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◇304 大晦日前のやり取り

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 ギルドホームには全員集まっていた。
 十二月三十日になったのに、こうも集まりが良いと何だか嬉しいのと半面、すっごく暇なんだなと思ってしまった。

「それじゃあアキラ、一月三日は予定空けておいてね」
「予定?」
「ちょっとちょっと、忘れないでよ。一月三日は、西東京に新しくできたプラモデル専門店に行くって約束だったでしょー? Nightもだよ」
「ああ。抽選販売に受かったやつだな」
「そうそう。流石にNightは覚えてたね」

 Nightはマルチタスクが使える。
 しかも記憶力もピカイチで、一度見たもの聞いたものは基本的にくだらないことでも覚えている潜在的な記憶力を持っていた。

「あー、十二月の前半でフェルノに応募してって言われたやつだね
「そうそう。確か当たったよね?」
「うん。とりあえず指定日通りにしたよ?」

 フェルノに頼まれていたけれど、アキラは一体何を頼まれたのかよく分かっていなかった。
 この中でプラモデルを作るのはフェルノとNightだけだった。

「正直何をしたら良いのか分からないけど、当日行けば良いんだよね?」
「うん。でも歩きやすい靴にしてねー。転んだら怪我するから」
「こ、転ぶことがあるの?」
「ある程度人数はカットされているはずだが、それでも人が集まると自然と惜しくらまんじゅう状態になるからな。それを危惧しているんだろう」

 アキラはちょっぴり怖くなった。
 だけどこの間のライブには行けなかったりしたので、今回は予定も決めていた。
 だからアキラは行くことを決心していた。

「それはそうと、みんなは正月は何をするの?」
「うーん、家でゴロゴロ過ごすかなー?」
「そう言っていつもみたいに筋トレでしょ?」
「まあねー。今年も来る、アキラ?」
「行かないよ」

 毎年フェルノは元日に走っていた。
 特にマラソンがあるわけでもなく走っていた。山の頂上で日の出を見ることを毎年のルーティーンにしていたのだ。

「私と雷斬はいつも通りよね?」
「はい。親戚一同の集まりや、神社に参拝することになっています。その後は持ち付きしたり、お正月料理を食べたりですね」
「凄い、昔懐かしい日本の正月風景だね!」
「そうでもないわよ。楽しいってわけでもないし、毎年毎年ね」
「少し大変ではありますが、年初めの立派な行事ですから」

 面倒そうに言うベルとは対照的に、雷斬は苦な表情を一切見せなかった。
 感情を押し殺しているようには見えないので、雷斬にとってはこれも普通なのだと思った。

「ですが皆さんの予定が無いのでしたら、一緒に神社に参拝致しませんか? 親戚同士のやり取りよりもそちらを優先しますよ」
「おっ、ここに来ての本音ね。しかもリアルでなんて……でもそっちの方が楽しいかも」

 まさかの提案を受けてしまった。
 それを聞いたフェルノも「はいはーい、私は全然いいよー」と手を挙げていた。

「緩いな」
「でもその方がフェルノらしいでしょ? それよりNightは如何するの?」
「私か? まあ暇だから空けておくか」

 Nightの理由も大概だった。
 アキラはしばし言葉を失うと、それから気になっていたことを尋ねた。

「そう言えば如何してログインできないのかな?」
「運営も忙しいんだろう」

 Nightの説明は一言で完結していた。
 十二月三十一日から一月の三日までは謎にログインできなかった。
 普通年末年始はソーシャルGAMEでもイベントを開催するはずだった。

「運営からアナウンスが掛かった時はびっくりしたよねー」
「うん。もしかして何かイベントの準備かな?」
「可能性はあるだろ。未だに対人イベントが無いんだ」

 確かにNightの言う通りだった。
 未だにプレイヤー同士が戦う系のイベントは開催されておらず、いつか来る気がプンプンしていた。

「とは言え正月を捨てたのは凄まじい決断だな」
「それはそうだよねー。でもさ、ログインできないって言っても他のGAMEで遊べばいいよね?」
「フェルノは宿題しないとダメでしょ? 毎年最後の方まで……」
「あー、アキラ。その話は無しね」

 フェルノが話を強制的にシャットアウトした。
 アキラは口を閉ざすと、フェルノが「危なかったー」と安堵していた。
 何が危ないのかは分からないが、フェルノは危惧していた。

「宿題か。まだ終わっていないんだな」
「むっ! 進学校のNightには言われたくないよ。それよりNightは自分の心配はしなくていいのかなー?」
「自分の心配? 何のことだ?」
「Nightの学校の方が何倍も偏差値高いんだから、宿題に遅れる……」
「あり得ない。むしろすでに終わっているから関係ない」

 Nightはズバリと言い切った。
 確かにNightは宿題は長期休暇の初日で終わらせてしまうタイプだけど、あまりの速さに言葉を失った。

「そもそも冬期休暇は課題の分量も少ないだろ」
「そ、それはそうだけど……難しさは上がってるよー」
「適当に片付ければいい。覚えていることを駆使すればできなくは無いだろ」

 もの凄く正論を言われてしまった。
 アキラたちは返す言葉が見つからず困惑し、ただNightの一人舞台を観客同然に見つめることしかできなかった。圧倒的に無力だった。
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