上 下
250 / 555

◇249 柴刈りに行こう1

しおりを挟む
 いよいよクリスマスイベントが始まった。
 スタットは活気に溢れ、まだクリスマス当日でもないのにお祭り騒ぎだった。

 空模様は雲一つない。
 澄み渡る青空が広がっていて、空気も何処か澄んでいた。

 アキラはログインし、噴水広場でぼーっとしていた。
 ベンチに腰を下ろし、これから何をしようか考える。

「これから如何しよっかな。やっぱりクリスマス限定クエストを探した方が良いのかな?」

 クリスマス限定クエストはたくさんある。
 冒険者ギルドに足を運べば以来という形で普段とは一味違う、行事になぞらえたクエストが用意されているらしい。

 他にも街中で困っているNPCを助けたりすると、自然とクエストが発生する例もあるそうだ。
 ログインする前にSNSを少し見ると、色んなクエストの報告が上がっていた。

 例えばこの間多くのプレイヤーで頑張って立てたもみの木。
 あのもみの木を、クリスマスらしい装飾品で飾り付けるクエストがあった。
 アキラは先程見に行くと、たった一夜にしてかなりの装飾品が飾られていた。

「そう言えば結構装飾品集めのクエストあったよね。まずはそれっぽいクエストを受けた方が良いのかな?」

 クリスマスイベント内で受けることができるクエストの詳細は完全には出切っていない。
 この間読んだパンフレットにはあくまでも一部だけが載っていて、他にもあるらしい。
 あくまで噂だけどもっとクリスマスらしいイベントも用意されているとか。
 アキラはふと考えつつ、ベンチから立ち上がった。

「よし。私も何かクエストを受けよう!」

 一人でできるようなクエストがないか探してみる。
 アキラは噴水広場から街の中の方に移動する。

「とは言っても、何処にクエストがあるかわからないもんね。うーん、やっぱり草原とか現地に行ってみたら何かわかるかな?」

 もちろんクエストは何処で発生するかわからない。
 特定のモンスターを倒すことで勝手に達成されるタイプもある。
 
いつものアキラならソロで活動している時はソウラのところに遊び行ったり、一人で狩りに行く。
 けれど今日はそんな気分じゃない。まずは街の中を探索してみたかった。

「もうちょっと歩いてみよう。そうしたら何かわかるかも」

 ギュッと拳を作り、街の中を探索し始めた。
 中央通りを歩いて回ると、たくさんのプレイヤーの姿があった。
 みんな楽しそうにしていて、アキラも何だか心地が良い。

「やっぱり楽しい方が良いよね」

 そう言いつつ今度は一本外れた道を行く。
 路地の方に向かうと、煉瓦作りの建物で左右を囲われた細い道がある。
 ちょっぴり薄暗く、人通りもかなり少ない。
 アキラは不気味に思ったが勇気を振り絞り通ろうとした。

 その瞬間、何かにぶつかった。

「「うわぁ!」」

 アキラはお爺さんとぶつかった。
 腰が曲がっていて、背中には木の実金次郎の銅像が背負っている物と同じものをしている。
 前にNightから聞いたことがある。確か背負子しょいことか言っていた。

「大丈夫ですか! ごめんなさい、よそ見してました」

 アキラはすぐに自分から謝る。
 相手はご年配の方だ。もしも体に何かあれば大変だ。
 例えNPCであったとしてもこの世界で暮らしている人達に迷惑をかけるわけにはいかなかった。

「いんや、儂の方が悪かったんじゃよ。気にせんでくれ、お嬢ちゃん」

 しかしお爺さんは首を横に振る。
 腰を痛そうにしつつも、背負子一度下した。
 地面に散らばった薪が湿ってしまう。昨晩雨が降ったらしく、水溜りの中に落ちて水分を吸ってしまった。これじゃあ売り物にならない。

「わ、私も拾います」
「すまんの。でもこれじゃあ火が点けられんな」

 お爺さんは気にしないでと言ってくれたが、アキラは優しいので気になってしまう。
 すぐに散らばっていた薪を拾い上げ、湿って火が点けられそうになった薪を睨んだ。

「ど、如何しよう……」
「お嬢ちゃんのせいじゃないんじゃ。儂が腰を曲げすぎてしもうたからな」

 それは理由にならない。
 よそ見をしていたのは私も同じだと、アキラは食い下がらなかった。

「あの弁償します! それか今から集めてきます!」

 アキラは不意にそう口にした。
 するとお爺さんは「しかしのー」と言いながら考え込む。

「若いもんが言ってくれてありがたいんじゃが、流石に悪いからの」
「大丈夫です。もっと燃えやすくて水に濡れても使える薪を探してきます!」

 アキラは胸を張ってお爺さんに宣言した。
 するとピコン! と可愛らしい音が鳴った。

 目の前に突然ポップアウトした文章をアキラは目を落とす。
 何とクリスマス限定クエストを引き当ててしまった。

 こんな偶然があるのかと、アキラは驚く。
 内容は『トレントディアの角の採取』だった。
 聞いたこともない名前のモンスターにアキラは首を捻る。

「トレントディア?」
「お嬢ちゃん、やっぱり悪いからの。ありがたい話じゃが……」
「大丈夫です。今すぐ言って来るので、少しだけ待っていてください。噴水広場のベンチに座って待っててくださいね!」

 アキラは敬礼をしてお爺さんを安心させた。
 突き動かされる行動力に身を任せ、何かわかっていないけど何とかなるだろうと、アキラは精神力で強行突破した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

Beyond the soul 最強に挑む者たち

Keitetsu003
SF
 西暦2016年。  アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。  ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。  アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。  『アルカナ・ボンヤード』。  ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。  アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。  しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。  アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。  その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。  ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。  各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。 『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』  あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。 *お話の都合上、会話が長文になることがあります。  その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。   投稿日は不定期です

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

処理中です...