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◇258 キツツキに襲われました
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アキラたちは音のした方に向かって走り出した。
冬なのに妙に暖かい森の中をモンスターに一切遭遇することなく走っていた。
「本当にモンスターが居ないわね」
「そうですね。この調子ですと、キツツキのモンスターではないのでしょうか?」
「普通の鳥ってこと? 確かにありえるかもね」
必ずしも敵意を持ったモンスターとは限らない。
そもそも今回は逃げてしまったカナリアを見つけることがクエストになっていた。
なのでモンスターと遭遇しても逃げればよかった。
「二人は戦いたいの?」
「私たちがそんな血に飢えてるように見えるの?」
「見えないよ」
「だったら答えなくてもいいでしょ? って、アレを見て」
ベルが叫んだ。
アキラたちは立ち止まり、指を指した方向を見つめた。
そこには巨大な大樹が生えていた。
他の木とは比べ物にならない大きさで、まさしく樹って感じがした。
「大きな樹だね。あそこなら何かいるかも」
「ちょっと待って。うん、聞こえるわね」
ベルは耳を澄ました。
それと同時に種族スキル【風読み】で風を読むと、コンコンと音が聞こえた。
如何やらあの大樹から聞こえてくるようで、行ってみる価値は高かった。
「うーん。ここからだと何がいるとかは良く見えないね……」
「そうですね。アキラさんの片眼鏡でもダメですか?」
雷斬はアキラのジャケットに備わっていた、今までこれと言った活躍もないアイテムを指さした。
残念ながらこの距離だとさっぱりで、アキラは首を横に振った。
質問した雷斬は悪いと謝ったが、気にされることでもないのでアキラは軽く受け流した。
「とりあえず行ってみるしかなさそうね」
「うん。とりあえず回り道をしてゆっくり行こうか」
警戒されても困るので、ゆっくり気を落ち着かせて向かうことにした。
それから大樹に辿り着いたのは五分後のことだった。
「到着……からの、凄いね」
「そうですね。まさかここまで立派だったとは思いませんでした」
どっしりと構えていたのは、まさしくこの森を守る大樹だった。
少し焼けているようだが、大きな葉っぱに艶のある樹皮。
どれをとっても他の木とは違って存在感があった。
しかも樹の真下は仄かに暖かい。
もしかしたらこの樹は特別なもので、太陽光を吸収することで周りに生えている木に活力を与えるのではないかと、アキラは考えてしまった。
「おっ、凄く熱い。これが生命力ってやつなのかしらね?」
ベルは樹皮に触れてみた。
すると全身に温もりが込み上げてきて驚いた。
「それだけじゃありませんよ、ベル。真上を見てください」
「真上? うわぁ、何この数の生き物!」
木の上にはたくさんの生き物が居た。
半分近くはモンスターで残りの半分はモンスター判定を受けていないものだった。
どちらも木陰に入り休んでいるようで、ゆったりと過ごしていた。
その姿が気持ちよさそうで、アキラたちはぼーっと見てしまった。
「良いわね。それにしてもモンスター以外にもいるのね」
ベルが気になることを言った。
如何してこの世界にはモンスター以外にも普通の生き物もいるのかとちょっと考えれば統一して良いと思った。
けれど何か事情があるのではと思い、特に言うこともなかった。
「それでカナリアは居るでしょうか?」
雷斬はすぐに目的に戻った。
これだけ生き物が集まっていると流石にカナリアの一羽ぐらいは居るはずだ。
目を凝らしてくまなく探した。
すると三つほど空いた穴の一つに青い鳥の姿が確認できた。
顔立ちからしてカナリアのようで、ひっそりとしていた。
「アレがそうじゃない?」
「本当だ。よーし、早速捕まえに行こっか」
アキラは樹に登り始めた。
雷斬とベルは危ないと思ったが、アキラのやっていることは仕方のないことだった。
カナリアが居るのは大樹に空いた三つの穴のうち一番高いところにあった。
いくら虫網を伸ばしても到底捕まえることはできなかった。
だからアキラは自ら危険を冒した。
もちろんアキラは落ちても大丈夫な自信がほんの少しだけあったからできたのだが——
「うわぁ、流石にした見たらヤバいね」
ふと下を見て見るとかなり高い位置まで来ていた。
でたらめにとにかく木を登っていたが、他の生き物からは軽々されていないようで安心した。
アキラたちの目的を肌で感じ取ったのか、自然が襲ってくることもなかった。
もう少しでカナリアまで手が届く。そう思った瞬間、キューン! と風を切る音がした。
「ん?」
「アキラ、上。上から何か来る!」
何か来るって何だ。
アキラが上を見上げると他の生き物たちは心配そうにアキラのことを見ていた。
動物からそれなりに懐かれるアキラは警戒されていなくて安心したが、如何して心配されるのか分からなかった。
けれど首を捻った瞬間、アキラの手に鋭いものが突き刺さった。
「えっ!?」
そこに居たのはキツツキだった。
黒いからだ、鋭い嘴。アキラは不意に手を放してしまい、足の力だけでは如何にもならなかった。
「あっ、コレヤバい奴だ……」
アキラは即座に判断した。
時間がゆっくりに感じたが、体はもの凄い速さで地面目掛けて落ちていた。
まさかキツツキに襲われるとは思わなかった。けれどアキラは気がかりでもあった。
