上 下
107 / 559

◇107 謎の声は龍の声

しおりを挟む
 無意識化でスキルを使った。
 こんなことができるなんて、このゲームは本当に脳波とリンクしている。
 アキラは深いことはわからなかったが、気が付けば無限の宇宙の中にいた。ここは深層心理の部分だ。

「ここは……」
「ここは心理の部屋。人の心の中に存在する自分だけのパーソナルスペースです」
「パーソナルスペース?」
「そうです。このゲームには特定の脳波や心の調和を持つ人がたまに入ることのできる空間があるんです。それがこの心理の部屋。アキラは、【ユニゾンハート】でこの空間に自由に入ることができるんですよ」

 なるほど、これで今までベールに包まれていた謎のスキルの正体が解けた。
 【キメラハント】が相手の能力を奪うものなら、この【ユニゾンハート】は何に使うのか。正直今まで存在そのものを忘れていたが、特定の行動に必要だったとは思いもよらない。
 だけどそこまで便利でもない気がしたが、使いどころがないだけでわかっただけ御の字と言える。
 アキラは1人納得したが、この声は何処から聞こえているのだろうか。
 すると声の主が普通に正体を明かしてくれた。

「私はこの世界のものです。いわばAIですね」
「AIって、急にプログラムってことに引き戻すんだね」
「当然です。それに今はアキラのスキルですから」
「はい?」

 頭の中で処理が追い付かなくなる。
 私は高性能CPUじゃないので少し時間がかかった。
 しかしどうしてこんなところにAIがいるのか。
 アキラは、自分が何か良くないことを引き起こしたのではと焦りを見せる。
 けれどこの声の主は否定した。 

「飲みましたよね」
「飲んだって何を?」
「水です」
「水? そんなの普段から飲んでいるけど」

 屁理屈みたいに聞こえただろうが、アキラは首を捻る。
 すると声の主は水を限定化した。

「霊龍の泉の水を飲みましたよね」
「う、うん。噂の真相が知りたくて」
「あの水はプログラムのコードが眠っているんです。効力を及ぼせるのは、取り込んで奪うことができてかつ心理の部屋を持っている人だけですよ」

 何だか限定しすぎじゃないだろうか。
 しかし待てよ。効力を及ぼすのは水を取り込んで、奪うことができる人だけ?
 『奪う』のパワーワードが気になって仕方なかったが、どうしてか自分を重ねてしまった。

「それって【キメラハント】のこと?」
「そうですね。待ちわびていました」
「あはは、まるで奪われるのを心待ちにしていたみたいだよ」
「そうですね。……本当に似ている」

 何が似ているのか。
 このゲームの開発者さんにでも似ているのかな。
 自分で自分のことをAIだと認識しているのがその証拠だ。

「もしかしてじゃなくて、あの石板に触れたから声が聞こえるようになったとして、私がスキルを持っているの?」
「はい。既にスキルとして取り込まれているはずです」
「怖っ! 怖すぎるよ」

 自分がバグるんじゃないかと不安になった。
 何だか都市伝説じみたことを思い起こして怖くなる。
 しかし声の主は「大丈夫です、貴女は正真正銘、人間ですから」と言ってくれた。
 よくわからない。もしかして私は……とか思ってしまうアキラだが、AIは伝える。

「アキラ、貴女はAIではないですがスキルとして取り込んでも問題ない体と精神をしているんですよ。いざとなれば、【ユニゾンハート】に託してみましょう」
「意味がわからないけど、留めておくよ」
「そうしてください……そろそろ時間ですね」

 唐突すぎる。アキラは何も確信できないまま、急に投げ出された。
 そのまま気が付けば心配した顔色を見せる雷斬とベルの姿がある。
 指が石板から離れていた。

「2人とも……」
「大丈夫ですか? 突然固まってしまって」
「声を掛けても返事がないからびっくりしたわよ。5分くらいだったけどね」

 アキラは5分間も固まっていた。
 つまりあの時間はたったの5分だったことになる。
 冷汗が出てきた。体が身震いしてしまい、気が付けばその場から立ち上がる。
 急いでここを離れたくて仕方がない。

「ごめん、今日は帰ろう」
「それはいいけど、何かあったの?」
「う、うん。ちょっと不気味で」

 ベルは心配してくれた。
 アキラは雷斬に手を引かれてその場を後にする。
 ここに来るのはもう少し後になりそうだが、すでに運命を掴み取るチャンスは動き出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...