VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇180 リンク阻害

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 ベルに連れられ一旦物陰に隠れるアキラたち。
 すると黒鉄の巨人は標的を見失ったからか、急に大人しくなる。
 しかしここから通路までは必ず巨人の前を通らないといけない。
 結局逃げ出すこともできず、苦戦を強いられる結果となった。

「まさか自分の腕を飛ばしてくるとかあるんだね」
「あの巨人を製造した人たちはどこからそのアイデアを手に入れたのでしょうか?」

 フェルノと雷斬が疑問を織り交ぜながら、感心していた。
 しかしアキラとベルはこの状況をあまり快くは思っていない。
 むしろ芳しくない状況に、アキラは奥歯を噛んでいた。

「それにしても鎖で繋がっていたなんてね。しかも振り回すなんて……」
「ロボットものにはあるんじゃないかしら。武闘派系のキャラクターが乗るロボットなら尚更ね」
「ううっ、確かに格闘技が得意なキャラとかの専用機みたいだよね。色は随分と敵っぽいけど」
「そっかなー? リカラー限定だったらよくあると思うけど」
「リカラー?」
「色違いだよ。型を同じにして色だけ変えることで、製造コストを抑えながらも顧客の購買意欲を促進させるんだよー」
「そうなんだ。結構せこいね」
「そうでもしないと、一度作った金型がもったいないでしょ?」
「た、確かに……」

 企業も色々大変らしい。
 アキラは喉を詰まらせながら、的確に黒鉄の巨人の動きを観察していた。
 とりあえずまだ動いてはいない。
 腕もいつの間にか元に戻っていて、所々にフェルノたちが頑張って付けた凹みがあるだけだ。

「それでNightはまだ戻らないの?」
「う、うん。落ちてはないみたいだけど、おーいNight!」

 アキラは耳元で声を掛けてみた。
 するとアキラの喉にNightの手が伸びて、抑え込もうとしていた。
 完全に考え事を邪魔されたくないフェーズに入っている。
 さっきから目を閉じてぶつぶつ念仏を唱えていた。

「こんなに考えているNightさんは珍しいですね」
「そうだよね。いつもは秒速なのに」
「それだけ脳の処理が重たいんでしょうか? もしかしたら、Nightさんの思考速度にGAME自体が付いてこれていないのかもしれませんね」

 雷斬はほとんど動かないNightを見ながら何かと比べていた。
 どうやら自分のことらしく、左手を開いたり閉じたりしている。

「正直私もここに来てから鈍いです。いつものような速度が出せません」
「やっぱりー? 何だかさー、私も動きが鈍いんだよねー」
「フェルノはいつもと大差ないわよ?」
「そんなことないよ! そういうベルだって、さっきの薙刀フォーム、ちょっと動き硬かったよ?」
「そんなことないわよ! それに私はいつも後衛から支援していたんだから、前衛は慣れていないのよ」

 ベルが何故かムキになっている。
 そんなに怒ることでもないはずで、スイッチが入るようなベルではないはずだ。
 しかもフェルノはいつもなら「ご、ごめんねー」と平謝りするはずが、今日のところは食ってかかった。

「なにー! そんなの言い訳でしょー」
「なっ! そういうフェルノも動き硬いでしょ?」
「それは雷斬もでしょ? いつもより動きが遅くてまともにダメージが入ってなかったよ!」
「すみません。ですが何故でしょうか? あの黒鉄の巨人は私たちの動きを阻害しているとでも言うのでしょうか?」
「ど、どうかな? 私は……ちょっと反応が鈍いかも」

 全員が納得がいかなかった。
 そこに口を割ったのは、Nightだった。

「お前たち、うるさいぞ。やっと考えがまとまったというのに、そうキーキー騒ぐな」
「Night! 何だか遅かったね」
「どうやらこの空間が問題らしい。あの巨人もそうだが、私たちの意識体がこの世界の私たちの体とのリンクを妨げているようだ」
「そんなことが起こるの?」
「現に今がそうだろ。全員、腕を普通に上げてみろ」

 Nightに言われて普通に腕を上げてみた。
 しかし自分の思った通りに動かない。重たくなったパソコンみたいに、急にぎこちなくなる。

「「「えっ!?」」」

 アキラたちは全員驚いてしまった。
 先程よりも明らかに動きが硬い。カクついてているのではなく、反応が鈍いのだ。

「わかっただろ。この空間は、プレイヤーの動きを弱体化させるデバフが掛かっている。私の思考がこの肉体に反映されるまで時間がかかったのがそれが原因だ」
「ネット環境が悪いのかな?」
「そうじゃない。現に私たちの体は普通に動かせているだろ。あくまでもこの世界の一人間としての動きしかできない状態。それが的確な判断になる」

 Nightの説明は難しかった。
 要するに、私たちの体はNPCのように本来の動きがこの世界に動きに合わせられている。現にGAME的な機敏な動きが制限されているのは、VRドライブから伝わる脳の刺激がこちらに反応してもあの巨人のせいで阻害されていることになる。

「つまり満足のいくパフォーマンスは発揮できない。私たちはスキルと現実の自分の動きを投影して戦うしかないんだ」

 あまりに辛い一言に絶望するだろう。
 こんな相手にステータスのプラス値が全てなくなるのだ。
 けれどアキラたちは違った。全員それがわかると前向きになって、顔を上げる。
 何か考えがあるのか? いいや、そんなものはない。
 単純に吹っ切れただけ。だがそれでいい。
 アキラたちはスキルを酷使するように全体の力を合わせることにした。
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