大樹の真下にやって来た時、それまで聞こえていたコンコンが聞こえなかった。
多分警戒されていたんだと思い直し、溜息を吐きたくなった。
冬なのに妙に暖かい森の中をモンスターに一切遭遇することなく走っていた。
「本当にモンスターが居ないわね」
「そうですね。この調子ですと、キツツキのモンスターではないのでしょうか?」
「普通の鳥ってこと? 確かにありえるかもね」
必ずしも敵意を持ったモンスターとは限らない。
そもそも今回は逃げてしまったカナリアを見つけることがクエストになっていた。
なのでモンスターと遭遇しても逃げればよかった。
「二人は戦いたいの?」
「私たちがそんな血に飢えてるように見えるの?」
「見えないよ」
「だったら答えなくてもいいでしょ? って、アレを見て」
ベルが叫んだ。
アキラたちは立ち止まり、指を指した方向を見つめた。
そこには巨大な大樹が生えていた。
他の木とは比べ物にならない大きさで、まさしく樹って感じがした。
「大きな樹だね。あそこなら何かいるかも」
「ちょっと待って。うん、聞こえるわね」
ベルは耳を澄ました。
それと同時に種族スキル【風読み】で風を読むと、コンコンと音が聞こえた。
如何やらあの大樹から聞こえてくるようで、行ってみる価値は高かった。
「うーん。ここからだと何がいるとかは良く見えないね……」
「そうですね。アキラさんの片眼鏡でもダメですか?」
雷斬はアキラのジャケットに備わっていた、今までこれと言った活躍もないアイテムを指さした。
残念ながらこの距離だとさっぱりで、アキラは首を横に振った。
質問した雷斬は悪いと謝ったが、気にされることでもないのでアキラは軽く受け流した。
「とりあえず行ってみるしかなさそうね」
「うん。とりあえず回り道をしてゆっくり行こうか」
警戒されても困るので、ゆっくり気を落ち着かせて向かうことにした。
それから大樹に辿り着いたのは五分後のことだった。
「到着……からの、凄いね」
「そうですね。まさかここまで立派だったとは思いませんでした」
どっしりと構えていたのは、まさしくこの森を守る大樹だった。
少し焼けているようだが、大きな葉っぱに艶のある樹皮。
どれをとっても他の木とは違って存在感があった。
しかも樹の真下は仄かに暖かい。
もしかしたらこの樹は特別なもので、太陽光を吸収することで周りに生えている木に活力を与えるのではないかと、アキラは考えてしまった。
「おっ、凄く熱い。これが生命力ってやつなのかしらね?」
ベルは樹皮に触れてみた。
すると全身に温もりが込み上げてきて驚いた。
「それだけじゃありませんよ、ベル。真上を見てください」
「真上? うわぁ、何この数の生き物!」
木の上にはたくさんの生き物が居た。
半分近くはモンスターで残りの半分はモンスター判定を受けていないものだった。
どちらも木陰に入り休んでいるようで、ゆったりと過ごしていた。
その姿が気持ちよさそうで、アキラたちはぼーっと見てしまった。
「良いわね。それにしてもモンスター以外にもいるのね」
ベルが気になることを言った。
如何してこの世界にはモンスター以外にも普通の生き物もいるのかとちょっと考えれば統一して良いと思った。
けれど何か事情があるのではと思い、特に言うこともなかった。
「それでカナリアは居るでしょうか?」
雷斬はすぐに目的に戻った。
これだけ生き物が集まっていると流石にカナリアの一羽ぐらいは居るはずだ。
目を凝らしてくまなく探した。
すると三つほど空いた穴の一つに青い鳥の姿が確認できた。
顔立ちからしてカナリアのようで、ひっそりとしていた。
「アレがそうじゃない?」
「本当だ。よーし、早速捕まえに行こっか」
アキラは樹に登り始めた。
雷斬とベルは危ないと思ったが、アキラのやっていることは仕方のないことだった。
カナリアが居るのは大樹に空いた三つの穴のうち一番高いところにあった。
いくら虫網を伸ばしても到底捕まえることはできなかった。
だからアキラは自ら危険を冒した。
もちろんアキラは落ちても大丈夫な自信がほんの少しだけあったからできたのだが——
「うわぁ、流石にした見たらヤバいね」
ふと下を見て見るとかなり高い位置まで来ていた。
でたらめにとにかく木を登っていたが、他の生き物からは軽々されていないようで安心した。
アキラたちの目的を肌で感じ取ったのか、自然が襲ってくることもなかった。
もう少しでカナリアまで手が届く。そう思った瞬間、キューン! と風を切る音がした。
「ん?」
「アキラ、上。上から何か来る!」
何か来るって何だ。
アキラが上を見上げると他の生き物たちは心配そうにアキラのことを見ていた。
動物からそれなりに懐かれるアキラは警戒されていなくて安心したが、如何して心配されるのか分からなかった。
けれど首を捻った瞬間、アキラの手に鋭いものが突き刺さった。
「えっ!?」
そこに居たのはキツツキだった。
黒いからだ、鋭い嘴。アキラは不意に手を放してしまい、足の力だけでは如何にもならなかった。
「あっ、コレヤバい奴だ……」
アキラは即座に判断した。
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まさかキツツキに襲われるとは思わなかった。けれどアキラは気がかりでもあった。
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