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◇319 せっかく見せて貰えたから

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 降美槍は壁を蹴った。
 全身を使って張り付くようにしながら右手で壁を押し込み、左足で壁をコツンと蹴ると、何故か壁が奥へと引っ込み、そのままスライドすることができた。

「はいっ!」
「「「降美槍さん!?」」」

 古典的というか、もはや芸術品。こんな面白ギミックを搭載した神社なんて、明輝たちは聞いたことも見たこともない。
 これを設計して可能にした設計士さんと宮大工さんは天才だ。
 きっと人間国宝みたいな人なんだと、勝手に解釈するレベルに優れている。

「凄いです。何ですか、この扉!」
「これが拝殿から本殿へと繋がる唯一の入り口です。早速本殿へ行きましょうか」

 降美槍はそれ以上言うことはなかった。
 しかし蒼伊は隕石の前にこのギミックが凄く気になってしまい、「角度調整か、それともバネを使って……だがバネのような物は何処にも……」などとぶつぶつ念仏を唱える。流石にうるさいので、「はいはーい、それは後でねー」と言いながら烈火が連行した。

「中も綺麗な造りなんですね」
「そうですね。本来ここは見せない場所ですが、内側にも龍の彫と過去に何が起きたのか、まるで後世に伝えるために彫られています」

 何故か内側にも龍の彫がチラホラある。おまけに二十年前に起きた隕石の衝突を漫画のコマみたいに切り取って描かれていた。
 しかも全部手彫のようで、相当な時間と労力が掛けられている。
 ちょっと汗が染み込んで変色している部分もあるが、そこも味だった。

「さてと、この先に隕石が祀ってあるんですよ」

 一番奥までやって来た。
 そこには扉があって、いよいよ本殿へと繋がっている。
 ゴクリと知らず知らずのうちに喉を鳴らしていて緊張しなくても良いはずなのに緊張してしまった。まだ扉は開いていないのに、強い迫力とエネルギーを感じ取る。

「あれ? 明輝如何したの?」
「緊張は体に良くないわよ。それにこんなことで緊張何てしなくてもいいのに」
「あはは。ありがとう……緊張なのかな?」

 明輝は悩んでしまった。言われてみればこれは緊張なのかと、頭の中がグルグルする。
 しかし降美槍だけはその行動に共感したのか、鋭い斬禍のような目を抱き、明輝に語り掛けた。

「貴女にも感じるんですね、明輝さん」
「降美槍さん?」

 これまた含みが込められていた。
 だけど降美槍はそれ以上言葉を交わすことはなく、ゆっくりと南京錠を解き、本殿の扉を開けた。

「それではどうぞ。これがこの神社の神様です」

 降美槍は盛大な文言で本殿の扉を開ける。
 すると中はもの凄く暗く灯りなんて一つもなかった。
 あるのはポツンと置かれた台が一つだけで、その上には久々に取り込んだ太陽光を感じ明るく光る大きな石だけだった。

「こ、コレが隕石?」

 明輝はポツポツ口に出していた。明輝だけではない。烈火や蒼伊までもが黙ってしまい、長い静寂が起こる。
 ジッと瞬きをする時間もなく、ただただドライアイになるまで隕石を眺めてしまった。
 それだけのパワーを隕石が秘めているということで、あらゆることを意識の外側へと追いやる。

「何だか神秘的だね。ただの石ころなのにさー」
「そうだな。だがこの石が数百万、数千万の価値がある」
「それを聞くとやっぱり変な話しだよねー。あはは」

 烈火は笑っていた。隕石の価値なんて、専門家じゃなかったらさっぱり分からない。
 けれどこの隕石は少し特殊なようで、降美槍は唸る。

「この隕石は少し特殊何ですよ」
「特殊?」
「はい。この隕石に触れた者は……」
「ま、まさか死んじゃうとかじゃないわよね! そんなの洒落にならないわよ」

 鈴来は怒鳴っていた。けれど降美槍は「違いますよ」と真っ向から否定する。
 それなら良いのだが、一体何があるのだろうか? 伝承だとしてもここまで来たら気になる。

「この隕石に触った人は特殊な体験をするそうですよ。如何特殊かは触れた人にしか分かりませんが、不思議な経験をするそうです」
「不思議過ぎて信憑性が無いな」
「確かに科学的に解明できていないまさにミステリーな代物ですね」
「そんなものが果たしてあるのか」
「宇宙からの贈り物ですよ。未だに人類が解明できていないものかもしれません」

 しかし蒼伊は「いや太陽フレアを利用すれば特殊な電磁波を意図的に発生させ……」と科学的な世界にのめり込む。
 烈火は背中をポーン! と軽く叩き無理やりスピリチュアル世界に戻した。

「触ったら何か分かるんですか?」
「如何でしょうか?」
「……降美槍さん、この隕石触っても……」
「ダメですよ。と、本来ならいうところですが、今回は特別に触っても構いません。ですが何が起きても保証はできませんよ」

 それを言われるととっても怖かった。
 明輝たちは一瞬ためらう様子を見せたが、自然と手を伸ばしていた。
 指先が硬いものに触れる。それぞれ感触は違ったけれど、確実に隕石に触るという偉業を成し遂げたのは変わらなかった。
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