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◇251 トレントディア2

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 ガサゴソガサゴソ——

 アキラたちは悪路を行く。
 青緑色の雑草が生えていて、まともには進めなかった。

「そりゃぁ! おりゃぁ!」

 鉈を振り回しているのはフェルノだった。
 柴刈りに来たのに本当に芝を刈ることになるとは誰も思っていなかった。

 周りには定期的に間隔を開けて木々は生え揃っていた。
 桜のような樹皮をしており、所々が剥けていた。

「フェルノ頑張って。早く追いかけないと逃げられちゃうよ!」
「任っせてよー!」
「とは言いつつ体力が落ちているが?」
「ギクッ!? そ、それはねー。あはははは……」

 流石に悪路をひたすら掻き分けてきたフェルノも疲れていた。
 ここまで大体二キロちょっと。
 いくら体力の有り余るフェルノでも、鉈の刃毀れまでは如何にもならなかった

「でもさ、このまま追いかけても追いつける気がしないんだけど?」
「それは……でも足跡もないのに追いかけるなんてできないよね?」
「だよねー。結局見失っちゃたし……困ったなー」

 フェルノも困り顔だった。
 それでもひたすら鉈だけは振っていた。
 少しずつ刃毀れして切れ味が悪くなっていく。

「ねえNight。何とかならない?」
「私を猫型ロボットと一緒にするな」
「一緒にはしてないし、Nightは吸血鬼でしょ? ヴァンパイアでしょ?」
「日光平気だもんねー」

 皮肉たっぷりにNightを煽った。
 するとムッとした表情を浮かべ、眉根を寄せたNightだったが、流石に三十分も歩き続けてトレントディアを見失ったとなれば話は別だ。

「仕方ないな。二人とも、ここは何だ?」
「「GAMEの中だよ?」」
「そうじゃない。ここは如何いう場所だ?」
「ファンタジー世界だよ。だって魔法は無いけどスキルはあるから」
「……その面じゃない。この世界はとてもリアルな作りを再現している。モンスターの中でもモデルが居る場合は尚のことな」

 Nightはそう言うと、間隔を開けて立ち並ぶ木々に近づいた。
 それから何をするかと思えばしゃがみ込み、表面をジッと眺めた。

「やっぱりな……」

 そう言うと、剥けた木の皮の表面ではなく内側を触った。
 ボロボロと崩れてしまい、地面には赤茶けた木の中身が落ちていた。

「うわぁ、結構酷いね」
「何でこんなことになったのかなー?」

 アキラとフェルノは見るも無残な姿に困惑した。
それと同時に、如何してこんなことにと首を捻った。
 
「お前たち、鹿が何を食べるか知っているか?」
「「えっ?」」
「鹿は例に二ホンジカを挙げるが、イネ科の草や木の葉、ドングリに笹を始めとして、有毒なシキミやアセビみたいな一部の有毒な植物以外は基本的に何でも食うんだ」
「そ、そうだったんだ」
「そう言えばちょっと前まで鹿が増えすぎて大変だったって時代があったよねー」

 アキラも思い出した。
 今から数年前まで鹿は数が増え続けていた。

 よくテレビでも取り上げられていたけれど、鹿が増えすぎると大変なことになるらしい。

 元々は数が居たけれど人間の仕業で個体数が激減した。
 それを咎めて個体数を維持すると爆発的に増加した。
 色んな植物を食べて、自然環境も整って、捕食者も人間のせいで居なくなってしまった。
 だから人間が何とかしないと行けないけど、狩猟者も増えなかった。

こうして並べて考えてみると、全部人間が悪かった。
 人間の仕業で個体数が大幅に変化してしまったと、中学の授業で習ったことをぼんやり思い出した。

 だけどアキラやフェルノはあまり響かなかった。
 だって身に染みて実感したことはないので、Nightに尋ねる。

「Night。それとこれと何か関係があるの?」
「大有りだ。鹿は木の皮を食べるからな」
「「そんなの食べるの!」」

 アキラたちは驚いた。
 しかしNightは特に気にする様子もなく淡々としていた。

「正確には表面の樹皮を剥いで内側の皮を食べるんだ。そのせいでたくさんの木々が腐って枯れてしまう」
「そっか。食べられちゃうから、水分を吸っちゃうんだね」
「病気にかかりやすくなるからな。そのせいで気感が損なわれたり、山全体が枯れてしまうことだってあるそうだ」

 Nightはそう答えると、周りの他の木々にも着目した。
 如何やら皮が剥がされた木々がいっぱい並んでいた。
 けれど規則的に並んでいるので、アキラとフェルノは疑問を抱いた。

「とは言え最近は数も減少しているからな。被害が減っているんだ」
「凄いね。でもそれとこれと何の関係があるの?」
「……とくには無い。ただの豆知識だ」
「「関係ないんだー」」

 アキラとフェルノは天を仰いだ。
 薄ら笑みを浮かべたアキラたちとは対蹠的に、Nightは真面目だった。

「とりあえず二人の思っている通りだ。この皮が剥けた痕は鹿が食べたものと見て間違いない。トレントディアはトレントと言う名前になっているが、エルダートレントになるまでは植物ではなく、木の皮を積極的に食べる。これがその証拠ってことは……分かるな?」

 Nightはアキラたちに判断を促した。
 考えれば分かることだが、トレントディアが食べた痕なのできっとこの辺りが縄張りのはずだ。

 つまりこの辺りを集中して探せば見つかるはず。
 少し希望が見えてきたので、アキラたちはもう一度頑張ることにした。
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