VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
277 / 588

◇276 合流したいのですが

しおりを挟む
 噴水広場で少女が二人待っていた。
 一人は背筋を伸ばして立ち尽くし、もう一人は頬杖を突いていた。

「はぁー」
「来ませんね」

 雷斬とベルは暇そうにしていた。
 特にベルは暇そうで、ジトーッとしたまま動かなかった。

「全くもう。如何して来ないのかしらね」
「おそらくこの人だかりです。合流しようにもできないんでしょうね」
「まさかとは思うけど、ギルド会館からログインしたのかしらね?」
「多分そうでしょうね。この様子だと合流は絶望的です」

 雷斬は刀を装備していたら、鍔を鞘に当ててカチャカチャしている頃だった。
 ベルは「仕方ないわね」と言いながら噴水広場から出ようとした。

「何処に行くんですか、ベル?」
「決まっているでしょ? 三人を見つけに行くのよ」
「なるほど。こちらから捜しに行くんですね。良い案だと思います」

 雷斬とベルはアキラたちを捜しに行こうとした。
 しかしメッセージが送られてきたので、雷斬は足を止めた。

「待ってくださいベル。Nightさんからメッセージが届きました」
「メッセージ?」
「はい。『大通りの人だかりに捕まったから捜しに来るな。各自でクリスマスイベントを楽しみつつ、タイミングを見て合流するぞ』だそうです」
「何よそれ……はぁー。予想通りね」

 ベルは分かっていた。
 だからだろうか、溜息を一つ漏らすといつも通りになった。

「それじゃあそうさせてもらいましょうよ」
「そうですね。行きましょうか、ベル」
「ええ。何か美味しいものがあればいいけど、あるわよね?」
「おそらくは。あっ、あのお店はハートの形をした綿菓子を売っているみたいですよ」
「いいわね。買いましょうか」

 雷斬とベルは一緒に屋台に買いに行った。
 二人は綿菓子を頬張り、絶妙な甘さに震えるのだった。

「「美味しい!」」

 口角が吊り上がっていた。
 ただの綿菓子のはずが、ほっぺたを落とす甘みを持っていたのに驚いたのだ。


 一方、アキラたちは人混みの中を避けるように歩いていた。

「うっ……こっちは厳しいな」
「大丈夫Night?」

 Nightは人混みがよっぽど嫌なのか、頭を押さえていた。
 アキラは顔色を悪くするNightを心配したものの、人混みの熱気が災いして唇を噛んだ。

「ヤバいね。フェルノ、Nightの顔色は白い……っていない?」

 フェルノとはぐれてしまった。
 マズいことになった。このままだと人混みの波にのまれてしまうと思い、Nightを連れて端の方に寄った。

「Night、こっち来て」
「あ、ああ」

 急に先程までの覇気が無くなった。
 ここまでの熱気に当てられたようで、気分が悪くなってしまった。

「Night大丈夫?」

 アキラは水の入った筒を手渡した。
 Nightは受け取ると、ゆっくりと飲んで気分を整え直した。

「助かった」
「やっぱり人混みは苦手なの?」
「そんなことはないが……妙にこの熱気が生き物みたいになって、捌け口を見失っている気がするが……」
「確かに変な空気だよね。渦巻いているもん」

 アキラにも言いたいことが伝わっていた。
 この熱気がNightの精神を蝕み、その他の人の気持ちをハイにさせていた。
 如何にもイベントが空回りして、脳を活性化させてしまっているようだ。

「果たしてこれを運営が描いていたものなのか?」
「それは絶対に違うよ!」

 アキラは腹から声を出していた。
 アキラの訴えを聞いたNightは瞬きをしていたが、「やはりか」と納得した。

「とは言えこの状況を作り出しているものが他にあるはずだ。何かおかしな点は無いか?」
「おかしな点って?」
「例えば大事な何かを忘れている。もしくは何かの衝動に駆られている。どちらにしてもクリスマスと言う一大イベントを妨げる何かだ」

 そんなことを急に言われても、アキラにはピンと来なかった。
 しかしNightは何か引っかかるのか、唐突なことを口にした。

「そう言えば、アレは如何なった?」
「アレって?」
「星だ。プラモデルみたいなやつと言えば分かるか?」
「プラモデル? ……あ、ああアレだね!」

 インベントリからアキラは取り出した。
 まだ完成していないが、星の形をしていた。
 表からは釉薬を塗ってあった。
 光沢感が出ていて、少しだけ黄金色に光っていた。

「確かにコレは完成していないよね?」
「そうだな。とは言え、これが関係あるとは思えないが……」
「今、フラグ立ったよね?」
「如何だかな」

 Nightは話を自分で立てたのに、すぐさま回収した。
 そうこうしているうちに落ち着いて来たのか、Nightは「よし」と覇気を入れた。

「そろそろ行くか」
「おっ、Nightが復活した! とは言えフェルノが居なくなっちゃった……」

 頭を掻きながら周囲を見回した。
 すると何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あれ? アキラとNight。二人して如何したの?」
「「えっ?」」

 アキラたちの視線が人混みの中からひょっこり顔を出した一人に向けられた。
 虚無な顔をしていたが、それは格好のせいだ。

「何しているんですか、ピーコさん?」
「ソウラに言われて売り歩き。及び宣伝」

 目が死んでいた。
 本来こういう場に立ちたくないはずのピーコは本当に辛そうだった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

【完結】最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~

成実ミナルるみな
SF
 四鹿(よつしか)跡永賀(あとえか)には、古家(ふるや)実夏(みか)という初恋の人がいた。出会いは幼稚園時代である。家が近所なのもあり、会ってから仲良くなるのにそう時間はかからなかった。実夏の家庭環境は劣悪を極めており、それでも彼女は文句の一つもなく理不尽な両親を尊敬していたが、ある日、実夏の両親は娘には何も言わずに蒸発してしまう。取り残され、茫然自失となっている実夏をどうにかしようと、跡永賀は自分の家へ連れて行くのだった。  それからというもの、跡永賀は実夏と共同生活を送ることになり、彼女は大切な家族の一員となった。  時は流れ、跡永賀と実夏は高校生になっていた。高校生活が始まってすぐの頃、跡永賀には赤山(あかやま)あかりという彼女ができる。  あかりを実夏に紹介した跡永賀は愕然とした。実夏の対応は冷淡で、あろうことかあかりに『跡永賀と別れて』とまで言う始末。祝福はしないまでも、受け入れてくれるとばかり考えていた跡永賀は驚くしか術がなかった。  後に理由を尋ねると、実夏は幼稚園児の頃にした結婚の約束がまだ有効だと思っていたという。当時の彼女の夢である〝すてきなおよめさん〟。それが同級生に両親に捨てられたことを理由に無理だといわれ、それに泣いた彼女を慰めるべく、何の非もない彼女を救うべく、跡永賀は自分が実夏を〝すてきなおよめさん〟にすると約束したのだ。しかし家族になったのを機に、初恋の情は家族愛に染まり、取って代わった。そしていつからか、家族となった少女に恋慕することさえよからぬことと考えていた。  跡永賀がそういった事情を話しても、実夏は諦めなかった。また、あかりも実夏からなんと言われようと、跡永賀と別れようとはしなかった。  そんなとき、跡永賀のもとにあるゲームの情報が入ってきて……!?

仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男
SF
動物から嫌われる体質のヒロインがモフモフを求めて剣と魔法のVRオンラインゲームでテイマーを目指す話です。(なれるとは言っていない) ※R-15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同タイトルで投稿しております。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...