VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
126 / 599

◇126 ウサギ病

しおりを挟む
 小雪に連れられやって来たのは、村長の家だった。
 一際大きな平屋の家で、ここも静かだった。
 小雪はゆっくりと扉を開くと、やはり静かだった。

「少し待っていてください」

 小雪は村長の家に上がり込んだ。
 するとNightは違和感を感じ取った。
 アキラやフェルノ、雷斬にベルもおびただしい人の気配に飲まれそうだった。

「うわぁ! ここ人が集まっているよ」
「絶対に危ないよ。どれだけ人がいるのかわからないもん」
「おそらく村の人全員ですね。それにしても静かです」
「確かのそうよね。Nightはどう思うの」
「どうも思わない。静かなだけだ」

 えらく淡白だった。けれど何か察しがついているようで、もう一度用紙を見た。
 そこには今回の季節限定イベントのことが書いてある。
 何度も流し目し、Nightは表情を歪めた。

「お待たせしました。村長を連れて参りました」
「小雪さん。どうもありがとうござ……えっ!?」

 悲鳴を上げてしまった。
 村長さんの肌が真っ白だった。しかも頭からウサギの耳を生やしている。
 あまりに奇妙で継ぎ接ぎの絆パッチワーク・フレンズの面々は顔を引き攣らせる。

「そんな顔をしないでください。と申しています」

 村長さんは腰を曲げた男の人だった。
 けれど自分からは話そうとせず、小雪に耳打ちする。まるで通訳だ。
 小雪は耳を傾けるが、人間の耳の位置ではありえない。

「小雪さん?」
「すみません。もう少し、声を落としてはいただけませんか? 私は進行が遅いですが、流石に耳が痛いのです」
「進行が遅い?」

 アキラ達は首を捻った。
 小雪は「見て貰った方がわかりやすい」と告げ。頭の頭巾を剥がす。
 ウサギの耳が生えていた。だけどまだ白くない。これは一体何なのか。

「小雪さんこれは!」
「この村の人々は皆、同じ病に侵されているんです。そのことをギルド会館に伝えたものの、一向に……」

 どうやら、この季節限定イベントはいわゆる緊急依頼のようだった。
 誰の受けないんではない。怪しんでいたらしい。
 そこにまんまと飛び込んだアキラ達は断れない状況に迫られていた。
 もっとも……

「この病はウサギ病と言って、あるモンスターの仕業何です」
「酷い。そんなことする何て」

 空気が重くなった。
 病気の人の話をするときは、みんなこんな空気に代わる。
 だけどアキラは諦めてはいなかった。
 空気をぶち壊しに行く。

「ねえみんな、私何とかしてあげたい」
「何とかってなんだ。もっとはっきりと言え」
「病気を治してあげたい。だから協力して」

 どのみちこの依頼を引き受けたのなら、何かしら解決の余地がある事案だ。
 となるとこのままイベントを進めた方がいいに決まっている。
 すると小雪は村長から伝言を受け、アキラ達に説明した。

「ありがとうございます。ですが相手はとても危険なモンスターですよ」
「やっぱりモンスターの仕業か。ウサギ系だな」
「はい。満月山には古くから、白いウサギが棲まうという伝説があるそうです。篠月の刻、丑三つ時の頂上にて白き獣が踊る」
「仰々しすぎない。しかも丑三つって……」
「多分現実のだよね」

 丑三つ時となると夜中の2時ごろだ。
 その時間まで起きているのは次の日が学校だと厳しい。
 とは言え、このイベントはゲリラ的に開始されたので影が薄く、これ以上誰かがやって来るとは思えない。この世界のNPC達は生きている。ただのNPCではなく自分の意思を持っているのだ。

「このままじゃ病気が治らないよね」
「そうだろうな。最悪この村は消滅する」
「それはすなわち、この世界で獲得できるアイテムの数も減るということですね」
「そうなるな」

 ここが面倒ポイント。
 滅多にプレイヤーが村を見殺さないのは、自分達の首を絞めるからだ。
 そのためこの手のイベントには率先して参加する紳士プレイヤーもいるはずだが、今回は生憎と手が回っていなかった。

「仕方ないか。わかった、この村を助けるぞ」

 Nightも了承し、継ぎ接ぎの絆メンバーは動き出した。
 まずは深夜になるのを待つのかと思いきや、小雪はアキラ達を待たせる。
 どうやらこのイベントはあるアイテムがなければ条件は整わなず、永遠に思考しないらしく、NPCの誰かがそのアイテムを譲渡してくれる。そんな仕様だった。

「皆さん待ってください。……これを持って行ってください」
「これは何ですか?」
「笹の葉のようですね」

 手渡されたのは、ふっくらと盛り上がった笹の葉だった。
 隙間から覗き込むと、中に包まれていたのは白いお月見団子だった。
 中身は何も詰まっていないようで、餡のような甘みはない。
 小雪が言うにはこの団子を備えないとモンスターは現れないらしい。闇雲にやらなくて正解だと、胸を撫で下ろした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

処理中です...