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◇330 私が当てても意味ないよ!

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 明輝は抽選機を回し、金色の玉を出した。
 黒いレザー質の下敷きの上で存在感を放ちつつ、全員の視線を釘付けにする。

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
「な、なになになに!?」

 明輝は慌てふためいた。
 何故か周りに居た人達が大合唱を始める。興奮しているみたいだけど、凄いと褒めてくれる人の割合よりも絶望している人達の割合の方が多い気がした。
 一体なんでだろう? 明輝は未だ分かっていなかったが、店員は特大なベルを鳴らした。

「お、お、大当たりぃ! 本日の目玉、特賞が出ましたよぉ!」
「あっ、特賞?」
「はい、少々お持ちください」

 店員さんがお店の奥の方へ移動する。
 その間後ろからの圧が明輝のことを睨みつけるが、明輝は全く気にしていない。
 だって明輝にとっては何の価値もない代物だからだ。

「特賞って確かプラモだよね? どれくらいの大きさ何だろ。きっとこういうイベントの商品なんだから小さめで限定カラーってことだから、パッケージが凝っている……えっ?」

 明輝はお店の奥から戻って来る店員にちょっと引いてしまった。
 両手いっぱいに抱えた大きな箱。パッケージはまだ見えなくて、明輝の前に持ってくるとようやくお目見えする。後ろの客たちも食い入るように覗き込んだ。

「お待たせいたしました。こちらが特賞のプラモデルになります」
「あ、ああ、ありがとうございます。重たいですね!」

 店員から明輝はプラモデルの箱を受け取ると、すぐさま列を離れた。
 結構な重量感があって、中では包装紙がペリペリと内側に当たって音を立てている。
 さらにはようやくパッケージを見ることができたのに色がかなり褪せていた。もともとこうなのかもしれないが、明輝からしてみればちょっとだけ微妙だった。

「あー、へ、へぇー」
「何微妙な顔をしてるのさ、みんなあんなに欲しそうな目をしているのに、当てた本人がそんな顔をしてたらダメでしょ?」
「そ、そうなんだけどね」

 明輝は烈火に怒られてしまう。だけど明輝にだって譲れないことがあった。
 プラモ初心者の明輝からしてみればこんな大きなプラモデルを作ろうなんて思わない。
 多分倉庫として使っている部屋の中で半世紀を過ごすんだろうなと容易に予想ができた。

(ごめんね、私が当てちゃって)

 明輝はプラモデルに対して心の中で謝った。
 すると蒼伊は気になることがあるのか、明輝に尋ねる。

「明輝、箱の中身を見せてくれないか?」
「は、箱の中身? ちょっと待ってね。セロハンテープを外すから」
 明輝は四隅に貼られたセロハンテープを剥がした。粘着力が弱く、簡単に外れてしまう。
下箱の白い部分が捲れそうになりながらも綺麗に剥がすことができて満足した明輝は、蒼伊にお願いされた通り、一旦箱の中身を確認してみる。

「どんな感じかな?」

 店の中に設置されたソファーに座り、箱の中身を確認する。
 明輝は表情を一変させた。とんでもない量のプラスチックの板が入っていて、「うわぁ」と心の声を吐露する。

「おお、大量のランナーだね」
「全部で十五枚か……しかもパーツごとに分割されている。控えパーツや武器を持たる用のアクションハンドを加えると全部で十七枚。おまけにクリアパーツも二枚か……大変だな」
「大変ってレベルじゃないよ!」

 明輝は気持ちを吐露して発狂してしまった。
 烈火と蒼伊からしてみれば「大変そう」レベルだろうが、明輝みたいな初心者からしたら「無理です」と大きな赤い×を付けたい。

「やっぱり私が持っていても意味ないよ」
「そんなことないってー。明輝もプラモデラーになればいいんだよ」
「それ、私も仲間にしようとしてない?」
「あははー。にしてもパーツ数凄いねー。何時間掛かるかなー」
「ちょっと待ってよ。話を逸らさないで!」

 烈火は完全に話を逸らした。
 明輝はちょっと怒り顔になってしまうが、蒼伊が間に入って烈火の質問に答える。

「まあ、十時間もあれば終わるんじゃないか?」
「おう、超大作だー」
「じゅ、十時間?」

 明輝には考えられない次元の世界だった。
 完全に興味の外側に行ってしまい、置いてけぼりを食らう。
それでも明輝は頑張って話に付いていく。

「えっと、この後は塗装とかもするんだよね?」
「塗装の前にやすりを掛ける必要もあるだろ。ミキシングするならパーツの分割や接着、パテ埋めなんかも必要だな」
「うっ……そんなの終わらないよ」
「だから素組みが妥当なんだ。それに十時間の目安は素組みだぞ?」

 蒼伊のとんでも発言に明輝の頭の中で時計が回転し始めた。
 十時間もは流石にと思ってしまい、考えようとするのを止め始めた。

「ちなみに素組みって?」
「何も加工せずにランナーから切り出してパチ組みしたやつだよ」
「うっ……もう付いていけないよ」

 明輝は考えることを諦めた。
 額を抑え、意識を切り替えることすら諦める。
 上箱を再び下箱に重ね、大き目の紙袋の中に封印することにした。完全に戦意喪失……むしろ忘れることで完璧に切り替えることに成功したのだった。
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