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◇293 ベツレヘムの輝きを!

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 トレントディアの動きが明らかに鈍っていた。
 Nightはそのことにいち早く気が付き、眉根を寄せて訝しんだ。

「如何したんだ?」
「「えっ?」」

 アキラとフェルノが振り返った。
 しかしNightは素っ気なく、「お前たちじゃない」と口にしてトレントディアに尋ねた。

「動きが鈍っているぞ。何かあったのか?」
「「えっ?」」

 アキラとフェルノも言われて気が付いた。
 トレントディアたちは街に入った辺りから急に動かなくなったのだ。

「もしかして怯えちゃったのかな?」
「可能性はあるな。あるいは、街に立ち込める澱んだ穢れの空気に当てられている可能性もあるぞ」

 確かに街に入ってから急に空気が重たくなった。
 街と言う巨大な箱庭の中、しかも現在の仕様上澱んだ人間の穢れが街の中に充満してしまっていた。
 
 いくら高い場所を飛んでいるとはいえ、上昇気流の様に街の中だけではなく外にも影響を及ぼしてしまっていた。
 明らかに最悪な状況、最悪の空気の中、トレントディアに集められた視線の数は尋常ではなかった。

「如何しよう。クリスマスイヴだからみんなサンタのそりだと思っているみたいだよ!」
「しかもトレンドディアたちも動かないから、視線が集中しちゃってる。うわぁ、たくさん人が居るよ。しかも立ち止まってこっちを見てる。う、うわぁ……」

 流石にこれだけの視線を相手にするのは慣れていなかった。
 フェルノですら億劫になってしまっていて、スポーツの試合とは違い集中するものが何もないのがフェルノの神経をすり減らしていた。

「ど、如何しようNight! ……Night?」

 アキラが困ったときのNight頼みで、振り向いて尋ねた。
 するとNightは何か作業をしていた。
 【ライフ・オブ・メイク】を使い何か作成していた。

「何を作っているの?」
「決まっているだろ」
「この状況を打開する装置だよね! やっぱりアレかな? 瞬間移動装置とか?」
「そんなわけが無いだろ」

 Nightは現実的だった。
 そんなものを作る素材もHPも時間も足りていなかった。
 なので作るものは最小限、しかもコンパクトに抑え込まれたものだった。

「こんな感じだな」
「Nightさん、それは何ですか?」
「手榴弾みたいだけど……まさか本当に火薬を詰めているわけじゃないわよね!」

 雷斬とベルが尋ねるが、話しが飛躍しすぎていた。
 流石にそこまで突飛ではないと思っていたが、案の定なようで、ベルに対して冷ややかな視線をNightは送った。

「そんな訳が無いだろ」
「そ、そうよね。分かっていたけど、そんな不謹慎な話がある訳ないわよね」
「当たり前だ。私もそこまで馬鹿ではないし、それにそこまでする必要もない。これは火薬ではなく……」

 Nightの手には手榴弾に似た形をしたアイテムが握られていた。
 黒いピンが付いていて、思いっきり外すとカチッ! とロックが外れる良い音が聞こえた。

「ロックが外れたけど何するの?」
「白い煙が出ているけど……まさかさー」
「ああそのまさかだ。そしてアキラ、お前の言う通りコイツはこう使うんだよ!」

 Nightが手榴弾の形をしたアイテムをそりの中に叩きつけた。
 すると急に白い煙がモクモクと立ち込めるのだった。

「うわぁ、な、何!?」
「Night、これってヤバい煙じゃないよね?」
「け、煙たい……訳ではないですね」
「本当ね。むしろ甘い?」

 ベルの言う通り、確かに甘い香りがした。
 口の中にも甘み成分が入り込んできたが、何だか綿菓子のようだった。

「コレって砂糖?」
「それにしてもベトベトしてないよー?」

 確かにイメージの中だと、砂糖って結構ベトベトしていた。
 しかし甘い香りに包まれて、しかも真っ白なので砂糖だと思い込んでしまっていたが、もしかすると違うのかもしれないと改め直した。

「別にコレは砂糖じゃないぞ。ただの煙玉だ」
「「「け、煙玉!?」」」

 全員が意識の外側からやって来た言葉に耳を奪われた。
 しかしそれなら納得ができた。
 とは言え如何して甘いのか、まだ疑問が残った。

「ねえNight。如何して甘いの?」
「そんなのは後だ。今は必要の無いことだ」

 完全に一蹴されてしまった。
 確かに必要は無いけれど、もの凄く気になった。

 下を見て見ると、煙に覆われてしまって何も言えなかった。
 とは言えNightの考えではこれで良いらしいので否定はできなかった。

「そんなことよりだ。トレンドディア、今だ、クリスマスツリーに向かってくれ」

 Nightが困惑するアキラたちを放置してトレントディアに伝えた。
 するとトレントディアたちは視線を感じなくなったおかげでクリスマスツリーへと駆け寄った。

 シャンシャンシャーン!
 シャンシャンシャーン!

 軽快な鈴の音を鳴らした。
 気が付けば残り時間も二分を切っていて、クリスマス当日を迎えるのも時間の問題となっていた。

「良し、ツリーの真上だな」
「えーっと、ここに乗せればいいのかな?」

 アキラは星型のアイテムを取り出した。
 釉薬も塗ってあり、まだ薄っすらと残ってはいたが、とりあえず乗せてみることにするのだった。

「これで輝きが生まれるな」
「うわぁ、Nightがピュアなこと言ってる」
「うるさい」

 フェルノはNightを茶化した。
 しかし可愛らしく「うるさい」とフェルノを一蹴してしまうのだった。
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