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◇317 流れ星が降る山

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 今から二十年前のことだった。
 季節は冬。十二月の終わり頃の話だった。

 この辺り一帯には大きな山があった。
 名前はまだ付けられていないような、一際大きいものに目立ったものが何も無い、無名の山だった。

 それは真夜中、深夜零時を少し超えた辺りのことだと記録していた。
 その日ここ日本では珍しく、季節外れの何の予兆もない流れ星が見えた。

 キュィーン!

 ピカピカと輝く流れ星の姿をその時夜空を見上げていた人のほとんどが確認していた。
 とっても綺麗で美しく、尾を引いていた。
 流れ星と言うには単調すぎて、研究者の中には彗星や隕石の類と解釈する人もいた。

 しかも不思議なことに、この御鷹では他の場所とは比べ物にならない程、近くより一層輝いて見えていた。
 ゆっくりと弧を描きながら大気圏上空を悠然と飛行するその星が突然軌道を変えるまでは。

 それは一瞬の出来事だった。
 突然流れ星の軌道が変わり、下降し始めたのだ。
 しかもゆっくりではなく、まるでこの山に向かって降り注ぐようにしっかりと軌道を描きながら落下した。

 こうなったらただ綺麗なだけの流れ星ではなかった。
隕石の恐怖は人間の脳裏に染みついていた。
過去幾度となく生物を危険に晒していることを、古いニュース番組で取り上げられていたからだ。

「おいおい、この街に降って来るのかよ!」
「何で、如何して!?」

 政府が観測した流れ星はかなり大きな部類だった。
 しかしそれが降って来るということは、被害も甚大ではないということで、御鷹に住む人たちは一瞬にして幻想的なファンタジームードから危険な香りに掻き立てられて逃げ惑ったそうだ。

「く、車を出せ!」
「流石に死にたくねえよ!」
「が、学校に避難しなくちゃ!」

 人間の使っていなかった脳が解放された。
 まさに阿鼻叫喚の中、流れ星は飛来した。

 先程までと相も変わらずで、長い尾を引いたそれは、空から舞い降りた龍のようだった。
 逃げ惑う人々はその悠然となる美しさに駆られ、足を止めてしまった。
 ただジッと眺めているだけで時間は進み、気が付いた時には目の前から消えていた。
 ㇵッとなったのはその直後で、突然山の方からドーン! と聞いたこともないような爆音とともに地響きが上がった。

「な、何だよコレ!?」
「じ、地震!?」
「地面が揺れて……嘘っ」

 地響きがしばらく続いた。
 その場で動けなくなった人たちは周囲を確認した。幸いなことに建物への被害は少なく、屋根の一部が破損する程度だった。
 おまけに幸運は続き、誰も死ぬことはなかった。
 安堵する人々だったが、その視線の先は流れ星が降った場所へと向けられた。
 そこには一際大きな山があったのだ。


 “そこには確かに山があった”
 “だけどてっぺんは無くなっていた”


 流れ星は一際大きな山へと吸い込まれるようにして飛来した。
 その結果、山は半分以上が崩れてしまい、てっぺんは平らになった。
 奇跡的に崩壊することはなく土砂崩れなどは起きなかったが、あまりの変化に街の人たちは当然困惑したそうだ。

「や、山が、山が無くなったぞ!」
「これは祟りか?」
「いいや、山が俺たちを守ってくれたんだ!」

 以外にも街の人たちは寛容だった。
 スピリチュアル的なことを信じない人間もいたのだが、流石にその場に居合わせた人たちは自分達の不安を全て解決してくれた山に感謝した。

 そこが全ての始まりだった。
 それから街はお金を出し合って、この山の中腹に立派な神社を建てた。

 落ちた流れ星は隕石として処理され、国の行政に機関によって調査及び研究が行われたが、街の人たちの署名とこの奇跡のような逸話から、一部が献上された。

 今ではこの土地の守り神兼登山客からも神聖視されていた。
 本殿には隕石が祀られていて、普通の神社とは一風異なった点から密かには知られていた。
 こうして流れ星が降り注いだ神社にちなみ、流星と昔から神聖視される竜を駆け合わせたことで、この神社は龍星神社と呼ばれるようになったのだった。



「と言う話があります」
「「「はぁー」」」

 降美槍は話し終えると満足した顔を浮かべた。
 しかし聞いていた明輝たちからしてみれば初耳な話しだったので、ポカンと聞いてしまった。
 あまりにも単調な返事だったので、明輝は意識を切り替えてちゃんと感想を言おうとする。

「す、凄いファンタジーな話ですね! 面白かったです」
「そうですか。ありがとうございます」
「ちなみに隕石って言うのは……流石に?」
「本当にありますよ。この神社の本殿に祀られているんです」

 降美槍は嘘を付いているようには見えなかった。
 だけどもしそれが本当ならもっとたくさんの参拝客が居てもおかしくないはずなの、何故か静かで変だった。

「失礼かもしれないが……」
「参拝客が居ない理由ですよね? それだけの逸話が残っているのに如何してと……答えは簡単です。この神社がマイナー何ですよ」

 降美槍はちょっと悲しそう。
 何だか聞いちゃダメだった気がして、蒼伊は「すまない」と俯いていた。
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