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◇283 輪投げみたいに投げよう
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遠くの方から何か聞こえてきた。
空気が澄んでいるおかげか、遠くからでもはっきり聞こえた。
「ねえ、何か聞こえない?」
アキラはみんなに伝えた。
耳を澄ましてみると、確かに鈴の音のような綺麗な音が聞こえた。
「鈴の音か?」
「この音、街で聞こえていたのと同じだよ!」
音がだんだん大きくなっていた。
耳を澄ませなくても聞こえてきて、視界に黒い影が浮かび上がった。
「何かこっちに来るよ!」
「嘘だろ。クリスマスボアの相手だけでも大変なのに……ここに来て伏兵か」
Nightは唇を噛んだ。ここに来ての伏兵に見るべきものが増えてしまった。
しかしアキラには敵には感じなかった。
むしろこの音が心を澱ませていたものを洗い流してくれて、精神を正しくしてくれた。
見失っていたものを再び見えるようにしてくれたのだ。
「そっか。土埃を上げているのはあの牙なんだ。だからあの牙さえ何とかすれば……」
「それができたら苦労しない」
「問題はあの牙を折る方法よね」
「折らなくても良いと思うよ?」
アキラはそう口にした。
何を言い出すのかと思えば、根本を絶たないで倒す手段があるのかとNightは聞きたくなった。
しかし口には出さなかった。
頭の中でアキラの声が響き、考えが纏まった。
「空か!」
「急に何を言い出すの?」
ベルがNightを訝しんだ。
しかし本人は大真面目なようで、【ライフ・オブ・メイク】で強靭なワイヤー線を作り出した。
「アキラ、言いたいことは分かるな?」
「何を?」
「お前が跳べってことだ」
Nightは少ない口数で作戦を指示した。
受け取ったワイヤー線を凝視すると、【キメラハント】:【月跳】を発動させた。
足に白い兎の毛が覆った。
兎の跳躍力を得たアキラが高くジャンプした。
「何をするつもりですか?」
「アキラ曰く、牙を使わせなければいいんだ。そして土埃の鎧は体に体の正面と側面にしか発生しない。土埃が風圧に押されて鎧を作っているんだ。その分目にも土が入って、ただでさえ悪い視力を奪う。つまり……」
「「「つまり?」」」
三人はピンと来ていなかった。
しかし「見ていれば分かる」とNightは答え、アキラの姿を追った。
月明かりを受けて上空に影が差した。
輪郭をはっきりさせると、持っていたワイヤー線を投げつけた。
もちろんちゃんと狙っているので、死角からクリスマスボアの発達した牙に向かって投げつけていた。
「せーのっ!」
とは言ってもここから如何したら良いのか分からなかった。
普通に投げても当たる気がしなかった。
「せめて少しでも確立を上げるには……分かんないから【灰爪】!」
灰色の鋭い爪に絡ませた。
ワイヤー線を丸くすると、輪投げの要領で投げた。
丸くなったワイヤー線は不安定な形で揺ら揺らしていた。
あまりに遅いし不安な動きをするので当たる可能性がぐっと下がった。
「これ、当たったら奇跡だよね?」
アキラも笑うしかなかった。
正直牙に引っかかるとは思っていなかったので着地するまでの間月を見ていた。
「綺麗な月だなー」と思っていると、「ブフォォォォォォォォォォン!」とけたたましい声が聞こえてきた。
「えっ、嘘っ!?」
アキラは驚いて振り返った。
するとクリスマスボアが苛立ちを見せていた。
何に苛ついていたのかと思えば、牙にワイヤーが絡みついていた。
きつく縛られているわけではないのだが、何故か無性になってしまうようで突然攻撃の手が緩んだ。
「本当に引っかかるなんて」
しかしアキラは信じられない顔をしていた。
あんな適当に投げたワイヤーが輪投げの要領で牙に納まるなんて思わなかったのだ。
これも運のパラメータが高いおかげなのかと、アキラは考えていた。
「良し。これで動きは少し制限で来たな」
「でもあれだと、また土埃の鎧を……」
「いいや、もう纏えない」
Nightは断言して言った。
フェルノの質問を一蹴したのには理由があった。
暴れ回るクリスマスボアを見ていれば良く分かった。
牙に絡み付いたワイヤーが如何しても“気になってしまう”のだ。
「別にあのワイヤーには伸縮性は無く毒なども塗ってはいない。だが、ただでさえ目の悪いクリスマスボアにとってみれば立派な感覚器官の一つとして役割をこなしていたはずだ」
「感覚器官? 難しい話になって来たわね」
「これだけ余裕ができているのがその証拠だ。牙は行ってしまえば人間にとっての歯と同じだ。クリスマスボアも例外ではなく、しかも地面を抉る特性上、使用頻度や感覚の伝達能力は人間のそれ以上だ」
「はぁ?」
「要するに牙に常に違和感を与え続ける。すると如何なる?」
「感覚が鈍ってしまいますね。手の痙攣と同じです」
「そう言うことだ」
Nightの考えた作戦はこうだった。
牙にワイヤーを引っ掻けることで違和感を誘い、その結果相手を苛立たせて冷静な判断を鈍らせてしまうのだ。
牙は歯と同じで神経が通っていた。
あくまでGAMEの世界とは言え現実を忠実に再現してオマージュしているこの世界では例外でもなかった。
そこでNightは感覚器官を麻痺させる作戦を思いついたのだ。
