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◇256 小鳥を捜して
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アキラはその日もスタットの噴水広場にやって来ていた。
スタットは綺麗な街並みが続き、日本には無いヨーロッパ諸国感があって好きだった。
「おっ!」
定期的に中央の大きな噴水が水を噴射する。
水柱ができ、上がった水飛沫がただでさえ寒いこの季節をより寒く感じさせた。
「ううっ、寒い……」
アキラは噴水に近づいていたので軽く水飛沫が掛かった。
寒さの余りすぐさまその場を離れると、噴水の向こう側に見知った背中があった。
凛とした立ち振る舞い。さらには腰には刀を装備している。
街中でも帯刀する人はそれなりにいるけれど、柄と鞘の間には紐が巻かれていて抜刀できないようにしていた。
さらに隣を見ればゆるふわウェーブ髪の少女。
頭には鈴の付いた髪留めをしていた。
同じく凛とした立ち振る舞いだが、目線が若干低くなっている。
「雷斬とベルだ。こんなところで何しているのかな?」
アキラは気になったので声を掛けに向かった。
すると「うぇーん!」と子供が泣く声が聞こえた。
よく見ると泣いていた子供は女の子で、NPCのようだった。
しかも雷斬とベルの目の前にいてあやしている真っ最中のようだ。
普通なら近寄り難い空気感だったが、アキラは雷斬たちの下に向かい、援護しに行った。
「大丈夫ですよ。私たちで捜してきますから」
「そうよ。だから泣かないで……あっ、そうだ。ポケットに確か飴が入っていたから……」
ガサゴソとポケットの中から飴を探す。
しかしなかなか見つからず焦ったベルだったが、不意に手が伸びてきた。
その手にはストロベリーキャンディーと堂々と包み紙に掛かれた飴が一粒乗っていた。
「はい。これあげるから泣かないで」
アキラは話を聞いていたのでインベントリからすかさず取り出した。
すると少女は受け取って中身を口の中に放り込むと、「美味しい」と言って泣き止んでくれた。
「良かったー。雷斬、ベル。どうしてそんな顔してるの? あれかな、鳩が豆鉄砲食らったってよく言うけど、そんな感じかな?」
雷斬とベルは突然のアキラの登場に驚いていた。
いつの間にやって来たのか全く気が付かず、目を丸くしていた。
「アキラ、貴女いつの間に……」
「ちょうど今だよ。二人の姿が見えたから声を掛けに行こうとしたんだ。そうしたらこんな感じになってて、何かあったの?」
「それはですね……」
雷斬は少女のことをチラリと見た。
手には鳥籠が握られていたが、中には何もいなかった。
何となくアキラも察しがついたが、雷斬の話を聞くことにした。
「この子の飼っていたカナリアが逃げ出してしまったそうです」
「カナリアが? 危険を感じて逃げ出したのかな」
「如何でしょうか。落ち込んで泣いているところに私たちが声を掛けたのですが、その時にはもう……」
雷斬は悲しそうな表情を浮かべた。
しかしベルが肘を入れ、気を取り直させる。
「私たちが気にしても仕方ないでしょ? それに雷斬もアキラもお人好し過ぎ」
「でも流石に可哀そうだよ」
「まあ確かに今回はそうね。だから私と雷斬でいなくなったカナリアを探しに行こうと思ったのよ。見つかるかは分からないけどね」
ベルは少女の前で堂々と言った。
その勇気が凄いが、確かに逃げ出した小鳥を捜すのはとっても大変らしい。
正直アキラも無理だとは思ったが、やるだけやってみようということになった。
「うん。それじゃあ私も手伝うよ!」
「いいんですか? 何かご予定があったのでは?」
「無いよ。今ログインしたところだから暇だったんだ」
「そうですか。ではよろしくお願いしますね」
雷斬は丁寧だった。
ベルもアキラが手伝ってくれると分かり笑みを浮かべると、少女に目線を合わせて何処に逃げたのか聞いてみた。
「それで何処に逃げちゃったか分かるかしら?」
おしとやかで落ち着いた声音に変わっていた。
不意に弓術モードに切り替え、猫を被ったようだ。
「ぐすん。あっち」
少女が指を指したのは建物の方だった。
けれど街中に逃げた訳ではなさそうで、地図を開いてみるとこの先には森があった。
未だに名前が分からない森が点々とする中、この森もどんな特徴があるのかさっぱりだった。
「えーっと、この森だね」
「そうですね。捜すとしたらこの森以外ありません」
アキラと雷斬は意見が一致した。
それからベルはカナリアの特徴を尋ねた。
「それで、逃げ出しちゃった子はどんな色してた? 大きさは、名前は言えるかな?」
「色は青いよ。名前はりーちゃん」
「ありがとう。よく言えたわね」
ベルは少女の頭を撫でた。
すると少女はベルの手を握って大粒の涙を零した。
「お姉ちゃん、りーちゃん見つかるかな?」
「如何かしらね。でもやれるだけのことはやってみるつもりよ。任せておいて」
ベルは集中していた。
被った猫を一つの自分として捉え少女に素で当たっていた。
