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◇32 もしかしてあの石のことですか?

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 アキラは呆然と立ち尽くしていた。
 モンスターが人間の言葉を喋ったんだ。でも当然か、だってここは現実でも異世界でもない。そんな当たり障りもないような、混沌とした現実からは切り離された、ゲームの中なんだから、設定された言語で喋ってくれるのは当たり前だ。
 それに気になったのか、アキラはたどたどではあったが、モンスターに話しかけていた。

「返してって、何のこと? 私、あなたの持っていたもの、盗んじゃったかな?」
「返して。返して、私の大事なもの」
「大事なもの? それってなに?」
「お願い返して。私の命。私の宝物」

 命? かなり壮大な話のように聞こえるが、アキラには見当もつかないし、思い当たる節もない。
 しかしじっとモンスターを眺めていると、初めてこの森に入った際に見つけた青い火の玉を思い出した。そう言えば、さっきは見かけなかったけど。

「もしかして、これのこと?」

 アキラはインベントリから、勾玉を取り出す。綺麗な青色をした勾玉だ。
 この近くの森で手に入れた。
 初めてこの場所に来た日、Nightに出会った日。アキラは森の中で、青い火の玉に出会った。
 アキラはまるで怖がる様子はなかったけれど、その足元に落ちていたのが、この勾玉だ。
 火の玉が消えた後に、残っていたものがこれになる。

 何度見ても綺麗だ。
 アキラはうっとりしたが、モンスターはアキラが手にした勾玉を見ると、様子がおかしくなる。突然活発になって、手を出してきた。

「それ。私の宝物。返して」
「返して? うん、いいよ」

 アキラはすんなりモンスターに手渡した。
 するとモンスターは、勾玉を受け取ると大事そうにそっと胸に押し当てて両腕でがっちりホールドする。
 よっぽど大事だったに違いない。

 アキラはモンスターに返せたことを嬉しく思った。
 どうせ、私が持っていても意味はない。だから売ったりせず、取っておいたことも考慮して、ホッと胸を撫で下ろす。
 Nightは、そんな光景を不思議そうに後ろから眺めているが、何も言わない。
 言うことを憚られると感じていたからに違いない。
 Nightは思った以上に頭が良いかそれがわかる。

「よかったね」
「うん。よかった。本当に、よかった……」

 モンスターの姿が光になって消えそうになる。
 粒子が点に向かって消えていくのが目に見えた。如何やら、completeらしい。

 完全に敵意が消えていた。
 アキラもNightも警戒を解いて、完全に矛を収めると、モンスターの姿が美しい少女のような姿を取る。綺麗な長い髪だ。触れないのがもったいない。そう思ってしまう。

「ありがとう、返してくれて」
「ううん。そんなことないよ、持って行ったのは、私なんだから」
「ありがとう。本当に……だから」

 アキラの体がふわっとなった。
 少女に引き寄せられ、ハグをされた。まさかさっきまで触れもしなかったのに、触れるなんて。驚きすぎて声も出ない。

「だから代わりに、この力を上げる。使ってあげて、優しい勇者様」
「力? 勇者?」

 アキラは設定の渦に飲まれた。
 するとスキルを手に入れたらしい。

 固有スキル:【キメラハント】
『新しいスキルを継承しました。彷徨う少女:【幽体化】』

 スキルの詳細がいつもと違う。
 今までは、略奪だったものが、継承になっている。奪うんじゃなくて、譲り受けたような優しい気持ちになった。
 それからほどなくして、少女の霊はいなくなってしまった。
 何かしてあげられたかはわからない。だけど、アキラは何も言うことはなく、ただ一言Nightに提案した。

「返ろっか」
「そうだな。今日はもう気分が乗らない」

 二人は意見が一致した。
 今日はブルーな気分からハートフルな気分になっていた。だからあやふやな感情が込み上げて心を侵略していたのかもしれないが、アキラは気にしなかった。
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