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◇83 古代トンボモチーフ

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  ギュィーン!
 ギュイーン!

 バイクのエンジン音のような、鋭くて破裂的な音が耳をつんざく。
 けたたましくてうるさい。
 頭が壊れそうになって、身動きがまともに取れなくなる。

 アキラたちはそんな相手の潜む森の中にいた。

「うっ、うるさい」
「だから耳栓を付けろと言ったんだ」
「だ、だって。流石にこれだけうるさいなんて……」

 アキラはNightに叱咤された。
 渡されていた耳栓を付けようにも、今更遅い。
 すでに耳の奥は、鳴りやまない音のバイブレーションで苦しかった。

「アキラ大丈夫?」
「う、うん。でも、これは酷いね。こんなのが町中にいたら……」
「窓ガラスは吹き飛ぶだろうな」

 衝撃波のビートが刻む。
 目を凝らしてみてみると、森の中に赤い点が窺えた。大きい。
 遠目から見ているのに、大きさは80センチ強。ホバリングしてそこに停滞しているが、無数の超高速回転で羽を揺らし続ける。

 本当にあれがトンボなのか。
 そう思ってもおかしくないレベルで、害悪だったが、アキラたちはあれを何とかするしかない。今回はそういう依頼で、ギルド設立後二度目となるまともな依頼だった。
 だから落としたくない。落としたくないんだけど……

「う、動けない」
「うるさすぎるな。これ以上近づけば、耳が破壊される」
「確かに、この距離では私たちの攻撃は届きませんね」

 雷斬の言っていることはもっともだ。
 アキラもフェルノも苦汁をなめるが、一番悲しいのは雷斬だった。何せ、刀の長さじゃどうにもならない。
 それぐらい敵は離れている。大体10メートル? 流石に攻撃は届かない。
 NightもNightで試行錯誤を繰り返してくれる。

「【ライフ・オブ・メイク】!」

 Nightの手の中にナイフが生まれる。
 お得意の武器だ。使い慣れているので、投げつけてみるがちゃんと届いた。だけど金属部分が少し振動してブレる。届いたは届いたが、当たることはなかった。

「くそっ。駄目か」
「駄目なんだ」

 次行こう。Nightは【ライフ・オブ・メイク】を使った。
 失ったHPをポーションで回復させながら、完全に流れ作業で検証していく。すると、ナイフではなく槍を作った。投げ槍って言うやつだ。

「フェルノ、これを投げてくれ」
「これを? 適当でいいんだよね?」

 受け取った投げ槍はかなり重いモデルだったみたい。
 一瞬持ってみたが、投げられる気はしない。けれどフェルノは、圧倒的なパワーで投げつけた。
 単純にパワーが、筋力パラメータがとっても高いんだ。

「フルパワーで投げでもいいの?」
「いや、敵に感知されると面倒だ。これ以上音が大きくなれば、流石に鼓膜が保たない」
「そっかー。じゃあこんぐらいかなー!」

 フェルノは槍を軽々投げた。普通じゃない。ここがゲームだからだと思いたいが、アキラには「現実でもできそうで怖い」と率直な感想を抱く。
 ぶっちゃけると、もしかしたらこれで倒せるかもと淡い期待を抱いていた。
 しかしそんな期待は泡に消えた。

 パシュッ!

 槍の先端が地面を貫く。
 木製も棒部分がしなりを上げ、惜しいけど届かなかった。トンボ型のモンスター、メガビートは羽音を無数の音域に変えて直接的には攻撃してこないが、4人に精神的ダメージを与えた。幸い、誰1人としてダウンはしない。しかし、これ以上何をしても埒が明かないのは目に見えている。
 苦渋の決断だが、Nightは真っ先に挙げた。

「撤退だ」
「撤退!」

 反論するようにアキラは声を上げる。
 しかし自分でもわかっていた。絶対に届かない。奥歯を噛んだアキラは、やがて溜息交じりに同意する。

「そうだね。ここは一回戻ろう」
「そうですね。この羽音の振動域から出れば、問題ないでしょうから」

 雷斬は冷静に答える。
 フェルノも否定することはなく賛同し、継ぎ接ぎの絆パッチワーク・フレンドは迷わず撤退したんだ。

 けれど1人、この状況を見て思うところがあった。
 「このパーティーには足りないですね」と口にする。
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