VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に！？

◇２００ 秘湯に極楽

　フェルノたちは先に秘湯に浸かることにした。
　真っ先に飛び込んだのは、もちろんフェルノだ。

「やっほぉー！　それじゃあ一番風呂は私が貰うねー」

　フェルノが秘湯に飛び込むと、大きな飛沫が上がった。
　湯気が一瞬にしてモクモクと上がり、雷斬とベルは呆気に取られた。

「子供ね、フェルノは」
「そうですね。ですがはしゃぐのも無理はありませんよ」

　ベルは眉根を寄せていたが、雷斬は同情する。
　いつもの雷斬の様子にホッと胸を撫で下ろしたベルだったが、いつまでも湯の外側に突っ立っていたので、フェルノに腕を掴まれた。

「ほらほらー。早く入ろうよ！」
「わかっているわ。だから引きずり込むのは止めてくれるかな？」
「そうですね。フェルノさん、腕を放してもらってもいいですか？」
「うーん。ダメー！」
「「うわぁ！」

　ザブーン！

　大きな飛沫が上がった。
　しかも今回はフェルノ1人だけじゃなくて2人分なので、湯気もたくさん上がる。
　アキラとNightの耳にも聞こえたが、頭を洗っていたので気に留める程度だった。

「今、大きな音したよね？」
「そうだな。どうせフェルノの仕業だろ」
「今の音が？　もしかして飛び込んだのかな？」
「アイツの性格だ。お前がよく知っているだろ。人の迷惑にならない状況だ。はしゃいでも無理はない」

　アキラも納得してしまった。
　2人の予想はピタリ当たっていて、一つ違うのは飛び込んだのがフェルノじゃないことだった。

「ぷはっ！　ちょっとフェルノ。危ないわよ、もう少し準備時間を与えてくれてもいいんじゃないの？」
「そうですね。足が滑ってしまいました」
「ごめんごめん。でもいい湯でしょー」

　確かにいい湯ではあった。
　冷たくなっていた体が芯から温まると、温泉の湯を掬ってみた。
　天然温泉と露天風呂の最高のベストマッチが風景にも溶け込んでいる。
　こうして体の半分を湯に浸けると、暗くなった空模様が何処となく遠く感じた。

「いい景色ですね」
「本当だねー。しかもこの温泉。ポカポカしてて気持ちがいいよー」
「そんなの当たり前よね。循環式のお湯とは違うんだから」

　一般的な家庭用のお風呂では到底味わえないのが、温泉の最大の魅力だ。
　ただ水をボイラーや電機の力で温めて出すだけとは違って、様々な効能を感じられる。
　お湯の中に含まれる岩などから溶け出した普通とは異なる元素が体の中に溶け込むようだった。それが温泉の持つ魅力と、日本人が興奮する原因だろう。

「日本人は昔から温泉が好きで好きですからね」
「そうなんだ。やっぱり景色とか元素とか？」
「それは少し科学的な根拠に基づくものです。実際はもっとシンプルなんですよ」
「もっとシンプル？」

　フェルノが首を捻ると、雷斬は湯に浸かりながら問題を出した。
　その問題にベルはすぐさまヒントと見せかけた解答を出す。

「日本人は世界の有名な国よりも、ストレスを感じるからね。いわゆるストレス社会ってやつなのよ」
「ストレス？　そう言えばこのＧＡＭＥが人気の理由って、普段絶対に味わえないような体験ができるからストレスの緩和に繋がるんだよねー」
「そうですね。確かに精神が清められるような感覚が毎度あります」

　正直これは医学的に認められていた。
　流石にこのＧＡＭＥが人気殺到で売り切れる理由も無理はない。
　それだけ各省のある根拠がいっぱいだと、ストレス社会の日本では売れ筋商品になるはずだ。だけどどうして他のＶＲＧＡＭＥでは効果が薄いのに、このＧＡＭＥはその性質が強いのか。もしかしたら脳波を検知しているのが、意味を成しているのかもしれない。

「まあ、私が考えても仕方ないんだけどねー」
「そうですね。温泉が好きな理由なんて、昔から水が多い国であったことやストレスの緩和に繋がる以上に優れていることはありませんよ」

　雷斬も少し哲学的な話をしていた。
　それを最終的にまとめたのはベルだった。

「要するに、日本人にとって温泉は昔から大好きーってことよね」
「「そういうこと」」

　2人も温泉に浸かりながら同調していた。
　そんな中、アキラたちが全然やって来ないことにフェルノは気がかりだった。

「そう言えば2人とも遅いね」
「そうですね。よっぽど2人で話し込んでいるのでしょうか？」
「言えてる。なんでなんで症のアキラだもん。きっとうんざりしている頃だよ」

　だからそろそろNightがやってくるはずだ。
　その予想は的中。ピチャピチャと音を立てて誰かやって来た。
　フェルノは「あっ、やっと来たー」と目を閉じて交わした。
　しかしアキラなら何か返してくれるはずだけど、何も言ってくれないので、Nightかなと思う。けれど隣をスタスタと歩いていくと、奥の方に行ってしまう。完全な無視だ。

「ちょっとNight。いくらなんでも酷いんじゃないのー？」

　湯気の向こう側を見た。
　すると人の姿があったのだが、返ってきた声に首を捻る。

「いい湯加減やねー」

　何処かで聞いたことがあるけれど、アキラたちではなかった。