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◇268 夜野家の御屋敷(西洋風)

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 明輝は急いで駅前に向かっていた。
 いつもよりも足早で駅前に向かうと、ミルクティー片手に烈火が待っていた。

「おーい、烈火!」
「あっやっと来たねー。遅いよ、明輝」
「ごめんごめん。はぁはぁ……疲れた」

 明輝は膝を使って呼吸をした。
 その拍子に持っていた袋が地面に落ち、ゴトン! とアルミやスチールの缶が擦れる音がした。

「何これ、全部飲み物?」
「う、うん。色々あってこうなったんだけど……」
「色々って何!?」

 烈火はツッコミを入れた。
 明輝と違い気になってしまい、とやかく色々聞いた。
 明輝は呼吸を整えて軽く説明すると、「何それ?」と呆れてしまった。

 烈火が呆れるのも無理は無かった。
 これだけの量の飲み物を律儀に持って来たところが、明輝らしかった。

「ま、まあいいや。とりあえず行こっか」

 烈火は考えることを止めた。
 明輝の持って来た袋を代わりに持つと、「そんなに重くないね」と軽口を叩いた。

「嘘でしょ? 大体二十五キロあるんだよ?」
「軽い軽い。これくらい女子高生なら持てるでしょ?」
「もてないよ普通! いっつも腕にリストウェイト付けてる人が言わないでよ!」
「今も付けてるよ? ほいっ!」

 烈火から渡されたリストウェイトは重かった。
 普通に成人男性が使い以上に重く、大体五キロはあった。

 とは言えソレを差し引いても納得できなかった。
 流石にこれだけ腕を鍛えていたらテニスのインパクトも強いかもしれないと、明輝は痛感した。

「良く痛めないね」
「まあ私は筋肉の付け方気にしてたから。中学からちょっとずつウェイト上げてたでしょ?」
「確かに。それじゃあ烈火、リュックも任せていいかな?」
「オッケー」

 烈火はリュックを背負った。
 これだけで大体五十キロはあるのに烈火は平気な顔をしていた。

 もはや人間ではないのではと思ってしまった。
 漫画やアニメの世界から飛び出してきたのではと、総社ないと納得できなかった。
 しかし烈火は筋肉質だった。鍛え方が違うのか、かなり絞っていて大きくは無いのが特徴だと、意味のない想像をひたすら明輝はしてしまった。

「何してんの?」
「あっ、ごめんね。考え事してて」
「まあいいけどさ。とりあえず、駅の裏に回ってあの山を登ればいいんだよね?」
「うん。行ける?」
「問題無いよー。それじゃあ行こっか」

 烈火は笑みを浮かべていた。
 特に気負うことは無く、明輝と一緒に液の裏に回った。
 すると大きな山が見えていた。大体登るだけで三十分は掛かりそうだが、今からこの坂をダッシュすることになるのだった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 確かに裏道ではあった。
 だけど自転車で来るべきだったと、明輝は膝を屈伸させながら思った。
 全身に感じた疲労感がいつも以上で、公園から駅までやって来た弊害がここに来て出てしまった。

「足が疲れたよ」
「明輝ももっと鍛えないと」
「烈火みたいにリストウェイトは付けたくないよ」
「まあそこまでしなくてもいいけどさー」

 明輝はありがたく烈火の誘いを断った。
 明輝だってそれなりに筋トレは毎日続けているから別に筋肉が無いわけでもなかった。

「それよりこの先だよ。後は下り坂だから頑張ろうよ!」
「そうだねー。大体三十分くらいかな?」
「そうかも」

 ようやく上り坂を上り切り、後は下るだけになった。
 明輝たちは山の中にできた広い道を歩き、一気に下まで下りた。
 ここまで一切車の姿を見かけなかったが、流石は裏道だと安心した。

「今更だけどさ、本当にこの先も住宅地なのかなー?」
「一応ね。でも回覧板とかは無いかもね」
「いや、流石に距離的に無理でしょ?」
「確かに。この辺り、他に人気無いもんね」

 たわいもない談笑をしていた。
 そうこうしているうちに明輝たちは山を下り、次第に建物が見えた。

「明輝、アレっぽくない?」
「うわぁ大きな家だね。聞いてたけど、結構なお屋敷だよ!」

 明輝たちの視界に飛び込んできたのは大きな屋敷だった。
 ある程度予想はしていたけれど、流石に想像を超えて来る堅牢さだった。

「っていうか周りの柵がエグいんだけど」
「あ、あはは……何だか入り辛いね」

 明輝たちは表情を固めてしまった。
 眉根を寄せて近づいてみると、目の前には大きな西洋風の御屋敷。
 堅牢な佇まいと強固な柵が阻んでおり、入るのも躊躇ってしまいそうで、しばしインターホンを押す手が止まった。

「は、入る?」
「しかなくない?」

 インターホンを押してみた。
 最新式のようで、音が甲高かった。

 しばらく待ってみた。
 しかしものの三十秒ほどで、インターホンの向こうから声が聞こえた。
 落ち着きのある凛とした女性の声だった。

「どちら様でしょうか?」
「あ、あの。私たち蒼伊の友達の……」
「少々お待ちください。ただいま正門の鍵を外したので、そのままお入りください」

 カチッ!

 確かに柵の鍵が開いた。
 あまりの速さに言葉を失った明輝と烈火は上っ面いに「は、はーい」と返すのが精一杯だった。
 本当に入ってもいいのだろうかと二分ほど考えてから、明輝と烈火は大人しく屋敷に向かって歩き出した。
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