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◇74 トカゲ戦車

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  灼熱の砂の上に倒れ込んだNight。
 まさかあれだけ飲み物を持って来ていたのに熱中症になってしまったみたいだ。
 うつ伏せで思い切り倒れてしまい、起こしてみると顔が真っ赤になって、ゆでタコみたい。

「うわぁ、Nightの顔が真っ赤になってる」
「これってヤバいよね。とりあえずアキラ。インベントリから飲み物取り出して」

 フェルノは倒れたNightを抱き起して、アキラに指示を出した。
 アキラもアキラで、言われる前にインベントリからたくさんのボトルを取り出す。中には、冷たくて、キンキンに冷えた天然水のボトル。夏の暑さに抗うように、水滴混じりになったガラス面が喉の渇きを促した。三人は、走り過ぎて喉が異常に乾いている。

「アキラ、早く開けて。私が飲ませるから」
「うん。ちょっと待ってね……指が滑ってコルクが開かない」

 アキラは服の袖を指に巻き付けた。
 冷え切ったボトルが急に炎天下の晒されたことで、水分とボトル内の空気の密度により張り付いてしまったみたいだ。アキラは指が滑りなかなか開けられない。
 そんな中ようやくボトルを開けると、フェルノにボトルを差し出す。人肌で少しぬるくはなっているが、冷えすぎた水よりはいい。
 フェルノは受け取って、中の水が冷えすぎていないことを確認すると、Nightに飲ませた。それからごくごくと、喉の奥を鳴らしている。

「ぷはぁー!」

 Nightは満足げな笑みを浮かべた。
 幸いなことに意識はすぐに戻ってくる。それだけでほっと一息つくと、今度はレモン付けを取り出した。塩分と酸味で、失った栄養を回復させる作戦だ。運動部が昔から疲労回復のために作ってくるあれだ。

「Night、食べれる?」
「あ、ああ。……?」
「はい、これ」
「むぐっ!」

 アキラは口の中に放り込んだ。
 朦朧としてうつらうつらになるNightの目が急に見開かれる。それから薄切りにされたレモンの皮が喉に詰まったのか苦しそうな顔になるが、今度は自発的にボトルを奪うと、Nightは一気に飲み干した。

「ぐはぁっ。うぐ、はぁはぁはぁはぁ……」
「如何、Night?」
「もう平気―?」
「平気の前に殺す気か。危うく死にかけたぞ!」

 Nightは怒鳴りつけた。いつものNightだ。
 二人は安心し、如何やらもう熱中症ではないらしい。
 一時的なものだったみたいで、適切な処置を施したこととあくまでここがゲームの中と言う、ちょっとだけリアルにそぐわないポイントが働いてくれたみたいで安心する。これでやっと休めると、アキラたちは一口水を飲んだ。その直後だった……

「二人とも何やっているんだ。急いで逃げるぞ」
「なに言ってるの。もうダンシング・サボテンは追いかけてきてないよ」
「そうだよー。私たちもちょっと疲れたんだから、休ませてよねー」
「そんなことを言っている場合か。後ろを見ろ!」

 二人は何のことかと思い、後ろを振り返った。
 砂漠が広がっている。しかしその奥で陽炎が揺らめいた。ぼやぁーっと前進するみたいに、四角いものが見える。
 車じゃない。だけどこっちに向かってきているようだと気が付いたのはすぐのことだった。四角い何かには顔があった。しかも、機械のようでキャタピラが付いている。世界観の崩壊かと思った。

「な、なにあれ!」
「トカゲ? トカゲにキャタピラが付いてる。なんだか昔の特撮ものにあんな怪獣いなかったっけ?」
「トカゲ戦車。世界観からしたらば違いだろうが、あれも立派なこの世界の生物だ。その行軍速度はダンシング・サボテンの比じゃない。この世界にいる機械生命体の一種だ」

 そんなことを熱弁されても困る。
 今は何をするべきなのか。それを教えて欲しいとNightに尋ねた。
 Nightはふらつきながらもなんとか立ち上がり、今のレベル差を見て真っ当に当たれば勝てないこと。そして罠を張り巡らせることすら、この距離では難しいことを伝える。まさに絶体絶命。そこで切り出した最後の選択。それはすなわち……

「全速力で逃げる。流石にこの距離は無理だ」
「「で、ですよね」」

 戦車相手に人間が何の対策も武器もなく、真っ向から戦うなど、初めから無理な所業だ。
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