流されないようにしっかりと布で腕に固定する。

「これで良しね。というより、この激流の中で何か釣れるのかしらね?」

 ベルは木の幹に背中を預ける。頬に手を当てながら釣り竿が引くのをジッと待つ。
 とりあえず落ちないことだけ。それだけを考えることにしたベルだった。


 Nightは水神池から流れる水流を辿り、とにかく下降していた。
 まずは緩やかな川を見つけ、魚が泳いでいることを確認したい。
 水神池自体は池の規模が大きいせいもあって、まともに魚やモンスターを発見することは困難。効率を重視したいNightにとっては最悪な場所だった。

「あのまま池の周辺を探し回っていても効率が悪いからな。少しは変化を付けることも必要なはずだ」

 同じ場所に固まっていても釣れないことは明白。
 しかも龍の髭を入手できるスポットは少ない。時間毎に変化し、何処で釣れるのかも分からない。それなら下流の可能性もあるはずだと、賭けにも出ていた。

「釣れればいいんだが……おっ!」

 Nightは小魚が泳ぐ影を見つけた。
 果たして狙ったものが居るかは分からないが、とにかくやってみるしかなかった。

「この辺でいいか。【ライフ・オブ・メイク】!」

 NightはHPを削り、折り畳み式の椅子を用意する。
 さらにはパラソルも準備すると、早速釣りを始める。
 とにかく川の中に影を作らないように配慮しつつ、Nightも頑張るのだった。


「うーん、なかなか釣れないねー」

 フェルノは釣り糸に変化を持たせるため、上下に上げ下げしていた。
 時々引き戻して餌を付け直すと、また池の中に糸を垂らす。その繰り返しをかれこれ一時間ほどやっていた。

「まあ、そう簡単に釣れないよねー。しかもこの辺、私が昨日熱しちゃったからなー」

 フェルノは自業自得だと思った。
 妙に寒々しい風がフェルノのことを包み込むが、それでも諦めずに続けた。
 ここで投げ出すわけにはいかない。やり続ければ報われる。フェルノは首をブンブン振り、何度も何度も繰り返した。すると——

 ピーン!

 釣り糸が張った。水の中に引き込まれそうになって、フェルノは釣竿をしっかり握る。

「くっ! やっと来た当たりを逃さないよー」

 フェルノは当たりがあるので竹竿を適度に動かす。
 魚の動きに合わせて逃げられないようにタイミングを計った。
 ここで逃がしたら次はない。だから絶対に引き上げる。フェルノは真剣な眼差しで激闘を繰り広げる。

「負けない。絶対負けない!」

 釣り糸が引き込まれそうになる。
 それを黙っては見てられず頑張って釣竿を移動させた。
 全身運動をしながら引き摺りが弱まる瞬間を見逃さず、フェルノはじっくり待つ。
 そして——

「ここだ!」

 フェルノは一瞬の隙を突いて、釣竿を持ち上げた。
 すると池の中から影が引き摺りだされ、その姿が露わになる。
 真っ白な魚。いいや、モンスターだ。

「やったぁ! ……ってあれ?」

 フェルノは首を捻った。
 釣り上げた獲物は思った以上に小さい。しかもその姿に見たことがあった。

「これって、昨日の……」

 フェルノが変な顔をした。眉根を寄せて表情を歪める。
 釣り針に掛かった獲物はピクピクと跳ね回っているのだが、フェルノはボーッとしてしまった。

「まあいっか。あっ、ごめんごめん」

 フェルノは釣り針から得物を外す。
 とりあえず捕まえたモンスターを確認することにした。

「多分違うんだろうなぁー」

 手にした魚型モンスターは完全にナマズ。
 フェルノはあまり期待していなかったのだが、それも一瞬で覆され、それを悟ったのは数十秒後のことだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...