VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に！？

◇１０１ 的当ての練習

　　ギルドホームのある島の中。
　ホームの表には崖があり、その先には綺麗な海が見える。まだ一度も入っていないが、波も高くなく常夏だ。
対して裏側には広大な森が広がっている。
少し小高い山のようなものも見える中、そうホームから遠くない場所で少女が１人弓を構える。

「ふぅー」

　息を整え集中する。
　無風の中、少し蒸し暑い森の中で弓の弦を引く指先にも変な力を加えない。
　焦りは禁物だ。
　５メートルと、少し遠く離れた場所には手作りの的が置かれている。
　木の枝に吊るされていて、少しでも風があればひっくり返ってしまいそうだった。

「行けっ」

　指を離した。
　弓の弦が指の圧力から解き放たれた瞬間、体が微差だが動きそうになる。
　けれど少女、ベルは体を動かすことなく視線の先も動かさないで矢を放った。

「１００パーセント命中間違いなし」

　パンッ！

　的のど真ん中を射抜いた。
　けたたましい破裂音を奏でながら、的が粉々になる。
　別に特殊な鏃を使ったわけでも、無駄な力を加えたわけでもない。
　ベルが射た矢は無駄な力が全くかからなかったため、本来のポテンシャルを発揮してくれた。

「完璧。流石に練習した甲斐があったわね」

　自分で自分を褒め称えた。
　すると草むらの陰からガサゴソと音がする。
　ベルは音の下方向に注意を払った。

「誰！」
「ごめん私」

　そこから出てきたのはアキラだった。
　手には虫取り網が握られている。
　今日は１人らしく、ベルは首を捻った。

「あれ？　Nightとフェルノは？」
「今日は一緒じゃないよ。それにベルさんも雷斬は？」
「ログインは確認したわよ。そ・れ・と、私にだけ「さん」は無しよ。アキラ」
「じゃあベルでいいのかな？」
「いいに決まっているわ」

　アキラは了解を貰い、ベルにコクコクと首を縦に振る。
　その間も黙々と作業を続けるベル。
　するとメッセージをいつの間に送ったのか、雷斬からメッセージが返ってきた。

「こっちに来るみたい。それよりアキラ、その虫取り網はなに？」
「これですか？　この森何かいないのかと思って」
「この森ね。確かに違和感はあるわ。だって何にもいないんだもん」
「むしろ怖いよね」

　アキラはそう思った。
　けれどベルも同感らしく、弓を下ろして腕を組んだ。

「私が練習している間も何もなかったわね」
「何も？　って、ずっと練習してたんだ」
「もちろん。私、これくらいしかしていないから」

　とは言え、これくらいの域を超えていた。
　アキラは粉々になった的を拾い上げてみると、確かにど真ん中からピッキリ割れている。
　落ちていた破片を見つけると、拾い集めて繋げてみた。

「うわぁ、本当に「これくらい」のレベルなの？」
「これくらいはこれくらいよ。それに雷斬も似たようなことができるはね」
「似たようって……あぁ、的を切るんですね」
「ううん、石」

　愕然としてしまった。
　アキラは瞬きをしてしまい、「もしかしたら」なんて考えてしまう。
　けれどベルは笑いながら、

「こっちでの話よ」
「だ、だよね」
「ちょっとだったらできるけど」

　そんなファンタジーなことを言わないで欲しい。
　いや待って。確か前にNightが言っていたはずだ。
　今の時代、理論を構築して叩き込めば不可能はない。例えば不老不死だって可能だ。とか豪語していたことを思い出す。
　雷斬とベルの技も、体に染み付いた経験と振動波の流れを読み取れば可能らしい。
　全く個性的で凄すぎるよ。アキラは溜息が混じった。

「アキラも大概な気がするけどね」
「私が？　どの辺が」
「うーん、どう説明したらいいのかわからないけど、人間離れした意識の変換とか？」
「それって個性なのかな？」

　とは言え否定はそこまでだ。
　ベルと話し込んだアキラだったが、先に話を片付けた。
　そうこうしているとホームの方に雷斬がやって来る。２人はホームの中に戻ってみた。