上 下
292 / 555

◇289 鈴の音が聴こえて

しおりを挟む
 マズいことになった。
 時間が足りないという、一番の敵が襲って来た。

「ど、如何するの?」
「如何するもこうも無いだろ」

 アキラの質問を、Nightが軽く一蹴した。
 正直な話、Nightもここまで時間が掛かるとは思ってもみなかった。

 クリスマスボアがこれほど強敵とは考えていなかったのだ。
 それにしても時間が溶けるのが早いと思ってしまった。
 
「体感で感じた時間がズレていたのか? 何が原因だ。最初は何時間かあったはずだが……不思議だ」
「これもクリスマスの奇跡でしょうか?」
「メルヘンだな」

 雷斬が悩みを解決できるように言葉を紡いだ。
 しかしNightの前では軽く気圧されてしまい、もっと根本を考え出してしまった。

 このままだと時間がもっと溶けてしまう。
 アキラがそう思うと、ピキーン! と納得のいく答えが出た。

「あれじゃない? ほら、アドレナリンがどぱどぱーってなって、脳が感じる時間の流れがズレてたんじゃない?」
「走馬灯と言うやつか……まあ、理解できるな」

 Nightが納得してくれた。
 しかし納得したからと言っても何が変わるわけではなかった。

 ここからスタットの街まで戻るにしても時間が掛かる。
 いくらここがGAMEの世界だとしてもだ。リアリティが追及されているので、全身に疲労感が残った。

「はぁはぁ……」

 雷斬とベルの息遣いが聞こえた。
 二人は相当なカロリーを消費しているようで、いくら体を絞って鍛えていると言っても限度があった。

 特に雷斬は【雷鳴】の反動が色濃く残っていた。
 炎で覆われたトンネルの中をあれだけの速度で走り抜けたんだ。
 酸素もほとんど残っておらず、一酸化炭素中毒になってもおかしくなかった。
 しかしながらGAMEに追求したリアリティを考えればやりすぎだ。

「大丈夫雷斬? ベル?」

 アキラは心配してしまう。
 すると雷斬はにこやかに微笑んで見せた。

「すみません、い、行けますよ」
「そうね。……まあ、私は大丈夫よ」

 ベルもすぐさま返答した。
 しかしアキラもフェルノもみんな無理をしていると気が付いた。

 やはり炎の壁のトンネルをくぐる荒業は危険だった。
 額や蟀谷から薄っすらと汗が滴っていた。

「仕方ないな。もう少し休むか」
「そうだね。でも時間が……ううん。私は友達の方が大事だよ」

 みんなの役に立てるとは思っていないし、助けられるほど誰も強くはなかった。
 だからアキラは体力を使い切った雷斬とベルの身を案じた。

「すみません。無理をし過ぎました」
「私も薙刀フォーム? は体力を限界まで振り絞って使い切るからダメなのよね。超短期決戦よ」

 二人とも座り込んだ。
 よっぽど疲れているようで、何時間も運動をし続けた挙句の練習の様だった。

「でもさ、このままだと色々マズいんじゃない?」
「そうだな。このまま行けば人間の深層心理に影響を及ぼして、現実に影響が出るかもしれない。だがここからスタットに戻っても、クリスマスツリーのてっぺんに如何やって飾るのか……」
「「あー」」

 問題はそこだった。
 ここから街に戻ってもクリスマスツリーに飾る方法が無かった。

「そうだよね。あんなに大きなもみの木だもんね。しかも……」
「武器は使えない。そいうことはスキルのみか……」
「それじゃあもみの木のてっぺんまで飛ぶスキルが必要だね。それじゃあ私かフェルノかな?」

 アキラとフェルノは互いに目配せした。
 「仕方ないかな」と笑っていたフェルノだが、Nightが吹き飛ばした。

「無理だ。アレだけ人が居るんだぞ。スキルを使ったとして、それで怪我人が出たら如何する? 殺人鬼レッドプレイヤーのみならまだしも、無関係のプレイヤーにまでスキルの反動が無差別に食らったら……」
「ちょっとマズいね。直接的じゃないから捕まらないと思うけど……」
「脳や精神への影響は出るだろうな」

 アキラの考えをすぐさま一蹴されてしまった。
 頭を抱えてしまい、このGAMEの難しさが出た瞬間を肌で感じた。

「えっ、それじゃあ手詰まり?」
「そんなことはないぞ。少なくともこの事実を知っている私たちは今この場でログインすれば影響は回避できるぞ」
「嘘っ!? えっ、そんなことしても良いの?」
「良くは無いだろうが、どうせ認知の外側だ。知ったことじゃない」

 Nightは悪魔の笑みを浮かべた。
 腕を組んだままどんよりとした空気で包み込み、クリスマスの雰囲気がドンドン薄暗い闇の中に落ちて行こうとしていた。

 だけどアキラは良くないと思った。
 そもそもの話、このGAMEがこんな真似をするということは、何か打開策が用意されているというわけだ。

「ちょっと待って。このイベントは運営が用意しているんだよね?」
「基本はそうだな。まあそういことだ」
「やっぱり……どんな結果でも受け入れるのなら、私は上手く行く方に賭けるよ」

 アキラは主人公的な笑みを浮かべた。
 諦めていない目でNightを見つめると、「そうだとは思った」と口走った。

「しかしこの状況で如何やって?」
「それは……これから考える」
「馬鹿か」

 普通に怒られてしまった。
 アキラは頭の中の足りない知恵たちを総結集させるが、何も思いつかない。

 そんな中、何処かからか何か聞こえてきた。
 先程耳にした鈴の音が心の穢れを払い落とし、だんだんと近づいている気にさせてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

Beyond the soul 最強に挑む者たち

Keitetsu003
SF
 西暦2016年。  アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。  ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。  アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。  『アルカナ・ボンヤード』。  ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。  アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。  しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。  アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。  その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。  ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。  各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。 『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』  あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。 *お話の都合上、会話が長文になることがあります。  その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。   投稿日は不定期です

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

処理中です...