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◇306 本当に蕎麦を持ってやって来た
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一年もこうして考えてみると随分と早かった。
楽しいことがたくさんあったからか、去年よりも明輝の心は晴れやかだった。
「今年ももう終わりかー。何だか早かったなー」
明輝はソファーに横になりぼーっとしていた。
今日の夕飯は簡単なものにしようと決めていた。
外は冬らしく寒いので、目的も無しに出る気にもなれなかった。
「それにしても本当に来るのかな、雷斬?」
雷斬なら来れない時は事前に連絡をくれるはずだ。
けれどそんなメッセージがドライブに入ることはなく、気が付けば九時五十分を過ぎていた。
「時間的にはもうすぐなんだよね。うーん、準備はしておいた方が良いのかな?」
烈火と違って事前に教えてくれるからありがたかった。
明輝はソファーから起き上がり、腕を天井に向けて伸ばした。
「とは言え掃除も終わってるし、今日と明日食べるものもあるもんね。宿題も蒼伊に朝まで付き合って貰ったから全部終わってる。ふはぁー、コーヒーでも飲もうかな」
ちょっとだけ寝不足だった。だけど三日までは予定が詰まっているので、ずっと寝ている暇は無かった。
そこで明輝は少しでも眠気を吹っ飛ばそうと、カフェインの力に頼ることにした。
「えーっと確か、ポットにお湯は沸いてたから」
明輝は立ち上がった。コーヒーを淹れようと思ったのだ。
するとピンポーンとインターホンが鳴った。
「あれ?」
明輝はコーヒーを淹れるのを止めた。
もしかしたら本当にと思い、玄関先に向かった。
「昨日のがただの口約束じゃなかったら……」
明輝は急いで玄関先に向かい扉を開けた。
セキュリティが外れ、ガチャと音を立てて扉の先に視線を向けると、そこには見慣れない少女がいた。
綺麗な黒髪を頭の上で結っており、長いポニーテールを作っていた。
背は高く、所々に筋肉が付いていた。けれどキリッとした目には見覚えがあったので、すぐに誰か分かった。
「おはようございます、アキラさん」
「もしかしてじゃないけど、雷斬だよね?」
「はい。雷斬こと雷斬禍です。お約束通り、こちらを持って参りました」
斬禍は紙袋を持って来ていた。
中には経木が三つ入っており、それぞれ優しく紐で十字に結ばれていた。
「これってもしかして……?」
「はい、お約束していた通り私の内で打った蕎麦になります」
「な、何だか悪いよ。わざわざこのために来てもらうなって……って、入って行ってよ。せっかく来たんだから」
明輝は斬禍を誘った。
すると斬禍は明輝の言葉に甘えて、少し休ませてもらうことにした。
「それではお邪魔致します」
「そんなに堅くならなくても良いよ」
明輝は斬禍を家の中へと入れた。
それから真っ先にリビングに連れて行くと、斬禍は通されて「お邪魔致します」と丁寧に答えた。
なんだか自分の家じゃないみたいで、むず痒くなって明輝は頬を掻いた。
「適当に座ってよ」
「お言葉に甘えます」
斬禍は空いていたソファーに腰を下ろした。
明輝もコーヒーを淹れると、対面のソファーに座った。
「コーヒー淹れちゃったけど、飲む?」
「はい、頂きます」
斬禍はリアルでも相変わらず丁寧だった。
謙遜するような姿勢を取り、明輝はやっぱりムズムズした。
「それじゃあ改めて私も自己紹介させた。こほん、私は立花明輝。リアルで会うのは初めてだよね?」
「そうですね。一年近くずっと向こうでは出会っていたのに……」
「でもそんなものらしいよ。オンラインGAMEって、オフ会とかじゃないと顔合わせしないらしいから、配信でもしてなかったら誰か何て分からないから」
明輝は知ったような口を叩いた。もちろん全て蒼伊の言葉を借りていた。
「それもそうですね。……このコーヒー、美味しいですね」
「ちょっと良い豆使ってるからかな?」
「態変味わい深いです」
明輝にはよく分からなかった。きっと蒼伊なら共感してくれるはずだ。
だけどコーヒーは好きでも嫌いでもないので、明輝には斬禍の反応と全く同じにはなれなかった。
そんな明輝の顔色を窺ったからか、急に斬禍は話を切り替えた。
気が付けばカップの中のコーヒーは半分近く無くなっていた。
「あっ、明輝さんはフェルノさんたちのご自宅をご存じでしょうか?」
「うん。知っているよ」
「それは何よりでした。実はフェルノさんたちの分の蕎麦も持って来ているんです」
袋の中に入っていた蕎麦はやけに多かった。
もしかしたらと一瞬思った明輝の予想は当たった。
それなら届けないといけないなと思い、明輝は斬禍に尋ねた。
「そう言えばこの後予定ってあるの? もし良かったら烈火の家までなら案内するけど?」
明輝は斬禍に尋ねてみた。
しかし斬禍は申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみません。実はこの後は家の事情がありまして、すぐに帰宅しなければ……」
「そ、そうなの!? えっ、それじゃあ本当にこのためだけに?」
「明日の下見はもう済ませてありますよ。ですのでまた明日ゆっくりお話致しませんか?」
明輝は斬禍から提案された。確かにそれもアリだと思った。
時間も押していると思ったので、明輝はきっぱり答えた。考えるまでもなかった。
「うんいいよ」
「すみません。それではまた明日」
斬禍はそう言うと、申し訳ない顔色を浮かべたまま家を出ていった。
