VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に！？

◇２５９ 雷斬に助けて貰った

　アキラの体が宙を舞った。
　むしろ高いところから落っこちて、ふわりとした感覚に襲われた。

（これ落ちてるね……烈火なら余裕で受け身捕るんだろうけど、そんなに自信がないなー）

　とは言えアキラに余裕があった。
　アキラも小さい頃から受け身の練習はしてきた。
　如何して必要だったのか分からないけれど、アキラが選択したのは受け身ではなかった。

（そうだ……【キメラハント】！）

　アキラはスキルを使うことにした。
　こういう時、奪ったスキルの中で活躍するものがあった。
　それこと最初に手に入れたスキルの出番だった。

「【キメラハント】……【半液状化】！」

　アキラの姿がスライムに変わった。
　プルンプルンになった体なら落っこちても痛みは無いはずだ。

　しかもスライムの体なら例え型崩れしたとしても大丈夫だ。
　破片が体に戻ってきて元の姿に戻ることができた。
　とは言えこんな経験したことないので、痛いのではないかと心配した。
　流石にこの高さだと、低いところから落ちた時の衝撃とは違うからだ。

「ううっ……やるしかないね」

　ギュッと目を瞑った。
　アキラは手はないけれど手を握って神様に願った。

（あんまり痛くありませんように！）

　そう願ったアキラは何かに触れた。
　ついに地面に落下したのだとスライムの体がバラバラになることを覚悟した。
　けれどそうはならなかった。むしろ少し少し硬いが温かいものに触れた。
　ビリリと何かが周りを走った。

「えっ？」

　アキラが顔を上げると、そこに居たのは雷斬だった。
　体の周りを青白い雷が纏っていた。
　ビリビリと音を立て、火花のような物が微かに散っていた。

（雷斬？）

　スライムの時は口がないので喋れない。
　けれど驚いていることは伝わっているようで、雷斬は安心した表情を浮かべた。
　優しい上に可愛らしかった。

「良かったです。危く大切なお友達が大変なことになるところでした」

　雷斬は安堵していた。
　スライム状態になったアキラのことをギュッと抱き寄せると、心臓の鼓動が全身に伝わった。

（心配させちゃったかな……ごめんね）

　アキラはスライムのまま言葉なく謝った。
　男なら別の思考が働くこの状況でもアキラは真面目だった。

「ごめんね。雷斬」
「アキラさん。気を付けてくださいね。スライムの状態とは言え、何かしらの負荷が掛かるかもしれませんからね」
「うん。気を付けるよ」

　雷斬がスキルを使って走り込んでくれなかったらと思うと、終わってみれば冷汗が出てきた。
　アキラは危険なことだったと、とことん自分を諫めた。

「ちょっと大丈夫？」
「大丈夫だよ。雷斬が助けてくれたから」

　ベルが心配して駆けよって来てくれた。
　アキラの緩い表情を見ると、ベルも安心したのか胸を撫で下ろした。
　それから雷斬に「ふーん」と唸った。

「如何しましたか？」
「突然呪族スキルを使ったと思ったらやっぱりね……でも、雷斬らしいわ」
「ありがとうございます」

　アキラは素直に褒められているのかと首を捻った。
　すると大樹へと視線を戻し、「厄介ね」と困り顔を見せた。

「まさかあのキツツキはモンスターだったのね。急に襲って来るとは思わなかったわ」
「もしかすると、この大樹のボスでしょうか？」
「可能性は高いわ。アキラを落としちゃうぐらいだもん」
「うーん。自分から落っこちたって言った方が近い気がするけど……でも、あのキツツキを如何にかしないと、カナリアを回収できないよ？」

　困ったことにキツツキは自分の空けた穴の中に居るカナリアを守っていた。
　多分鳥類だからではなく、自分の縄張りに人間が勝手に入って来たから襲って来た。
　そのせいでカナリアを回収する前に近づくと攻撃されてしまう仕組みになっていた。

　一番問題なのは大樹に登っている最中だということだ。
　キツツキに攻撃されたら当然痛い上に危ない。
　さっきみたいに落っこちてしまう可能性は非常に高かった。

　何か安全な方法は無いだろうか。
　アキラたちは必至に考えた。

「近づいたら攻撃される……とは言え虫網は届かないわね」
「Nightさんでしたら何か作ってしまうのでしょうか？」
「うん。でも今日はログインしてないね」

　それにNightに頼りっぱなしもダメだと思った。
　そこでアキラたちは足りない頭を補い合うと、一つ思いついたことがあった。
　言い出したのはアキラだった。

「ねえみんな、試したいことがあるんだけどいいかな？」
「何かあるのね」
「言ってみてください」

　二人は期待した顔をアキラに向けた。
　そこまで自信は無かったが、アキラは雷斬にある物を取って来るよう頼んだ。

「その前に雷斬。さっきの女の子から普段から持ち歩いているものを借りてきて」
「持ち歩いているものですか？　分かりました」

　雷斬は首を捻った。
　とは言え雷斬は言われるがまま、スキルを使って超高速で森の中を駆けて行った。

「アキラ、もしかしてあれをやる気なの？」
「ベルも分かった？　ほら、動物系のバラエティ番組でもよくやるよね」
「そうなの？　……でもそんなにうまく行くのかしら？」
「大丈夫だよ」

　アキラは自信満々だった。
　作戦自体には自体には自信はないが、ペットと飼い主の絆は確かだった。

「きっと帰りたいはずだよ。そうじゃないと、人が近づいたら逃げちゃうもん」

　アキラは先程の経験を踏まえていた。
　きっと上手く行くはずだと、アキラはにんまり笑みを浮かべていた。