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◇282 土埃の鎧

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 月明かりに照らされていた。
 アキラたちの目の前に現れたのは、体長が十メートル以上もある巨大な猪だった。

 二本の発達した長い牙が凶暴性を露わにしていた。
 振り返って互いに正面になると、アキラたちは構えた。

 いつ攻撃して来るか分からなかった。
 本当にこの猪なのかとまだ疑問の余地もあったが、額には赤くギラリと光る宝石がはめ込まれていた。

「この猪だね」
「そうだな。名前は……クリスマスボア。普通だな」
「記念って感じの名前だね。でも早速襲ってきそうだよ?」

 アキラたちは平然と会話をしていた。
 しかしクリスマスボアは後脚をガシガシと地面を踏み鳴らし助走をつけていた。
 これはマズいと脳が直感した。

「来るよ!」

 フェルノが叫んだ。
 案の定クリスマスボアが巨体を活かして突撃してきた。
 完全に正面衝突の突進攻撃だった。

 ドスンドスンドスンドスン!

 とんでもない速度だった。
 時速八十キロは余裕で超えていた。

「これなら避けられるねー」
「待ってくださいフェルノさん!」

 雷斬が何かを勘付き止めに入ろうした。
 しかしフェルノは拳を地面に突き立てて炎を呼び起こそうとした。

 乾燥で生じた地面の亀裂から炎を染み込ませた。
 するとクリスマスボアの足元を炎が襲い掛かったが、軽く一蹴された挙句、気にせず向かってきた。

「止まらないのー!」
「如何やら体毛が分厚いようですね。大変危険な状況です」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」

 ベルが二人を叱った。
 しかしクリスマスボアは真っ直ぐ襲い掛かった。

 ズドォォォォォォォォォォン!

 突然クリスマスボアがスピードを上げた。
 二本の角を地面に突き立てると、細かい土が巻き上がった。
 クリスマスボアの青い体に纏わり付き、衝撃波を起こした。

 時速は軽く百二十キロを超えていた。
 その巨体も相まって圧倒的な破壊力を見せつけた。

「マズいって!」
「皆さん一旦退避しますよ」

 アキラは傍にいたNightを抱きかかえると、【月跳】を使って逃げ出した。
 微かに腕に触れた大きめに石を【甲蟲】で武装して最小限のダメージ量で抑え込んだ。

 雷斬もフェルノとベルを抱えた。
 刀を抜く余裕は無く、二人を担ぎ上げると、【雷鳴】を呼んで、蒼い稲妻を纏った。
 超高速で逃げ延びたのだが、筋肉が引っ張られて苦しそうだった。

「あ、危なかった」
「死ぬかと思ったわよ」

 四つん這いになって汗を流していた。
 アキラたちは何とか初激をギリギリのところで回避に成功したのだ。

 振り返って見て見ると、クリスマスボアは標的を仕留め損ねてしまってキョロキョロしていた。
 如何やら目は相当悪いようで、月明かりがあるとはいえ暗いのもあり、何とか姿を隠すことに成功した。
 おかげでピンチではあるが、一旦は安心した。

「それにしてもさ、急加速した?」
「急加速ではない。アレは土埃を纏って突破力を上げているんだ」
「「「突破力?」」」

 Nightは見立てで判ったことを口にした。
 しかしアキラたちにはピンと来ておらず、指先に付着した土指先でこねていた。

「土埃。毎回思うが厄介だな」
「如何するの? これじゃあまた……」

 クリスマスボアはもう一度突進攻撃をしてきた。
 しかも今度は土埃が最初から付着しているので、より突破力を得られていた。

「また来たぁ!」
「しかもさっきよりも速くない?」

 フェルノが叫んだが、確かにスピードアップしていた。
 如何やら突進を繰り返す度に速くなるようで、本当に厄介なモンスターだった。

「Night、この間みたいに装甲の盾は出せないの?」
「出してもあの巨体だ。すぐに吹き飛ばされるぞ」

 一方向からの攻撃を平面で受けきることはほぼ不可能だった。
 しかもクリスマスボアの方が断然大きいので踏み潰されてしまうと、簡単に想像ができた。

「それじゃあ如何すの!?」
「避けるしかないだろ」

 Nightも考えが回らなかった。
 ここは平坦な場所で、草原の様に草が生えているわけでも無く、剥き出しの地面が広がっていた。

「穴を掘るにも時間が足りない。防御を張るにも敵が大きすぎる。ワイヤーを張るには太い幹の木が無い。地形を利用したいつものパターンが使えないのか……」
「それじゃあ……」
「かなり辛い戦いになるな」

 Nightは嫌な想像をした。
 このGAMEは普通にモンスターの方が強いので、スキルを活かさないとダメだ。
 けれど大きすぎる敵はそれだけでスキルを無に帰してしまった。
 こっちから攻撃する隙が土埃の鎧のせいもあり全くなかった。

「このっ!」

 一番距離を取っていたベルが弓を構えた。
 矢を一射放ち、クリスマスボアの額を狙って射た。
 しかし突進中なので当然当たってもダメージはほぼ無く、「くっ!」と悔しい想いをしながら退避した。

「ちょっと、本気で隙が無いわね」
「私とフェルノさんのスピードを活かした攻撃をしてみましょうか?」
「やめておけ。弾かれるぞ」

 しかしNightは一蹴して、二人の無茶を予め制止した。
 アキラも何もできていなかった。
 本当に何もできないのか、苦汁を舐める中と奥の方から何か聞こえてきたのだった。
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