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◇109 ゴールデンデストロイコーカサスオオカブト

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 森の中を直進した。
 最後の罠が見えてくる。ここには何もいない。
 どうやら外れの木を選んでしまったみたいで、まだ間に合う。

「アキラ、これからどうするの?」
「この蜜を塗ってみようと思って」
「それってソウラから託された蜜だよね? 結局何に使うのかわからなかった」
「でもこの蜜には意味があるんだよ。ほら、嗅いでみて」
「どれどれー。何これ!?」

 フェルノが飛びあがった。
 蜜の匂いがとんでもなく甘くて、吐きそうになった。
 確かに甘すぎる。マンゴーを何百倍にまで煮詰めたような強烈な甘みには仄かさがある。

「これって黒蜜だよね? にしても甘すぎないかなー」
「そうなんだよね。この蜜が甘すぎて、並大抵の虫は寄り付かないよ」

 近づいただけで飲み込まれそうになる。
 だけど筆を使って木の表面に重ねた。
 最初に塗られた黄色の蜜に黒い蜜が乗り、綺麗な色を出す。
 きっと虫にとっては美味しいはずだ。何せ2人がいるにもかかわらず、虫が寄ってくる。

「うわぁ!」
「クワガタがやって来たけど……あれ?」

 フェルノは首を捻った。
 クワガタが飛んできたのに蜜に近づくとパタリとひっくり返ってしまった。
 どうやら強すぎる匂いのせいで近づくこともできないらしい。

「これって強力な殺虫効果があるのかな?」
「殺虫効果?」
「うん。多分このクワガタ、アルコールで気絶しちゃったんだよ」

 この蜜の中にはアルコールが入っている。
 しかもソウラさんが扱いに困るレベルの酒だ。
 あの酒の匂いは強烈で正直アキラでも強い酒の匂いに慣れていなければ、そく気絶していたかもしれない。それぐらい強烈な芳醇な香りが爆発していた。

「こんなの人間が飲んだら危ないよね?」
「うん。多分糖尿病になるかも。後は酒が強すぎて気絶はするかも」
「そんなの誰が作ったのさー!」
「知らないよ。……ちょっと待って?」

 とてつもない嫌な予感がした。
 アキラは耳を澄まして周囲の羽音を聞く。フェルノも背後から爆音のように響く羽音を耳障りに感じ、酷く動揺する。人を不安にさせるような音色だった。

「アキラ、この音って……」
「何かが近づいて来てるみたい。逃げよう、フェルノ!」
「そうと決まれば善は急げ。ぶっ飛ばしてブーストするよ!」

 正直流れだった。
 アキラはフェルノに抱きかかえられ、その場から一気に身を引く。
 羽音がすぐそこまで来ていた。
 一瞬でも判断が遅れれば貫かれてしまいそうな、鋭いナイフのような気配を感知する。
 アキラとフェルノは草むらの陰に飛び込み、すぐさま振り返ると金色の何かが本来の石とは反して剛速球ボールのように飛んできた。

 バキバキキッ!

 太い木の幹に亀裂が混じる。
 2人は瞬きをして夢だと思った。けれど本当だった。
 木の幹には金色に覆われたカブトムシがくっ付いていた。

「これがカブトムシ?」
「金色だね。オウゴンオニクワガタみたい」
「でもカブトムシだよ。アルビノでもない……これがデストロイ」

 確かにゴールデンでデストロイな破壊力だった。
 本当にカブトムシのパワーなのかと疑いたくなるが、その前に虫かごの中に入るのか。
 しかも今は大人しく蜜を吸っていて、触るのが怖くなる。

「と、とりあえず捕まえるよ」
「そうだねー。それじゃあ行くよ」

 フェルノは竜の手で捕まえに掛かる。
 しかし意外に大人しく、重さもそこまでだった。流石にアクティオンやエレファス? とかに比べたらそうでもないらしい。
 ちなみにNightから聞いていたことで、今回の約束は何だかあっさりしていた。あまりにあっさりしすぎていて骨がない。
 2人はこれでいいのかと困惑してしまったが、虫かごの中には大人しく蜜をゆっくりと啜るカブトムシがいた。ちょっと可愛いのが何だか憎めない。

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