VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
210 / 598

◇210 化椿と椿姫

しおりを挟む
 巨大な椿の樹の下で、女性が1人佇んでいた。
 長い黒髪には蛍光グリーンのメッシュ加工が入っていて、その部分だけを後ろに回すようにして三つ編みでハーフアップしている。

「あの人、どうしてあんな所に立っているんだろう」
「さあな。だが敵意は感じられない」
「NPCかな? それにしてもぼーっとしているね」

 目の前の女性はあまりに抜けていてぼーっとしていた。
 ぼーっと目の前の巨大な椿を見上げている。
 何が楽しいのか、Nightにはわからなかったが、一つだけ確信を持って言える。

「アイツはNPCじゃない。プレイヤーだ」
「「プレイヤー?」」
「プレイヤーを示すアイコンが出ているだろ」

 確かによーく目を凝らせば見えてくる。
 もしかしたら、あの人は私たちがここにやって来ることを知っていたんじゃないのかな? アキラは何となくそう思った。

「話しかけてみようよ」
「本当に話しかけるのか? ここは街中じゃないんだ。突然襲われても知らないぞ」
「大丈夫だよ。私達は3人だよ?」
「集団戦は1人の個に殺されることもある。ここは慎重にだ」
「おーい!」

 Nightの忠告を無視してフェルノは声を張って呼び掛けた。
 すると女性はアキラたちを見ると、柔らかな笑みで微笑んだ。
 どう捉えたら良いかわからない反応に、アキラたちは一瞬硬直したが、女性はゆっくりと近づいてきた。

「皆さん、大丈夫でしたか?」

 この声は聞いたことがある。
 ここまでアキラたちを導いてくれた人の声だ。

「この森、道順がわからないでしょう。私も苦労しましたよ」
「それじゃあ、貴女もこの森に……」
「はい。迷っていたところを私の固有スキルで道を開き、ここまでやって来ました。その際、皆さんの気配を種族スキルで発見することができたので、助けて差し上げたんです。この森に入って一度迷うとなかなか出られませんからね。ですがもう安心です。一度このホールに到着することはできれば、この森の攻略法はわかったはずですから」

 流暢にアキラたちに教えてくれるこの女性は何者なのか。
 敵ではないみたいだが、Nightはそれでも幾分か警戒していた。

 するとアキラとフェルノが持ち前のコミュ力で話しかける。

「あの、助けてくれてありがとうございました。私はアキラって言います、それでこっちが……」
「フェルノだよ。インフェルノのフェルノ。それからこっちはNightね」
「正確にはBlue Nightだがな」

 別に要らない訂正をしておく。
 すると女性の方も自己紹介を簡単にしてくれた。

「私は椿姫です。恥ずかしいので、椿と呼んでください」
「椿さん?」
「はい。何ですか?」

 恥ずかしいなら、如何して“姫”何て付けたんだろう。
 プレイヤーネームは原則変えられないはずなのに、後悔しているみたいだ。

「それはそうと、椿はどうしてこんなところにいるんだ」
「もちろん、この椿を見に来たんです。私のプレイヤーネームと親近感を感じて」
「「「ああ」」」

 普通に納得してしまった。
 すると椿姫は普通ではありえない程大きくて太い幹になった椿の袂に向かい、手を伸ばして何かを取ろうとしていた。
 そこには赤い椿の花が咲いており、軽くもぎ取ると、種が落ちてきた。

「さて皆さん。これが報酬です」
「種?」
「種なんてあってどうするんだろ? もしかして植えるのかな?」
「面白いことを言いますね。でも、悪くはないと思うよ」
「それじゃあ何に使うんですか?」
「これはね……」
「椿油だな」

 椿姫の出番をかっさらった。
 むくっと頬を膨らませて、Nightのことを凝視している。

「私の出番が取られました」
「悪いな。だが種が報酬か。なるほどな」

 椿油は聞いたことがある。
 確か食用とか美容にも使える万能な油だ。

「でもさ、なんで種なの?」
「この種を集めて種を砕いて中の油分と液体を分けるんだ。それに種でしか入手できないだろ」
「た、確かに……」

 フェルノも納得したらしい。
 どうせならもう少し欲しいなと思い、アキラたちも種を採取しようとしたが、椿姫がアキラの腕を掴んだ。

「待って。この椿はただの椿ではないんです」
「えっ? 確かに大きいですけど……」
「この椿は化け椿です。攻撃して来るんですよ?」

 アキラは立ち止まった。
 すると手を伸ばそうとしたフェルノの手が急に枝に叩かれた。
 本当に攻撃してきたので、剣を抜こうとしたけれど、Nightは興味もなく優しく種だけもぎ取った。

「悪意を持って取る必要はない。無感情で抜き取るようにして種だけ貰えばいい。それにこの種、一粒で十分なんだろ?」
「そうです。この種はたったの一粒で木の桶一杯に椿油を絞ることができますから、あまり無作為に種を取る必要はないんです。1日に1人一粒だけ。それで十分なんですよ」

 椿姫はアキラたちに説明した。
 化け椿に一礼し、種を一粒だけ貰うことにしてインベントリの中に入れると、急に森の木々たちがガサガサと揺れ出した。

「な、何!?
「もしかして怒らせちゃったのかなー?」

 そう思ったのも束の間。
 木々たちが道を作ってくれた。どうやら本当に帰り道を教えてくれるらしく、最後は味気ない終わり方だった。

「それでは帰りましょう」
「あっ、待ってください」

 椿姫は先に歩き始め、アキラたちもやることが無くなったので一緒になって帰ることにした。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...