上 下
244 / 555

◇243 データ収集は大変

しおりを挟む
 カタカタとキーを叩く音が聞こえた。
 パソコンのモニターには大量のコードが打ち込まれている。
 もちろん全て特殊なプログラムのコードで、完全に理解できるのは彼女ともう一人だけだった。

「今回のイベントはこれでいいですね。それと同時に……」

 彼女は別のモニターを見た。
 そこにはSNSで議論になっている。

 今回のクリスマスイベントは不評のようで、様々な論争が繰り広げられていた。


『今回のイベント、運営適当すぎるだろ』

『こんなの誰がやるんだ?』

『報酬の旨さと労力が割の合わん。仕事でも疲れて、何でこっちでも疲れんと行けんのか』

『今回のイベントはパスかな』

 マウスをスクロールさせていくと、そんな批判的なコメントが多数あった。
 けれどそれは想定の範囲内。
 あくまでもこれはデータを取るための実験的な企画で、むしろ想定通りで好都合だった。

 それとは反対で、今回のイベントにも好意的な反応もある。
 おおよそ半分近くだろう。
 純粋にクリスマスイベントを楽しんでくれている方や報酬に釣られている人がほとんど。
 しかも前回のイベントに参加した上位者の意見はかなりの好反応だった。


『報酬云々じゃなくて、純粋に楽しめばいい』

『もみの木を持って来るとか新しすぎるだろw』

『多分今回も実験だろうから、付き合ってやるか』

『このGAMEはみんなの行動が大事だからな。やればやるほど面白くなる』

 なかなかに良いデータが取れそうだと、彼女はニヤついた。
 そこに一人やって来る。トレイの上にマグカップを乗せ、温かいコーヒーが入っていた。

「こんな時間までお疲れ様です、社長」

 そこに現れたのはアメリカでの対談を終えたばかりの副社長の一人だった。
 社長と呼ばれた彼女の部下の中でも特に絡みが多い。
 むしろ相談を受けることが多い。

「コーヒーを淹れましたが如何しますか?」
「いただきます」

 マグカップを受け取ると、炒り立てのコーヒーの香りを嗅いだ。
 頭の中がすっきりする。それと同時に全身に温もりが走る。

「大変ですね。明日も忙しいのではありませんか?」
「それは社長のせいですよ。もう慣れましたけど……はぁ、本当は社長に変わって欲しいです」
「私は無理ですよ。そんな時間も取れませんし、今プログラムの最終確認は全て私がしているんですから」

 コーヒーを一口飲んだ。
 すると副社長の彼女は、今回のイベントがかなり不評なことを疑問視した。

「良いんですか? いくら実験データを取るためと言っても、ここまで前評判が悪かったら」
「大丈夫です。あくまでもイベントはデータを収集することが一つの目的です。それさえ得られれば後は流れに任せればいいんですよ」

 データを収集することであらゆる面で活かす。
 それがこの会社のマルチ戦略だった。

 その功績は素晴らしく今やアジア圏でその名前を知らない者はいない。
 特にインフラやエネルギー開発。自立思考型AIに関しては関心が強く、一つや二つ世界経済に影響を及ぼしたとしても誰からも文句は言われない程その功績は凄かった。
 言ってしまえば、この会社が無くなれば社会の歯車は百パーセント止まる上に、この会社を動かせるのはこの人しかいないと誰もが思っている。

 その圧倒的なカリスマ性と行動力に幾度となく救われてきたのは言うまでもない。

「私たちは社長についていきます。だから疲れた時はおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます。ですが、今のところは必要ないかもしれませんね」
「そ、そうですか……それでは、私は失礼しますね。明日も早いですから」
「わかっていますよ。それでは気を付けてくださいね。体を冷やさないように。疲れたら休んでください」
「は、はい!」

 社長は部下に優しかった。
 けれど自分には厳しい人で、にこやかな笑みを浮かべて見送ると、すぐにモニターに目を移した。

「それにしても、やはり彼女の脳波や精神の変化は類を見ませんね。流石は彼女の娘です」

 別のウィンドウを開き、そこに映し出されたデータを見てうっとりする。
 明らかに異常な数値が確認されていた。
 それもそのはず、難しい依頼や強敵認定のモンスターにも挑み、一番根幹に関わる部分にもしっかりと触れている。

 それができていればある程度の変化は確認できるが、彼女に関わった人はもれなく成長が激しい。
 優秀な人間。そのベクトルは人によって様々だが、それでもわかることがある。

「本当、人を突き動かしてしまう人ですね。その性格は母親譲りでしょうか?」

 明るさとちょっと意味が違うカリスマ性。
 どちらも彼女だけの武器だと、にやけ顔で思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

Beyond the soul 最強に挑む者たち

Keitetsu003
SF
 西暦2016年。  アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。  ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。  アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。  『アルカナ・ボンヤード』。  ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。  アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。  しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。  アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。  その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。  ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。  各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。 『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』  あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。 *お話の都合上、会話が長文になることがあります。  その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。   投稿日は不定期です

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

運極ちゃんの珍道中!〜APの意味がわからなかったのでとりあえず運に極振りしました〜

斑鳩 鳰
ファンタジー
今話題のVRMMOゲーム"Another World Online"通称AWO。リアルをとことん追求した設計に、壮大なグラフィック。多種多様なスキルで戦闘方法は無限大。 ひょんなことからAWOの第二陣としてプレイすることになった女子高生天草大空は、チュートリアルの段階で、AP振り分けの意味が分からず困ってしまう。 「この中じゃあ、運が一番大切だよね。」 とりあえず運に極振りした大空は、既に有名人になってしまった双子の弟や幼馴染の誘いを断り、ソロプレーヤーとしてほのぼのAWOの世界を回ることにした。 それからレベルが上がってもAPを運に振り続ける大空のもとに個性の強い仲間ができて... どこか抜けている少女が道端で出会った仲間たちと旅をするほのぼの逆ハーコメディー 一次小説処女作です。ツッコミどころ満載のあまあま設定です。 作者はぐつぐつに煮たお豆腐よりもやわやわなメンタルなのでお手柔らかにお願いします。

処理中です...