その瞬間、ポップアップした画面にはクエストの文字があった。『カナリアの歌声を』とあるので、早速アキラたちは地図に書かれていた森に行ってみることにした。
スタットは綺麗な街並みが続き、日本には無いヨーロッパ諸国感があって好きだった。
「おっ!」
定期的に中央の大きな噴水が水を噴射する。
水柱ができ、上がった水飛沫がただでさえ寒いこの季節をより寒く感じさせた。
「ううっ、寒い……」
アキラは噴水に近づいていたので軽く水飛沫が掛かった。
寒さの余りすぐさまその場を離れると、噴水の向こう側に見知った背中があった。
凛とした立ち振る舞い。さらには腰には刀を装備している。
街中でも帯刀する人はそれなりにいるけれど、柄と鞘の間には紐が巻かれていて抜刀できないようにしていた。
さらに隣を見ればゆるふわウェーブ髪の少女。
頭には鈴の付いた髪留めをしていた。
同じく凛とした立ち振る舞いだが、目線が若干低くなっている。
「雷斬とベルだ。こんなところで何しているのかな?」
アキラは気になったので声を掛けに向かった。
すると「うぇーん!」と子供が泣く声が聞こえた。
よく見ると泣いていた子供は女の子で、NPCのようだった。
しかも雷斬とベルの目の前にいてあやしている真っ最中のようだ。
普通なら近寄り難い空気感だったが、アキラは雷斬たちの下に向かい、援護しに行った。
「大丈夫ですよ。私たちで捜してきますから」
「そうよ。だから泣かないで……あっ、そうだ。ポケットに確か飴が入っていたから……」
ガサゴソとポケットの中から飴を探す。
しかしなかなか見つからず焦ったベルだったが、不意に手が伸びてきた。
その手にはストロベリーキャンディーと堂々と包み紙に掛かれた飴が一粒乗っていた。
「はい。これあげるから泣かないで」
アキラは話を聞いていたのでインベントリからすかさず取り出した。
すると少女は受け取って中身を口の中に放り込むと、「美味しい」と言って泣き止んでくれた。
「良かったー。雷斬、ベル。どうしてそんな顔してるの? あれかな、鳩が豆鉄砲食らったってよく言うけど、そんな感じかな?」
雷斬とベルは突然のアキラの登場に驚いていた。
いつの間にやって来たのか全く気が付かず、目を丸くしていた。
「アキラ、貴女いつの間に……」
「ちょうど今だよ。二人の姿が見えたから声を掛けに行こうとしたんだ。そうしたらこんな感じになってて、何かあったの?」
「それはですね……」
雷斬は少女のことをチラリと見た。
手には鳥籠が握られていたが、中には何もいなかった。
何となくアキラも察しがついたが、雷斬の話を聞くことにした。
「この子の飼っていたカナリアが逃げ出してしまったそうです」
「カナリアが? 危険を感じて逃げ出したのかな」
「如何でしょうか。落ち込んで泣いているところに私たちが声を掛けたのですが、その時にはもう……」
雷斬は悲しそうな表情を浮かべた。
しかしベルが肘を入れ、気を取り直させる。
「私たちが気にしても仕方ないでしょ? それに雷斬もアキラもお人好し過ぎ」
「でも流石に可哀そうだよ」
「まあ確かに今回はそうね。だから私と雷斬でいなくなったカナリアを探しに行こうと思ったのよ。見つかるかは分からないけどね」
ベルは少女の前で堂々と言った。
その勇気が凄いが、確かに逃げ出した小鳥を捜すのはとっても大変らしい。
正直アキラも無理だとは思ったが、やるだけやってみようということになった。
「うん。それじゃあ私も手伝うよ!」
「いいんですか? 何かご予定があったのでは?」
「無いよ。今ログインしたところだから暇だったんだ」
「そうですか。ではよろしくお願いしますね」
雷斬は丁寧だった。
ベルもアキラが手伝ってくれると分かり笑みを浮かべると、少女に目線を合わせて何処に逃げたのか聞いてみた。
「それで何処に逃げちゃったか分かるかしら?」
おしとやかで落ち着いた声音に変わっていた。
不意に弓術モードに切り替え、猫を被ったようだ。
「ぐすん。あっち」
少女が指を指したのは建物の方だった。
けれど街中に逃げた訳ではなさそうで、地図を開いてみるとこの先には森があった。
未だに名前が分からない森が点々とする中、この森もどんな特徴があるのかさっぱりだった。
「えーっと、この森だね」
「そうですね。捜すとしたらこの森以外ありません」
アキラと雷斬は意見が一致した。
それからベルはカナリアの特徴を尋ねた。
「それで、逃げ出しちゃった子はどんな色してた? 大きさは、名前は言えるかな?」
「色は青いよ。名前はりーちゃん」
「ありがとう。よく言えたわね」
ベルは少女の頭を撫でた。
すると少女はベルの手を握って大粒の涙を零した。
「お姉ちゃん、りーちゃん見つかるかな?」
「如何かしらね。でもやれるだけのことはやってみるつもりよ。任せておいて」
ベルは集中していた。
被った猫を一つの自分として捉え少女に素で当たっていた。
その瞬間、ポップアップした画面にはクエストの文字があった。『カナリアの歌声を』とあるので、早速アキラたちは地図に書かれていた森に行ってみることにした。
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