斬禍が帰った後には、烈火たちの分の蕎麦が置かれていて、明輝は「早く届けないと」とポツリ吐いていた。
楽しいことがたくさんあったからか、去年よりも明輝の心は晴れやかだった。
「今年ももう終わりかー。何だか早かったなー」
明輝はソファーに横になりぼーっとしていた。
今日の夕飯は簡単なものにしようと決めていた。
外は冬らしく寒いので、目的も無しに出る気にもなれなかった。
「それにしても本当に来るのかな、雷斬?」
雷斬なら来れない時は事前に連絡をくれるはずだ。
けれどそんなメッセージがドライブに入ることはなく、気が付けば九時五十分を過ぎていた。
「時間的にはもうすぐなんだよね。うーん、準備はしておいた方が良いのかな?」
烈火と違って事前に教えてくれるからありがたかった。
明輝はソファーから起き上がり、腕を天井に向けて伸ばした。
「とは言え掃除も終わってるし、今日と明日食べるものもあるもんね。宿題も蒼伊に朝まで付き合って貰ったから全部終わってる。ふはぁー、コーヒーでも飲もうかな」
ちょっとだけ寝不足だった。だけど三日までは予定が詰まっているので、ずっと寝ている暇は無かった。
そこで明輝は少しでも眠気を吹っ飛ばそうと、カフェインの力に頼ることにした。
「えーっと確か、ポットにお湯は沸いてたから」
明輝は立ち上がった。コーヒーを淹れようと思ったのだ。
するとピンポーンとインターホンが鳴った。
「あれ?」
明輝はコーヒーを淹れるのを止めた。
もしかしたら本当にと思い、玄関先に向かった。
「昨日のがただの口約束じゃなかったら……」
明輝は急いで玄関先に向かい扉を開けた。
セキュリティが外れ、ガチャと音を立てて扉の先に視線を向けると、そこには見慣れない少女がいた。
綺麗な黒髪を頭の上で結っており、長いポニーテールを作っていた。
背は高く、所々に筋肉が付いていた。けれどキリッとした目には見覚えがあったので、すぐに誰か分かった。
「おはようございます、アキラさん」
「もしかしてじゃないけど、雷斬だよね?」
「はい。雷斬こと雷斬禍です。お約束通り、こちらを持って参りました」
斬禍は紙袋を持って来ていた。
中には経木が三つ入っており、それぞれ優しく紐で十字に結ばれていた。
「これってもしかして……?」
「はい、お約束していた通り私の内で打った蕎麦になります」
「な、何だか悪いよ。わざわざこのために来てもらうなって……って、入って行ってよ。せっかく来たんだから」
明輝は斬禍を誘った。
すると斬禍は明輝の言葉に甘えて、少し休ませてもらうことにした。
「それではお邪魔致します」
「そんなに堅くならなくても良いよ」
明輝は斬禍を家の中へと入れた。
それから真っ先にリビングに連れて行くと、斬禍は通されて「お邪魔致します」と丁寧に答えた。
なんだか自分の家じゃないみたいで、むず痒くなって明輝は頬を掻いた。
「適当に座ってよ」
「お言葉に甘えます」
斬禍は空いていたソファーに腰を下ろした。
明輝もコーヒーを淹れると、対面のソファーに座った。
「コーヒー淹れちゃったけど、飲む?」
「はい、頂きます」
斬禍はリアルでも相変わらず丁寧だった。
謙遜するような姿勢を取り、明輝はやっぱりムズムズした。
「それじゃあ改めて私も自己紹介させた。こほん、私は立花明輝。リアルで会うのは初めてだよね?」
「そうですね。一年近くずっと向こうでは出会っていたのに……」
「でもそんなものらしいよ。オンラインGAMEって、オフ会とかじゃないと顔合わせしないらしいから、配信でもしてなかったら誰か何て分からないから」
明輝は知ったような口を叩いた。もちろん全て蒼伊の言葉を借りていた。
「それもそうですね。……このコーヒー、美味しいですね」
「ちょっと良い豆使ってるからかな?」
「態変味わい深いです」
明輝にはよく分からなかった。きっと蒼伊なら共感してくれるはずだ。
だけどコーヒーは好きでも嫌いでもないので、明輝には斬禍の反応と全く同じにはなれなかった。
そんな明輝の顔色を窺ったからか、急に斬禍は話を切り替えた。
気が付けばカップの中のコーヒーは半分近く無くなっていた。
「あっ、明輝さんはフェルノさんたちのご自宅をご存じでしょうか?」
「うん。知っているよ」
「それは何よりでした。実はフェルノさんたちの分の蕎麦も持って来ているんです」
袋の中に入っていた蕎麦はやけに多かった。
もしかしたらと一瞬思った明輝の予想は当たった。
それなら届けないといけないなと思い、明輝は斬禍に尋ねた。
「そう言えばこの後予定ってあるの? もし良かったら烈火の家までなら案内するけど?」
明輝は斬禍に尋ねてみた。
しかし斬禍は申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみません。実はこの後は家の事情がありまして、すぐに帰宅しなければ……」
「そ、そうなの!? えっ、それじゃあ本当にこのためだけに?」
「明日の下見はもう済ませてありますよ。ですのでまた明日ゆっくりお話致しませんか?」
明輝は斬禍から提案された。確かにそれもアリだと思った。
時間も押していると思ったので、明輝はきっぱり答えた。考えるまでもなかった。
「うんいいよ」
「すみません。それではまた明日」
斬禍はそう言うと、申し訳ない顔色を浮かべたまま家を出ていった。
斬禍が帰った後には、烈火たちの分の蕎麦が置かれていて、明輝は「早く届けないと」とポツリ吐いていた。
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