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◇311 待ち合わせ場所に最初に居たのは

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 そろそろ時間だった。
 外も青い空が見えるくらいには晴れていて、暖かそうな雰囲気があった。

 だけどいざ外に出てみるともの凄く寒かった。
 昨日の寒さが一段と冷え込み、見立ての印象では測れなかった。

 けれどもの凄く寒いわけではなく、若干寒いなと思う程の寒さが凝縮されたようだった。
 温度計を見たところ、現在の気温は八度もあった。これは冬にしてはかなり高い方だと思うので、気にしないようにした。

「それでも寒いよ……少なくても斬禍たちが来るのはまだ先でしょ?」

 流石に三十分近く待つのは厳しいので、少し遅めに出た。
 ここから斬禍たちが住んでいる町までは大体四駅ほど離れていた。
とは言え電車はローカル線なので、二十分近くは揺られること確定だ。
十分くらい前に家を出るのがベストだと思った。

「流石に私が最初かな?」

 駅まで一番近いのは明輝じゃなくて烈火だった。
 なので少し遅めに出て来ると思い、足早になって駅前に向かった。
 すると思った以上に人の数が少なかった。待ち合わせ場所に丁度良い円形ベンチにはほとんどの人が座っておらず、真ん中に植えられた巨体な桜の下で一人本を読んでいる少女の姿があるだけだった。

「って、アレって……蒼伊?」
「ん? 明輝か。早いな」

 そこに居たのは蒼伊だった。近くによがらの姿も無いので、もしかしたらかなりの時間待ったのかもしれないと悟った。
 開幕明輝は「遅れてごめんね」と、別に時間に遅れているわけでもないのに謝ってしまった。
 とは言え蒼伊も言葉のズレを感じ取ったので、「謝るな」と訂正した。

「ごめんね。どれくらい待ったの?」
「私も今来たところだ」

 蒼伊は明輝の質問をサラッと返した。
 だけど明輝の眼光は鋭く、顔をマフラーで隠して悟らせないようした蒼伊を怪しんでいた。その証拠にいつもよりも肌の色が白かった。特に隠せていない首筋や手の甲が青白くなっていた。随分と待った証拠だ。

「ずっと待ってたんだね。三十分くらい?」
「……お前には通用しないのか」
「うん。風邪とか引いてない? 体調に不安はない?」
「過保護か。大丈夫だ。よがらみたいなことを言うな」
「や、やっぱり言ったんだ」

 だけど何となく想像でもできた。むしろ容易過ぎた。
 表情を歪める明輝はそのまま蒼伊の隣に腰を下ろした。

 それから明輝はちょっと気になることがあった。
 頭が良くて普段は効率厨な蒼伊が如何してこんなに早く待ち合わせ場所に居たのか、無性に心を撫でていた。

「待ち合せには遅れるべきじゃないと思ってな」
「それで早く来たんだ」

 つまりは楽しみにしていた、と言う訳だ。
 普段は自分からしか誘わないはずの蒼伊が、人からの誘いを嬉しく思ってくれた。
 きっと友達だからだと思うと、何だか心がむず痒くなって、蒼伊のことをより一層可愛く見えてしまった。声に出すと怒られるので、心の中だけにした。

「何だその顔は。不愉快だ」
「あはは、ごめんね」

 蒼伊はギロッと視線を配った。
 明輝は笑いながら誤魔化すと、一旦立ち上がった。

「何か飲み物買って来るよ。何が良い?」
「ブラックのコーヒーで構わない」
「ブラックコーヒーだね。ちょっと待ってて」

 明輝は一旦自販機に向かった。
 駅の外にはたくさんの自販機が並んでいて、どれを買うか迷ってしまった。
 特に買うものも決めていなかったからだ。そこでまずは、決まっていた蒼伊の分から買うことにした。

「うーん、本当にブラックコーヒーでいいのかな?」

 何となく明輝は違う気がした。
 顎に指を当てて蒼伊の顔色から本当は何が良いのか勝手に考えた。
 その結果、明輝はブラックコーヒーの隣のボタンを押していた。

「コレでも良いよね?」

 明輝は自分の分も買うと、自販機を離れた。
 それから少し足早になって、蒼伊の元に戻った。

「お待たせ! はい、コレ」
「ありがと。……ん?」

 明輝は飲み物を買って戻って来ると、本を読んでいた蒼伊に手渡した。
 受取った蒼伊はプルタブを外そうとしたが、アルミの感触が無くて首を捻った。
 手渡され飲み物が缶ですらなかったからだ。

「何だコレは?」
「何ってコーヒー濃いめのカフェオレだよ?」

 明輝が手渡したのはブラックコーヒーではなく、コーヒー濃いめのカフェオレだった。
 注文したものと違うものが出てきて、蒼伊は三秒ほど固まった。

「如何してコレ何だ? コーヒーが売り切れ何て早々ないだろ」
「それはそうだけど……」
「如何して注文通りにしなかったんだ?」

 蒼伊は激しい剣幕を抱いてはいなかったが、それでも明輝に尋ねていた。
 明輝は悩んだ末に思ったことを言った。あくまでも直感が囁いたのものだった。

「でもこっちの方が良いかなって? ダメだった?」
「……はぁ、まあいい」

 蒼伊は怒る気はなかった。
 溜息を吐くと蓋を開けて中身を飲んだ。
 少し苦いコーヒーの味とあっさりとしたミルクが溶け合って、蒼伊の心を安らかにさせた。

「美味いな」
「コーヒーじゃなくても良かったね」

 明輝は自分でやって置きながら、蒼伊が笑顔を浮かべてくれたのでにっこり微笑んだ。
 蒼伊の目がジロッと明輝を睨んだけれどそれすら一瞬で、まだまだ中身の入ったペットボトルを凝視していた。
 表情に笑みがあり、口角が少し上がっていた。

「とりあえず烈火が来るのを待とうか」
「そうだな」

 明輝と蒼伊は互いに飲み物を飲んだ。
 ミルク強めなカフェオレとコーヒー強めなカフェオレがそれぞれの口を潤して、体も心もポカポカにしてくれた。

 それからしばらく待っていると、遠くの方から「お待たせー」と呑気な声を出す烈火がやって来た。
 手を振りながら歩いて来る烈火の格好はあまり防寒が強いとは言えず、「流石は烈火」としか言いようがなかった。
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