全く持って嫌な戦法だとNightは自分で苦言を呈していた。
空気が澄んでいるおかげか、遠くからでもはっきり聞こえた。
「ねえ、何か聞こえない?」
アキラはみんなに伝えた。
耳を澄ましてみると、確かに鈴の音のような綺麗な音が聞こえた。
「鈴の音か?」
「この音、街で聞こえていたのと同じだよ!」
音がだんだん大きくなっていた。
耳を澄ませなくても聞こえてきて、視界に黒い影が浮かび上がった。
「何かこっちに来るよ!」
「嘘だろ。クリスマスボアの相手だけでも大変なのに……ここに来て伏兵か」
Nightは唇を噛んだ。ここに来ての伏兵に見るべきものが増えてしまった。
しかしアキラには敵には感じなかった。
むしろこの音が心を澱ませていたものを洗い流してくれて、精神を正しくしてくれた。
見失っていたものを再び見えるようにしてくれたのだ。
「そっか。土埃を上げているのはあの牙なんだ。だからあの牙さえ何とかすれば……」
「それができたら苦労しない」
「問題はあの牙を折る方法よね」
「折らなくても良いと思うよ?」
アキラはそう口にした。
何を言い出すのかと思えば、根本を絶たないで倒す手段があるのかとNightは聞きたくなった。
しかし口には出さなかった。
頭の中でアキラの声が響き、考えが纏まった。
「空か!」
「急に何を言い出すの?」
ベルがNightを訝しんだ。
しかし本人は大真面目なようで、【ライフ・オブ・メイク】で強靭なワイヤー線を作り出した。
「アキラ、言いたいことは分かるな?」
「何を?」
「お前が跳べってことだ」
Nightは少ない口数で作戦を指示した。
受け取ったワイヤー線を凝視すると、【キメラハント】:【月跳】を発動させた。
足に白い兎の毛が覆った。
兎の跳躍力を得たアキラが高くジャンプした。
「何をするつもりですか?」
「アキラ曰く、牙を使わせなければいいんだ。そして土埃の鎧は体に体の正面と側面にしか発生しない。土埃が風圧に押されて鎧を作っているんだ。その分目にも土が入って、ただでさえ悪い視力を奪う。つまり……」
「「「つまり?」」」
三人はピンと来ていなかった。
しかし「見ていれば分かる」とNightは答え、アキラの姿を追った。
月明かりを受けて上空に影が差した。
輪郭をはっきりさせると、持っていたワイヤー線を投げつけた。
もちろんちゃんと狙っているので、死角からクリスマスボアの発達した牙に向かって投げつけていた。
「せーのっ!」
とは言ってもここから如何したら良いのか分からなかった。
普通に投げても当たる気がしなかった。
「せめて少しでも確立を上げるには……分かんないから【灰爪】!」
灰色の鋭い爪に絡ませた。
ワイヤー線を丸くすると、輪投げの要領で投げた。
丸くなったワイヤー線は不安定な形で揺ら揺らしていた。
あまりに遅いし不安な動きをするので当たる可能性がぐっと下がった。
「これ、当たったら奇跡だよね?」
アキラも笑うしかなかった。
正直牙に引っかかるとは思っていなかったので着地するまでの間月を見ていた。
「綺麗な月だなー」と思っていると、「ブフォォォォォォォォォォン!」とけたたましい声が聞こえてきた。
「えっ、嘘っ!?」
アキラは驚いて振り返った。
するとクリスマスボアが苛立ちを見せていた。
何に苛ついていたのかと思えば、牙にワイヤーが絡みついていた。
きつく縛られているわけではないのだが、何故か無性になってしまうようで突然攻撃の手が緩んだ。
「本当に引っかかるなんて」
しかしアキラは信じられない顔をしていた。
あんな適当に投げたワイヤーが輪投げの要領で牙に納まるなんて思わなかったのだ。
これも運のパラメータが高いおかげなのかと、アキラは考えていた。
「良し。これで動きは少し制限で来たな」
「でもあれだと、また土埃の鎧を……」
「いいや、もう纏えない」
Nightは断言して言った。
フェルノの質問を一蹴したのには理由があった。
暴れ回るクリスマスボアを見ていれば良く分かった。
牙に絡み付いたワイヤーが如何しても“気になってしまう”のだ。
「別にあのワイヤーには伸縮性は無く毒なども塗ってはいない。だが、ただでさえ目の悪いクリスマスボアにとってみれば立派な感覚器官の一つとして役割をこなしていたはずだ」
「感覚器官? 難しい話になって来たわね」
「これだけ余裕ができているのがその証拠だ。牙は行ってしまえば人間にとっての歯と同じだ。クリスマスボアも例外ではなく、しかも地面を抉る特性上、使用頻度や感覚の伝達能力は人間のそれ以上だ」
「はぁ?」
「要するに牙に常に違和感を与え続ける。すると如何なる?」
「感覚が鈍ってしまいますね。手の痙攣と同じです」
「そう言うことだ」
Nightの考えた作戦はこうだった。
牙にワイヤーを引っ掻けることで違和感を誘い、その結果相手を苛立たせて冷静な判断を鈍らせてしまうのだ。
牙は歯と同じで神経が通っていた。
あくまでGAMEの世界とは言え現実を忠実に再現してオマージュしているこの世界では例外でもなかった。
そこでNightは感覚器官を麻痺させる作戦を思いついたのだ。
全く持って嫌な戦法だとNightは自分で苦言を呈していた。
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