上 下
175 / 570

◇175 掘ったら穴

しおりを挟む
 まさか仕掛けの謎を解くと、そこにはさらに床が広がっていた。
 二層構造の床の仕掛けにアキラたちは絶句してしまう。
 その理由は至ってシンプル。せっかく頑張ったのに、何も起きなかったからだ。

「どうしよう。これじゃあ頑張った意味がないよ!」
「私言っても仕方がないだろ。とにかく他に仕掛けがないか探ってみるぞ」

 ここまで来ると、Nightにも余裕は無くなっていた。
 約半月以上に時間を捧げてきた攻略に憤りを感じながらも、今一度手掛かりを求めてアキラたちはバラバラで探索を始める。
 するも何も手掛かりが得られずアキラは一回考えをリセットしていた。

「そう言えばどうして床が二層構造なんだろう。ハズレならもっとわかりやすくしてくれてもいいのにね」

 単純に運営側が意地悪している可能性だってある。
 そう簡単に遺跡の謎を解かせたくない。もっと試行錯誤して楽しんで欲しい。あるいは、ここには何にもないから残念でしたと煽られているのでは、色々な思考がせめぎ合う。
 けれどアキラはもっと単純でいいのではと思い至り、試しにNightに頼んでみることにした。

「ねえNight。ツルハシって作れない?」
「ツルハシ? それなら持っているが、どうする気だ」
「ちょっと貸してよ。遺跡の調査したいから」
「まさか壊すのか?」
「うーん、場合によっては?」

 アキラは可愛く言ってみた。しかしNightは断固拒否といった具合で、アキラに怪訝そうな表情を浮かべる。

「いいかアキラ。遺跡と言うのは何があるかわからないんだ。むやみやたらと手を加えて破壊するような真似は危険で愚かな行為だぞ。確証がないことの飛び込んで死んだ冒険家何てざらにいる」
「でもここはゲームだよ?」
「ログインしている限り、私たちはここの世界の人間と同義だ。もっと考えてからやれ」
「考えたんだよ。お願い信じて!」

 アキラはNightの目を見て強く訴えかけた。
 アキラの目は真剣そのもので強い芯を持っていた。
 こちらの言葉には耳も課さず、何か確信を抱いているような節すらある。
 けれどまだ一押しが足りずに悩んでいるような、そんな印象だった。
 そこでNightはツルハシを渡し、背中を押してやることにした。

「わかった。だが慎重にやれよ」
「ありがとうNight。よーし、じゃあ一発やってみよっかな!」

 そう思ってアキラはツルハシを肩に掛けると、二層構造の床がお目見えした場所に立った。
 それから思いっきりツルハシを掲げると、振り下ろして床をぶち開けた。

「お前何してるんだぁ!」
「えっ?」

 アキラはNightから罵声を浴びた。けれど何も悪いことをしていないと思っているのか、アキラが動じることはない。
 それどころかさらにツルハシを叩きつけ、穴を大きく広げていく。

「おい、アキラ。お前は何をしているんだ。こんなことをすれば遺跡が……」
「何してるのアキラ?」

 そこにやって来たのはフェルノだった。
 アキラがツルハシを叩きつけている姿を見ていたフェルノは事情を知ると、アキラの代わりにツルハシを握り思い切り叩きつける。
 鋭い金属の一撃が加わり、床がボロボロと崩れていく。
 完全に穴開きになったところで、Nightも諦めが付いたのか、「もういい。好きにやれ」と投げやりになって、2人を見守っていた。

「よいしょーよいしょっ!」
「せーのっ、うわぁ!」
「どうした、フェルノ!」

 2人は必死にツルハシを使って穴を広げていたが、フェルノが高い声を上げた。
 自分たちが開けた穴は小さいものだったが、不意に転んで落ちそうになった。
 底がどうなっているかわからないのに落ちるのは危険すぎる。

「危ない危ない。危く落ちるとこだったよ」
「でも何だか下は続いていそうだよ?」
「本当か。まさか二層構造の床は偽物フェイクでツルハシで壊すことが正規ルートだったわけか。すまない」

 Nightは自分の甘さを卑下して2人に怒ったことを誤った。
 けれどアキラもフェルノも気にしている様子はないのですぐに気を取り直すと、ツルハシを叩きつける。

「もう少し。もう少しでっ……うわぁ!」
「ちょっとアキラ危ないって。ってこっちも崩れるの!」

 アキラとフェルノは自分たちが開けた穴が広がってしまい、バランスを崩してしまった。
 不安定になった体勢を流石の体幹でも支えることはできずに落っこちてしまう。
 いち早く察知したNightは長めのロープを作り出すと、2人を助けるためにロープを投げ込んだ。

「おい、掴まれ!」
「ありがとNight……アキラも私の腕に掴まって」

 アキラはフェルノの腕を掴んだ。
 しかし掴んだ途端にNightが振ってきた。

「ちょっと何でNightが落っこちてるの!」
「私の筋力で支えられると思うな。安心しろ、ロープは固定してきた」
「固定してきたじゃないよ。ごめんフェルノ。私先降りるね」
「ちょっと待て。今、ネットを作る……」
「ごめん。もう降りてきちゃった」
「私もー」
「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 アキラたちは真っ逆さまに穴の中に落ちてしまった。
 その声を聞いていた雷斬とベルはアキラたちがいないことを確認すると、首を捻ってしまった。

「どこに行ったのでしょうか?」
「もしかしてこの穴の中に落ちたとかないわよね?」

 そのまさかだった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...