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◇192 魅惑の滝
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アキラたちが次にやって来たのも観光スポットだった。
今回はちょっとした森を抜けた場所にあるモミジヤの2大自然系観光スポットらしい。
注目してほしいのか、どでかいフォントでパンフレットにも書かれている。
「フォントの時点でファンタジー感ないよね」
「そうだな。運営側の意図的な介入か、私たち現代人の脳がそうさせているのか……」
Nightはアキラの問いかけに冷静な回答をした。
しかし普段からファンタジー感の著しく乏しいNightの発言では何も信用できないし関心も湧かない。
するとフェルノが暇そうにアキラの持っていたパンフレットを横目で見ていた。
「へぇー、魅惑の滝かー」
「魅惑と言うことは恋愛成就でしょうか?」
「ロマンチックって言いたいのね。馬鹿馬鹿しいわ」
ベルは嫌悪するでもなく、お手上げのような真似をする。
それもそのはず、ここにいるメンバーの誰も恋愛感情がない。
欠如していると言ってもいいので、魅惑の滝何て言われても全く湧かない。
「そう言うな。この絵を見てみろ」
「そうだよね。どうしてイラストなのかな?」
「この街は昔の日本をモチーフにしていますから、その配慮なのではないですか? イラストにはイラストの良さがありますよ」
「それはまあそうなんだけどさ……うーん、滝壺深いね」
描かれているイラストだけを見ると、とてつもなく滝壺が深かった。
白く湧き立つ水飛沫に壮大な滝の描き方には何だか目を奪われてしまうが、大抵イラストは嘘が混ざっている。
多分このパンフレットを作る際に、少しでも人の目を惹こうと思って白黒で描いたんだ。
「モノクロイラストは味があるぞ」
「でも……ううん。何でもない」
アキラは押し黙って、モノクロイラストの良さを堪能した。
そうこうしていると森を抜けて、水の弾ける音が聞こえてくる。
どうやら目的の滝は近いようだ。
「近いっぽいね。ちょっと涼しいかも」
「今の時期に涼しくなられても困るがな」
この世界にはちゃんと季節がある。
しかも1日で3日過ぎる世界なので、リアルの時間のおよそ3倍の季節体感が襲う。
つまり待望の春は現実の3倍の体感時間を要求するのだ。
「流石に滝壺に落ちたくはないな」
「フラグみたいなこと言って。落としてほしいの?」
「そんな芸人みたいなことはしない」
Nightは冗談っぽく言ったのだが、普段からボケ役をしないので突然のボケについていけない。
あのアキラでさえ完全スルーに入りかけて、迷いに迷って反射的に意識を切り替えてしまった。
「見えてきましたよ、皆さん」
「本当ね……うわぁ」
ベルが眉根を寄せて眉間にしわを寄せた。
唇をぐにゃりと曲げて目の前の光景に引いてしまった。
何たってたくさんの男女のカップルが滝を見てうっとりしている。100パーセント、間違いなく100パー場違いだと痛感する。
「な、なんだか来ちゃダメだったぽいね」
「そうかなー? こんなに綺麗だよ?」
「いや、人が多すぎて見えない……どこに座ってるのさ!」
フェルノはいつの間にか木の上に上っていた。
そんなことをしてまで見たいとは思わなかったが、アキラも真似することにした。
すると確かにモノクロで表現できないとんでもない水飛沫と涼しさがある。
ただし人が多すぎてちょっと蒸し暑い。
「本当ですね。確かに壮大です」
「自然の雄大さも出てるわね。だけどちょっとイメージしてたのと違うかも」
「何が違うんだ。水の量か?」
「迫力が足りないわね」
正直滝の迫力や壮大さが人の多さに消されている。
例えるならアレだ。新しくできた観光地にたくさんの人が押し寄せて本質が見えなくなってしまう、日本人特有のアレだ。一度こうなったものは再評価されるのは長い年月がかかってからで、ミーハーが多い日本人にとってここはもはやカップル鉄板の観光スポットでしかない。
「総評はB+ぐらいだな」
「結構厳しい評価ですね、Night先生」
「こうなった以上はな。さて、帰るか」
「「「速い!」」」
まだ5分も経ってない。もしかしていつもみたいに人多さに圧倒されてしまったのかと思ったが、如何やら違うらしい。
この馬鹿カップルたちの多さに気圧されたのは本当だが、Nightはムカムカしていた。
「私たちは人を見に来たわけじゃない。ここに来たのはあくまでも暇つぶしだ」
「それはそうだけど……そうだね。帰ろっか」
アキラも納得して木の上から降りた。
フェルノたちも押して帰ろうとしたが、枝の先しか座れる場所がなかったNightは少し困っていた。還りたくても人が足下に来て帰れなくなっていた。
そこで【ライフ・オブ・メイク】の出番だ。梯子を作って安全に降りようとしたのだが、人とぶつかってしまい梯子のロープが切れてしまった。鋭い枝に引き裂かれてしまったらしい。
「ヤバっ!」
「嘘でしょ、まさかそんなフラグ回収の仕方ある?」
「いいやないねー。流石はNight。お約束わかってるじゃんかー」
ナイスと親指を立てるフェルノ。
