VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
104 / 596

◇104 意外と堅実なベル

しおりを挟む
 アキラたちは早速森の中に踏み出すことにする。
 これと言った入り口もなく、何処から入れまでいいかわからないので、適当に獣道を進むことになった。

「獣道ができているね。もしかしてモンスターがいるのかな?」
「どうかしらね。私が1人で的当ての練習をしていた時も、モンスターの影も形もなかったけど」
「それはまだ入り口だからだよ。とにかく、奥の方まで行ってみないと」

 アキラは前向きだった。
 モンスターもいない平和な島の中だ。
 獣道ができることがそう易々とあるだろうか?

「アキラさん、はしゃぐのはいいですが警戒は怠らないでくださいね」
「うん。私は警戒を怠るなんてしないよ」

 今はNightがいなので、全員が目となり耳となる。
 それを裏返すように、アキラは【キメラハント】で奪った【灰爪】をギラリと光らす。

「これでも油断はしてないんだよ」
「……ちょっと、それは怖すぎでしょ」

 ベルが苦い表情を浮かべ、唇を曲げる。
 しかし雷斬は「流石です」と言って褒めてくれる。
 対照的な2人だけど、揃えば百人力だ。

「それじゃあ出発!」
「おー」

 雷斬は乗ってくれた。
 子供の教育テレビのお兄さんお姉さんみたいなはきはきとした掛け声だった。
 しかしベルは何も言わなかった。乗って来ると思ったが、プライドがあるのかもしれない。


 何処まで行っても森。
 ずっと続くのは綺麗な緑の深い葉達だ。
 天然の葉っぱカーテンに守られながら、獣道を進んでいく。ここまでずっと真っ直ぐだった。

「何にもないね」
「そうね。うーん、やっぱりモンスターなんていないのかしら?」
「どうでしょうか。確かに今のところ悪意を持った存在の気配は感じませんが、生物の気配はしますよ。微弱ですが」

 凄い。どうしてわかるんだろう。
 アキラは気になって雷斬に尋ねる。

「どうしてそんなことがわかるの?」
「私の種族が雷獣だからです。このように、【雷鳴はしれ】」

 指先から青白い稲妻が上がる。
 ビリビリと音を立てると木々たちの幹を貫通して、遠くの方まで飛んでいく。
 なるほど、《雷獣》の種族スキルを巧みに使用し、生体電気を感知しているんだ。
 四六時中常にできるのは凄まじい忍耐力だとアキラは思った。それと同時に、剣士らしくない用意周到性がある。
 頼りになるから別に構わないんだけど。

「それにベルだって、帰り道に事を気にしてくれていますよね」
「そうなの!」

 アキラはベルの方に視線を配る。
 すると後ろの木に×印がされていた。
 深くナイフで切られたみたいな痕がある。

「これってベルがやったの?」
「そうよ。だって帰れないと困るでしょ?」

 今のところその雰囲気はまるで感じないが、もし入り組んだ道となると話しは変わる。
 目印の有無は生還率を左右すると、アキラは母親から聞いたことがある。
 どうしてそんなことを教えられたのかはいまだに謎だが、多分サバイバル番組が多かったからだ。
 不意にベルは持っていたナイフを隠すと、照れくさそうにする。

「私、基本1人が好きだから。こんなこともあろうかと、準備はしているのよね」
「用意周到でいいと思うよ。私は真似してみよう、えいっ!」

 【灰爪】で幹を切りつけた。
 すると木の表面が痛んでしまう。アキラは絶句して落ち込んだ。
 大切な森の木を傷つけてしまったんだ。

「ご、ごめんね」
「大丈夫ですよアキラさん」
「えっ?」

 雷斬は瞬時にアキラの肩を持つ。
 見れば木の表面に付けた傷は確かに樹皮をはぎ取ってしまうが、しっかりと遠めから見てもわかる目印になった。

「これだけ大きいと誰が見てもわかるわね」
「それって、フォローになってるの?」
「さあね、でもやってことに後悔してても仕方ないでしょ?」

 何だろう。ベルが大人っぽく見えたアキラ。
 気にしていても仕方ないか、確かにそれもそうかもと意識を切り替える。
 これぐらいみんなが意識を転換できれば、きっともっと楽に生きられるんだろうけどと皮肉を吐きそうになった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...