上 下
233 / 566

◇233 頑張ってないのが正解

しおりを挟む
「……それで、何でお前たちは隠れたんだ?」
「それは……ねえ」
「ねえじゃない。私が困っていたこと気付いていただろ」
「気づいてはいましたが……すみません」
「謝るな。謝られると、私が悪者に聞こえるだろ」
「「ごめんなさい」」
「だから謝るな。クソッ、何でこうも重たい空気ばっかり今日は体感せざるを得ないんだ」

 Nightは頭を抱えて項垂れた。
 雷斬とベルは話に巻き込まれ、何故か叱られている。

 けれど2人はNightの威圧から逃れることができず、こうして椅子に座り長々と話を聞いていた。
 そしてアキラとフェルノの2人は雷斬たちと入れ替わりで外に出たので今はいない。

「アキラさんたち、早く戻ってきてください……」
「無理よ、雷斬。諦めた方が良いわ」

 ベルは達観していた。むしろ静観していた。
 Nightの愚痴を散々聞き、2人もアキラたちを欲している。

「まあ、この話はいいとしてだ。お前たち、結果は如何だった?」
「結果? 結果って、アレのことよね」
「ペアズ・ペアの結果しかないだろ。お前たちの総合的な順位はまだ確定はしていないが、おそらく4位だ。一体何をしたんだ」
「何をしたとおっしゃられても、特に変わったことはしていませんよ。そうですよね、ベル」
「そうね。私たちはいつも通りにしただけよ」

 雷斬とベルは本当にいつも通りだったらしい。
 雷斬が敵を捕捉して全力で切り込み、追い詰められたところを弓術フォームになりいつも以上に集中したベルが仕留める。
 ただそれだけの単調な作業をしただけのようだ。

「私たちの戦い方は何か特別なことをしてむやみやたらとモンスターと戦うようなことはしていないのよね」
「そうですね。目の前の敵を切る。ただそれだけの話です」
「……仕事人だな、お前たちは」

 Nightは呆れてしまった。
 けれどそれでいい。2人の持ち味をしっかりと活かしきれていて、らしい戦い方に納得した。

「それはそうと、アキラたちは如何して上位に食い込んでいないのか教えて欲しいわ」
「それは本人たちが一番傷付いていることに他ならない」
「傷付いているようには見えませんでしたが、確かにアキラさんとフェルノさんの戦い方はかなり対人に寄っていますね」
「そうだ。パワーとテクニックを併せ持つフェルノと、成長速度と対人戦ではめっぽう強いアキラ。2人ともモンスター相手よりも……」
「対人よね。でも2人とも私の薙刀フォームみたいに暴れたりしないわ」

 ベルは自分と比べていた。
 弓術フォームも薙刀フォームも個人的に使い分けているだけで、決して二重人格と言うわけではない。
 極度の集中状態で静観している弓術フォーム、豪快に敵を葬り去る薙刀フォーム。
 そのどちらもが、普段のソロを基本としているベルの性格を引き上げるための要素でしかないのだ。

「お前も随分丸くなったな」
「私は最初から丸いわ」
「そうじゃない。初めの冷静さが今では豪快に多少飲まれているだろ。本来のお前らしくな」
「うっ……このパーティーの在り方がわかって来ただけよ」

 ただしツンデレにはなり切れない。
 それがベルと言う人間で、雷斬はうっとり頬を緩めた。

「まあ、正解はいくつもある。ただ私が許せないのは、アレだけの強敵を倒してコイツしか手に入らなかったことだな」

 Nightはインベントリからあるものを取り出した。
 それはアイスシェードンのへし折れた長い氷の牙だった。

「それは何ですか?」
「綺麗な牙ね。武器にでも使うの?」

 2人はNightに尋ねた。しかしNightはまだ使い道は決めていないので、答えに迷っている。
 確かに欲しかった素材だが、コイツを何に使えばいいか。
 【ライフ・オブ・メイク】とも相性が悪く、首を捻っている。

「うーん、氷の剣を作るか?」
「氷の剣なんて作ってもだれが使うのよ?」
「それは……雷斬。如何だ?」
「残念ですが、私は刀でしたら構いませんが、通常の剣ですと難しいですね」

 刀と剣は違う。
 片刃と両刃の違いそれだけ使い手を迷わせるのだ。

「それじゃあ今度ソウラたちの店に行ってみたら?」
「そうだな。今度会った時にでも……雷斬、ベル。2人は報酬をどうするつもりでいるんだ」
「「報酬?」」

 2人は首を捻った。
 今回のペアズ・ペアでは報酬としてGAME内通貨と特殊アイテムが贈られるらしい。
 けれどまだ何かはわからないので、Nightは気になっていた。

「もし使わないのなら私にくれないか?」
「えっ、もちろん良いわよ。ねっ、雷斬」
「はい。私も構いません」
「そうか。助かる」

 Nightは報酬のアイテムが何かはわかっていない。
 けれど何かに使えるかもしれないと思い、期待しているのだ。
 
「しかし頑張らないが正解とはな」
「頑張ってはいけませんよ。頑張り過ぎは自分を殺す毒ですから」
「お前が言うと説得力があるな」
「そうですか?」

 雷斬がきょとんとしている。
 けれどベルは気が付いていた。雷斬が凄く努力していることを。
 だからこそ、Nightと共に納得したのだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ユウ
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧
ファンタジー
『To The World Road』 倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。 ……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。 しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。 意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載

処理中です...