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◇129 ジャンプ力を奪え!

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 巨大なウサギだった。
 アキラ達は視線を向けられ、ギラリと赤い瞳に凝視された。
 存在自体を認識されてしまった。
 つまりここにいること自体が危険だ。けれど危ないと認識できるのに、逃げられない。凄まじい魔力を秘めていた。

「おい、逃げるぞ!」
「そうしたいけど……ってきたぁ!」

 ダメだ、逃げ切れない。
 アキラは目を瞑って死を悟ったが、次の瞬間体がふわりと宙に浮いた。

「えっ!? 雷斬!」
「皆さん、気を確かに持ってください。あの目には魅了の効果がありますから」

 雷斬は視線を切っていた。
 隣にはベルがNightを連れて飛んでいる。あまりの瞬発力の速さに目を丸くするどころか、快感すらあった。

「凄い。2人とも凄い!」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、今はそんな場合じゃないでしょ。って、どんなジャンプ力なの」

 ベルは驚いていた。
 真下には全長3メートル近い大きさの白ウサギが睨みつけている。
 確かにすさまじいジャンプ力で、あと少し飛ぶのが遅れれば掴まっていた。

「あのウサギは見たことがないな。とりあえず白いウサギなのはわかった」
「もしかして満月だからかな?」
「そうだろうな。ここは一旦態勢を……」

 Nightの指示が間に合わない。すぐ目の前に白ウサギの拳が降りかかっていた。
 綺麗な右ストレートには殺気を模した圧力を感じ、Nightは呼吸も定まっていないままあらかじめ用意していた奥の手を使う。

 バンッ!

 黒い煙が上がった。
 ナイフの柄に爆弾が付いていて、白ウサギの体に突き刺した瞬間爆発した。
 黒い煙を黙々と上げながら、白い毛が黒く染まる。まだ倒せそうにない。

「嘘だ! 爆発したんだよ」
「まあそうだろうな。おそらくレベルは50を超えている」
「レベル50超え! どうして私達はこんな強敵ばっかり」
「ベル、そんなことを言っている暇はありませんよ。すぐに射てください」
「わかっているわ」

 ベルは弓を射抜いた。
 すると白ウサギはベルの射た矢を弾き飛ばした。

「嘘でしょ。流石にそれはないわよ!」
「ベル一旦下がってください」
「いっくぞー、おりゃぁ!」

 フェルノは入れ替わりで飛び込んだ。白ウサギの腕を竜の拳で打ち付けるものの、簡単に防がれてしまう。
 本当にモンスターなのだろうか。まるで人間の骨格にモンスターの姿を張り付けたようだった。

「フェルノ、いける!」
「うーん、ちょっと無理かな。ってうわぁ!」

 フェルノの拳が弾き返された。動きに差がありすぎる。
 仮に人間が入っているとしても無理がある。何故なら違和感があるからだ。
 腕が異常に発達している。いや、足腰もおかしい。モンスターの体だけではなく、中身がおかしいのは人間にしては迷いがなさ過ぎた。人間の脳でも神経でもこんなことはできない。まるで高性能のAIを取り込んだ……

「うわぁ!」
「ボクシングのストレートじゃないか」

 アキラはNightと一緒に攻撃を回避した。
 その瞬間久々に抜いた剣を白ウサギの体毛に突き刺す。
 ダメージはほとんどないが、それでも大きく一歩だ。それにしても敵の動きが素早すぎる。

「アキラ、そっちダメ。このモンスターかなり切り返しのターンが早いよ」
「そっちもなの!」

 アキラは背後から攻撃を食らった。
 背中にかけてダメージが酷い。全身を軋むような鋭い痛みが走るものの、今ので何か掴めた気がする。
 Nightもそのことに気が付いたのか、アキラに向かって叫んだ。

「アキラじゃ無理だ。けど、そいつも力を奪え!」
「わかっているよそんなこと。だから私も奪う!」

 アキラは逃げるのを止めた。
 体を急転換してきびすを返し、【甲蟲】で叩きつけた。
 狙うのは拳じゃない。欲しいのは脚だ。

「その脚力のバネ、私が貰うよ!」

 狙いは白ウサギの足腰だった。あれだけのジャンプ力を奪えれば、フェルノと一緒にトリッキーな動きができるはず。
 だから倒さなくてもよかった。とにかく狙いはあの脚だと心に決めて、強く願った。

「あのジャンプ力を奪いたい!」
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