上 下
226 / 570

◇226 VS氷牙2

しおりを挟む
 洞窟の中は一面ガラス張りのように、綺麗な氷ができていた。
 誰かが意図的にやったのではと疑ってしまいそうなほど綺麗な景色に、アキラたちも視線が釘付けになる。

「うわぁ、本当にガラスみたい。むしろ鏡?」
「氷の断面か。中の温度は一定になっているからこそだろうな」
「でもこんな綺麗な場所もダンジョンなんでしょ? あのサーベルタイガーみたいなモンスター以外もいるんじゃないの?」
「そうだね。用心しないと」

 アキラとフェルノはいつでも戦えるように、お互いのスキルを発動していた。
 しかしそんな不安はNightの一言で一蹴される。

「いや、それはない。このダンジョンの生存競争は既にあの牙虎が勝ち取っている。他にモンスターは出現しない」
「「本当?」」
「もちろんだ。それに見てみろ」

 Nightはガラス張りの氷の向こうを覗き込む。
 そこには凍結したモンスターがいた。

「ここで負けたモンスター全部アレになる。恐らく食料の備蓄だろうな」
「備蓄? ってことは頭がいいモンスター何だね」
「そういうことだ。その点には用心しろ。どうせあのモンスターのことだ。牙以外にも武器はある」

 Nightの見立てでは、突出した二本の牙だけではない第二の武器が隠されていると予想する。
 ある程度の予想は付いていたが、確信がないのでまだ言わない。
 けれどアキラたちなら如何にかできると信じていた。

「まあ、お前たちの適応能力なら何とかなるだろ」
「それって褒めているんだよね?」
「もちろんだ」
「でも無茶苦茶だよ。もしも相手が尻尾から氷生やしたりさー、全身から氷を生やしたら、この間と同じだよ?」
「私の予想も同じだ。だが、今回はフェルノの炎がある。少しは善戦できるだろう」

 これはもはや賭けだった。
 けれどここまで来た以上はやるしかないので、アキラたちは歩き続ける。
 するとざっと2分半ぐらいで最奥に辿り着けた。

「めちゃくちゃ広くない?」
「そうだな。テニスコート10面分はあるぞ。こんなに必要なのか?」

 洞窟の奥には空洞ができていた。
 ドーム状の空洞には氷の柱が何本も立っている。
 その奥にはアキラたちの目的のモンスターもいた。
 横になってぐっすり寝ているらしいので、今のうちに楽に倒したい。

「これはチャンスだな。どんなモンスターでも頭か心臓を貫けばクリティカルだ」
「フェルノ、ゆっくり近づくよ。戦闘しないなら戦闘しない方が得だもんね」
「経験値はほとんど入らないけど、その方がいいよねー。よし、行こう」

 アキラとフェルノは慎重に音を消しながら近づいた。
 寝ている瞬間を襲撃するのは卑怯だけど、それもこのGAMEの醍醐味の一つ。文句なんて言わせない。

 足音を限界まで消し、気配を遮断した。
 ゆっくりゆっくり距離を縮めていく2人。

 Nightは2人の援護をするため待機していたが、気がかりがあった。
 アキラたちの頭上ではなく、その隣の氷柱が何故か落ちそうになっている。
 これだけ寒いのだ。フェルノも炎を出していないので溶けるはずがない。
 つまりこれは仕様。嫌な予感がした。

「アキラ、フェルノ、気を付けろ」

 小声でNightが声を掛けても小さすぎて聞こえない。
 どうやって知らせるか悩んでいると、氷柱の方が先に落ちてきた。
 これが戦闘開始のゴングだと、この時初めて解った。
 氷柱が落ちて砕けた瞬間、サーベルタイガーは目を覚ました。


「嘘っ、ここまで近づいたのに!」
「フェルノ避けて。ここからはもう殴り合いだよ!」

 フェルノが一歩後退すると同時に、アキラは【甲蟲】で武装した両腕で殴り掛かった。
 ちょうど白いサーベルタイガーが目を覚ました瞬間で、カッと見開いた黄色い眼がアキラたちを睨みつける。

 けれど臆することはなかった。
 アキラは振りかぶったストレートパンチをサーベルタイガーの牙目掛けて繰り出す。
 カキーン! と甲高い音を立てたが、牙が折れることはなかった。
 逆に【甲蟲】で武装しているはずのアキラの腕に激痛が走る。

「いったぁーい!」
「アキラ大丈夫って、心配している場合じゃないね、一旦下がるよ!」

 心配したフェルノはチラッとアキラのことを見た。
 このまま攻撃に参加しようとした瞬間、アキラの喉元に牙が迫っていた。
 危ないと思い攻撃を断念して、アキラを抱えてその場を一目散に下がった。
 距離を取り、Nightのところまで戻ってくる。

「ありがと、フェルノ。助かったよ」
「どういたしましてー、って言いたいけど。このモンスター間違いなく強敵だね。舐めて掛かってたら命が幾つあっても足りないよ」

 フェルノは拳を作ってかち合わせた。
 どうやら本気らしく、いつものほんわかした舐めた態度が出なくなる。

 それだけの強敵で、飛び道具もないアキラとフェルノにとっては相性が悪い相手だった。
 インフレ防止でチートのようなスキルもない。
 プレイヤーの閃きと身体能力がものをいうこの世界で、あのモンスターは近接殺し。
 Nightは一瞬の攻防でそれを悟ると、アキラたちに指示を出す。

「最悪逃げるが、全力で仕留める。行くぞ!」

 冷めたテンションではなかった。
 あまりの強敵にアドレナリンがどぱどぱ出ていて、脳波がグンと高まっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...