滝壺に落ちてずぶ濡れになったNightは黒髪がしっとりとして、項垂れていた。
今回はちょっとした森を抜けた場所にあるモミジヤの2大自然系観光スポットらしい。
注目してほしいのか、どでかいフォントでパンフレットにも書かれている。
「フォントの時点でファンタジー感ないよね」
「そうだな。運営側の意図的な介入か、私たち現代人の脳がそうさせているのか……」
Nightはアキラの問いかけに冷静な回答をした。
しかし普段からファンタジー感の著しく乏しいNightの発言では何も信用できないし関心も湧かない。
するとフェルノが暇そうにアキラの持っていたパンフレットを横目で見ていた。
「へぇー、魅惑の滝かー」
「魅惑と言うことは恋愛成就でしょうか?」
「ロマンチックって言いたいのね。馬鹿馬鹿しいわ」
ベルは嫌悪するでもなく、お手上げのような真似をする。
それもそのはず、ここにいるメンバーの誰も恋愛感情がない。
欠如していると言ってもいいので、魅惑の滝何て言われても全く湧かない。
「そう言うな。この絵を見てみろ」
「そうだよね。どうしてイラストなのかな?」
「この街は昔の日本をモチーフにしていますから、その配慮なのではないですか? イラストにはイラストの良さがありますよ」
「それはまあそうなんだけどさ……うーん、滝壺深いね」
描かれているイラストだけを見ると、とてつもなく滝壺が深かった。
白く湧き立つ水飛沫に壮大な滝の描き方には何だか目を奪われてしまうが、大抵イラストは嘘が混ざっている。
多分このパンフレットを作る際に、少しでも人の目を惹こうと思って白黒で描いたんだ。
「モノクロイラストは味があるぞ」
「でも……ううん。何でもない」
アキラは押し黙って、モノクロイラストの良さを堪能した。
そうこうしていると森を抜けて、水の弾ける音が聞こえてくる。
どうやら目的の滝は近いようだ。
「近いっぽいね。ちょっと涼しいかも」
「今の時期に涼しくなられても困るがな」
この世界にはちゃんと季節がある。
しかも1日で3日過ぎる世界なので、リアルの時間のおよそ3倍の季節体感が襲う。
つまり待望の春は現実の3倍の体感時間を要求するのだ。
「流石に滝壺に落ちたくはないな」
「フラグみたいなこと言って。落としてほしいの?」
「そんな芸人みたいなことはしない」
Nightは冗談っぽく言ったのだが、普段からボケ役をしないので突然のボケについていけない。
あのアキラでさえ完全スルーに入りかけて、迷いに迷って反射的に意識を切り替えてしまった。
「見えてきましたよ、皆さん」
「本当ね……うわぁ」
ベルが眉根を寄せて眉間にしわを寄せた。
唇をぐにゃりと曲げて目の前の光景に引いてしまった。
何たってたくさんの男女のカップルが滝を見てうっとりしている。100パーセント、間違いなく100パー場違いだと痛感する。
「な、なんだか来ちゃダメだったぽいね」
「そうかなー? こんなに綺麗だよ?」
「いや、人が多すぎて見えない……どこに座ってるのさ!」
フェルノはいつの間にか木の上に上っていた。
そんなことをしてまで見たいとは思わなかったが、アキラも真似することにした。
すると確かにモノクロで表現できないとんでもない水飛沫と涼しさがある。
ただし人が多すぎてちょっと蒸し暑い。
「本当ですね。確かに壮大です」
「自然の雄大さも出てるわね。だけどちょっとイメージしてたのと違うかも」
「何が違うんだ。水の量か?」
「迫力が足りないわね」
正直滝の迫力や壮大さが人の多さに消されている。
例えるならアレだ。新しくできた観光地にたくさんの人が押し寄せて本質が見えなくなってしまう、日本人特有のアレだ。一度こうなったものは再評価されるのは長い年月がかかってからで、ミーハーが多い日本人にとってここはもはやカップル鉄板の観光スポットでしかない。
「総評はB+ぐらいだな」
「結構厳しい評価ですね、Night先生」
「こうなった以上はな。さて、帰るか」
「「「速い!」」」
まだ5分も経ってない。もしかしていつもみたいに人多さに圧倒されてしまったのかと思ったが、如何やら違うらしい。
この馬鹿カップルたちの多さに気圧されたのは本当だが、Nightはムカムカしていた。
「私たちは人を見に来たわけじゃない。ここに来たのはあくまでも暇つぶしだ」
「それはそうだけど……そうだね。帰ろっか」
アキラも納得して木の上から降りた。
フェルノたちも押して帰ろうとしたが、枝の先しか座れる場所がなかったNightは少し困っていた。還りたくても人が足下に来て帰れなくなっていた。
そこで【ライフ・オブ・メイク】の出番だ。梯子を作って安全に降りようとしたのだが、人とぶつかってしまい梯子のロープが切れてしまった。鋭い枝に引き裂かれてしまったらしい。
「ヤバっ!」
「嘘でしょ、まさかそんなフラグ回収の仕方ある?」
「いいやないねー。流石はNight。お約束わかってるじゃんかー」
ナイスと親指を立てるフェルノ。
滝壺に落ちてずぶ濡れになったNightは黒髪がしっとりとして、項垂れていた。
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