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◇187 肌寒くなってきました

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 カタカタカタカタ——

 蒼伊はパソコンのディスプレイを前にして何やら作業をしているようだった。
 たくさんの英数字が打ち込まれていて、コマンドを入れているみたいだった。

「ここをこうして……後はここをだな」

 特に意味はない。意味がないからこそ暇をしていた。
 蒼伊にとってこれは暇潰しだ。
 その間に打ち込まれていたのは、何かのプログラムのようだった。

「こんなものだろ」
「蒼伊様」

 そこにやって来たのは蒼伊専属のメイドだった。
 ドアノブをコンコンと叩き、蒼伊の返事を待っていると、いつもよりも早く扉が開かれる。
 そこにいたのは目を真っ赤にして隈ができた蒼伊の姿で、メイドはビックリした。

「何だお前か」
「はい、私でございます。それより蒼伊様、作業の方は順調でしょうか? せっかくですので眠気覚ましにコーヒーをお持ち致しました」
「助かる。それと作業は見ての通りだ」
「そのようですね。お疲れ様です」
「これも必要なことだ。それよりもデバッグ班は順調なんだろうな」
「はい、それはもちろんでございます」
「そうか。……私以外にこの家で作業ができる奴はいないからな。仕方ない」

 蒼伊は家の手伝いをしていた。しかし莫大な金銭が動く依頼だった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ううっ、何だか肌寒いね」
「そうだねー。シュッシュッ!」

 急に烈火がシャドーボクシングを始めた。
 あまりに突然のことでいつもの烈火だなと思い、軽く話しを逸らすと、今度は烈火の方から話を広げた。

「もう11月なのに、イベントもないよね?」
「イベントはないよ。だって11月だもん」
「あっ、そっか。11月だもんね」

 しかし話しがすぐに広がらなくなった。
 明輝と烈火はここのところログインしても何もなくてつまらなかった。
 もちろん遊ぶこと自体につまらないはない。むしろ無限大すぎてたまにおかしくなりそうだった。

「蒼伊も最近ログインしてないもんね」
「雷斬とベルもだよ? 部活が忙しいとか、色々あるみたいだね」
「やっぱり引継ぎが大変なのかな?」
「うーん、引継ぎの時期はもう終わっていると思うけど」

 烈火は頭の上で腕を組んでいた。
 もう11月だ。木々の葉っぱもかなり茶色になっている。あの新緑の緑は既にない。

「しかも寒い!」
「そうだよね。最近寒くてー」
「って、嘘付くなっ!」

 ポンと頭をチョップした。
 すると烈火は「ごめんごめーん」と舌を出した。

「烈火は鍛えてるから寒くないでしょ?」
「もちろん寒いよ。でもそんなにかなー?」

 烈火は結構筋肉を付けている。
 暇さえあれば走っている気がするし、最近はプラモを作っているそうだが運動量は人並み以上だ。

「でも最近本当に寒いよね」
「うん。何だか温泉が恋しくなってくるね」
「そうだねー。明輝って、温泉好きだったっけ?」
「ちょっぴりかな。でも嫌いじゃないよ。好きすぎてウザいくらいじゃないけど」
「確かにそんな気はしないかも。そう言えば、雷斬が新しい町に行きたいって言ってたよね?」
「もしかしてそのせいでログインしないのかな?」
「いや、まさか……ね?」

 烈火も苦笑いを浮かべる。
 するとドライブにメッセージが入った。何かと思えば、ベルからだった。

「こんな時間に何だろ?」
「ベルからメッセージが来たね。えーっと何々?」
「雷斬が温泉に行きたいってうるさいみたいだね」

 ベルから送られてきたメッセージによると雷斬の話ばかりだった。
 まさかそれでログインしてないとかはないと思うけど、ドライブにまでメッセージが来るのはとんでもない。

「じゃあ今度蒼伊にも相談してみよっか」
「そうだね。もう11月だから予定通り新しい町に行ってみよう」

 烈火が右腕を突き上げた。
 すると同時に大きなくしゃみをする。

「寒いよね。早く学校行こっか」
「それじゃあ学校まで競争だね。それじゃあ位置についてー!」
「ちょっと待ってよ。私まだ走るなんて一言も……」
「よーい、どん!」

 烈火は気にせず走り出した。仕方ないと思い、明輝もその後ろを付いて走る。
 前よりもかなり速くなっている。けれど明輝は烈火に追いつくのだった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「皆さんで温泉、きっといいですよね」
「それはいいけど、少しは授業にも集中しなさいよ」
「すみません鈴来。精進致します」
「精進されても困るんだけど……はぁ、ちょっとは冷静になりなさいよね」

 鈴来は隣の斬禍に声を掛けた。
 スマホの画面を覗き込んでこれから行こうと思っている町に着いての情報を調べているようだった。

「その町って何か面白いものあるの?」
「紅葉の紅葉と朱鳥居。それから何よりも……」
「温泉ね。まさかGAMEの中でも温泉に入れるなんて、ちょっと変わってる」
「そんなことないですよ! 温泉は日本人にとって……」
「そう言うのいいから、とにかく絡まないで。最近の斬禍は何だかしつこいわよ」
「すみません。こんな私がいられるのは、鈴来のおかげですよ」
「はいはい。今はそれでいいわ」

 2人の女子高生も、なんだかんだ暖かい格好をしていた。
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