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◇138 【ユニゾンハート】

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 【ユニゾンハート】はアキラの奥の手だ。
 だけど今だにどんな効果があるのかよくわかっていない。
 この間龍と会話をした時、初めて覚醒したのは【ユニゾンハート】:【ユニゾンコール】だけだった。この能力は直接攻撃にならない。
 だから他に攻撃方法があるはずだ。

「みんなの想いを受けて強くなる……龍の声を聞くだけじゃない。ってことは……」

 いざ飛び出したはいいがアキラには作戦がない。
 さっぱり能力の意図が掴めない中、リザードマンの男達はアキラを見つけると血眼になった。

「てめえは絶対に許さねえ。俺達をこけにした報いだ!」
「死ねっ!」

 ヘドロ男が両腕から黒い鞭のようなものを発射した。
 アキラにもの凄いスピードで迫り、逃げるタイミングを失った。
 直撃すればただでは済まない。しかしアキラは信じていた。みんなの想いを受けること。その受け取り方を考える。

「私の【キメラハント】は能力を奪うこと。だけど【ユニゾンハート】は想いの強さ。想い……キメラ。そっか、フェルノ能力を貸して!」
「えっ!?」

 アキラの腕が竜に変わった。メラメラと音を立てて燃えており、迫る黒い鞭を掴んだ。
 一瞬にして燃え尽き、ボロボロになって消滅する。

「な、何だコイツ!」

 ヘドロ男は自分の固有スキルを燃やされて動揺した。
 本来なら一度掴んだ相手は逃がさない。そのまま引き寄せて串刺しにしようという魂胆が無に帰する。
 けれどアキラは何が起こったのかわからなかった。
 急に発現した能力はまるで……

「凄い。本当にフェルノの能力が……って、なんでフェルノも能力を使っているの!」
「わかんないよー。急に発動したくなったんだからさー」
「でもなんか違くないか?」

 アキラとフェルノの腕が全く同じ能力で武装されていた。
 しかも通常時よりもかなり強力な炎を出しており、種族スキルの【吸炎竜化】と固有スキルの【熱量吸収】が組み合わされたようだった。

「凄い。これなら……ん?」
「どうした、アキラ? 何か不調か」
「ううん。何でもないんだけど……このタイマーは何?」

 ふと視線を横切ると、腕に電子時計のような表示がされている。どうやらタイマーのようで10分から1秒ずつ削れている。
 どうやらこれはアキラにだけ見えているようだ。
 もしかしたらこの能力が使える制限時間なのではないかと、アキラなりに推測した。つまり短期決戦になる。

「本当に奥の手何だね。よーし! 全力で叩き潰すよ」

 アキラは両の手のひらでヘドロに触れた。
 メラメラと炎が放出され、ヘドロがどんどん除去されていく。
 まるで崩れていくみたいに水分が蒸発し塊だけが残り、足で踏むと簡単に崩れてしまった。

「ふざけるなっ。よし、さっさとアイツを囲んで倒すぞ」
「そうだね。じゃあ僕が背後を取って」
「背後何て取らせないから」

 アキラは鳥男の前に現れた。
 フェルノがやって見せた炎を使って加速する動きを真似して素早く近づくと、拳を左頬に叩き込んだ。

「うがぁっ!」
「カラアゲ! この野郎。首が隙なんだよ」
「それも見えてる。私は対人戦の方が得意なんだよ」

 アキラはリザードマンの男が槍を突き出してきたので、カウンターパンチを繰り出した。
 顎にアッパーがクリンヒットして、口から痰を吐いた。
 まだHPは残っている。けれどMPの方が先に半分削られ、腹筋に右ストレートを叩き込むとMPが完全にゼロになってしまった。

「イグアがやられた。しかもMP切れ。ありえない。どうしてMPばっかり先に削れるんだ!」
「それは私にもわからないんだ。でもね、無関係のNPCやプレイヤーを襲う非道な連中に躊躇う気はないんだよね」

 アキラは拳をかち合わせた。
 炎がボフッと噴き上がり、焦げ付いた臭いを宙に散らす。
 残る1人となったヘドロ男は奥歯をガタガタと震わせていたが、今のアキラはどんな風に映っているのだろうか。
 目の奥には投資が宿り、その姿はまるで龍に取り付かれて偉大さをひけらかすようだった。
 だけどアキラがそのことに気が付くことはなく、【ユニゾンハート】で無双する時間はまだ続くのだった。
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