上 下
241 / 559

◇241 聖夜祭があるらしいよ

しおりを挟む
 12月もいよいよ二週目に入った。
 この時期になると随分と寒くなり、暖房が欠かせなくなる。

 教室では明輝と烈火がくだらない雑談をかわしていた。
 なんてことない話だったが、急に舵を切った烈火は明輝に面白い話をした。

「そうだ明輝。そろそろアレの時期だよね?」
「アレって……ああ、クリスマス」
「そうクリスマス。商店街の方でも準備しているよね」
「毎年この時期だよね、クリスマスツリーの飾り付け」

 この街ではこの時期になると駅前広場に大きなクリスマスツリーが立つ。
 それに合わせて飾り付けが行われ、街全体でクリスマスムードが漂い始める。
 もちろん色めくような相手などさらさらいない明輝たちにとってはそれ以上でもそれ以下でもなかったが、同時に商店街の方でも商戦が開始される。

「今年は絶対に予約するぞー!」
「あはは、またケーキ? それともチキン?」

 明輝は毎年のことだと思い、軽く流した。
 しかし烈火の言い分は違った。

「ううん。クリスマス限定カラーのキットだよ。毎年予約抽選に外れてさー」
「ああ、またアレだ」

 「そっちか!」と明輝は完全に不意を突かれた。
 そう言えば毎年予約抽選しているみたいだけど外れていて、残念そうな顔をしている。
 正直に言えば一体何のプラモデルなのかは知らない。
 けれど烈火の家にはトレーニング器具やたくさんのゲーム機、プラモが飾ってあるのでその何かだろうと、明輝は考えないことにした。

「でもクリスマスってことは、CUの方でもあるのかな?」
「多分あるでしょ? だってクリスマスだよ。今時その話題に乗らない日本のゲーム産業はないでしょ?」

 烈火は真面目なことを言った。
 確かにそうだと思いつつ、日本人の古今東西のイベント好きに感服した。


 ギルドホームにやって来ると、今朝の出来事をアキラはみんなの前で話した。
 すると真っ先に相槌を打ってくれたのは雷斬だ。

「確かにクリスマスのイベントごとはありそうですね。ですがこちらではあまり飾り付けはされていないようでしたが?」
「もしかしたらないのかもしれないわね。ほら、いくら日本人がイベントごとが好きで、このGAMEの開発元が日本の企業だとしてもよ。そんな当たり前のことをするとは思えないわね」
「毎回変わったイベントするもんねー」

 しかしベルやフェルノは少しだけ否定的なことを口にする。
 とは言えフェルノ自身は楽しければそれでいいので、今朝言っていたことと違うっている。
 もちろん空気を合わせただけなので、アキラも少しだけ空気を合わせた。

「可能性は全然あるよね」
「毎回変わったイベントか。確かに挑戦的かつ実験的なイベントが多かったな」

 とは言え今年はそこまでイベントは多くなかった。
 だからプレイヤーの多くはここでパァーっと気持ちの良いイベントを待っているかも。
 アキラはそんな風に考えつつ、Nightに尋ねた。

「ちなみに正解はどっちなの?」
「私を答案用紙みたいに言うな」
「ごめんごめん。でもNightなら何か知っているかなーって」

 いつものことだがNightは振られた質問を数秒間考える。
 この間に記憶を遡って呼び起こしているのだ。
 つまりローディング中……からの答えが出たのか、「あっ!」と低めの声を上げた。

「そう言えばさっきコレを貰ったな」

 Nightはポケットからキーホルダーを取り出す。
トナカイの引くそりに乗るサンタさんが可愛らしくデフォルメされていた。
 しかしアキラは首を捻る。
 如何してNightが持っているんだろう。Nightは性格的にもこういうものを自分から買うことはない。

「もしかして買ったの?」
「買うわけがないだろ。少し用があったからスタットの方に行っただけだ。そうしたら明らかに運営の誰かがログインしていると思われるプレイヤーがコレを配っていた」

 色々な情報が一言の中に詰め込まれていた。
 Night曰く、このキーホルダーは街中でポケットティッシュを配るみたいに配られていたらしく、プレイヤーやNPCと誰彼問わず無限に渡していたそうだ。

「何か異物がないか調べてはみたがそんな様子もない。単なるイベント公布用のアイテムだな」
「それじゃあこれからクリスマスイベントがあるの?」
「それはわからないが、聖夜祭。つまるところのクリスマス的なイベントはこの世界でも一つの文化として取り込んでいるんだろうな。そうでなければNPCたちが「そろそろかー」など言わない」

 たしかにそれは確定的だ。
 そう思ったアキラはふと気になることを尋ねた。

「でも良くわかったね。配っているのが運営だって」
「それは簡単な話しで、少し頭を使えば見えてくる」
「と言いますと?」
「プレイヤーでこんなものを無限に配れるのは運営しかいないだろ」

 至極真っ当なことを言われてしまった。
 もう少し特別感のある答えを期待していたアキラたちからすればショックだったが、それもそうだと納得するまで、そう時間はかからなかった。

「まあ何はともあれだ。今年最後のイベントにはなるだろうな」
「えっ? 最後なんだ」
「当たり前だ。こんな大きなイベントは他にないだろ」

 年越しイベントはないのかな?
 アキラはあって欲しいと思うだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...